マスター社員、ジョブ・リターン制…長期勤務を実現する「カインズ」の多様な人事制度
- 企業採用成功事例
目次
掲載企業DATA:株式会社カインズ
本社所在地 | 埼玉県本庄市早稲田の杜1-2-1 |
代表取締役会長 | 土屋嘉雄 |
代表取締役社長 | 土屋裕雅 |
設立年月日 | 1989年3月 |
事業内容 | ホームセンターチェーンの経営 |
01 働き方の多様性に応えるために人事制度を改革
入社して20年、商品部や店舗開発、店長などを歴任。5年前から人事部に配属。現在はグループマネジャーを務め人事制度改革に携わる松井氏。
24都道府県下に190店舗のホームセンター「カインズホーム」を展開する株式会社カインズ。従業員の働き方の多様性に応えるために人事制度を改革し、数年前から運用を開始している。意欲あるパートスタッフを正社員に登用する制度や、正社員が育児や家族の介護などを機に短時間勤務に雇用形態を変更できるなどの制度を導入。年間約10店舗という出店ペースで事業が拡大する中で、従業員の大半を占めるパートスタッフの戦力化や、能力の高い正社員の長期勤務実現を図り、優秀な人材を確保している。
これらの新しい人事制度は男女の区別があるものではないが、結婚や出産、育児など、女性のライフイベントを強く意識。これまで画一的だった雇用形態から、働く側の都合に合わせて選択できる制度になっているのが特徴だ。
「当初はお子さまが小さくてパートタイムで働いていたものの、お子さまが成長するにつれてもっと働きたいという方が増えてきました。カインズで働くことが大好きで、商品知識も豊富。さらに、お客さまにも顔と名前を覚えていただいているような技能や接客にも優れたパートスタッフのために、上のステージを用意することにしました」と、同社人事部人材開発グループでグループマネジャーを務める松井健氏は話す。
02 4つの柱からなる新人事制度
7年ほど前から“マスター社員”と呼ばれる雇用形態を導入したという同社。現場のパート・アルバイトをマネジメントする非正規雇用の上級職という位置づけで、現在(2013/12/25)では約250名が誕生している。また、さらにやる気のあるパートスタッフには正社員を目指してもらおうと、3年前からは正社員登用制度をはじめとした新しい人事制度もスタートした。
「会社を支えてくれる人たちに企業として報いたいという気持ちと、働くスタッフのモチベーションをもっともっと上げてもらっていい会社にしていきたい、そういう背景で始めた制度です」と松井氏。
その新しい人事制度は以下の4つの柱から成っている。
カインズホームの売り場の様子
●正社員登用制度
パートスタッフの経験や実績に応じてグレードを設定。その最上位である「マスター社員」の経験を2年以上積むと、人事部からの選抜を経て正社員登用試験を受験できる。これまで9名の正社員が誕生(2013/12/25現在)。
●社員区分変更制度
正社員の継続雇用を目的とした制度。働き方の多様性に応えるため、育児休業終了後に復帰する際、フルタイムの正社員ではなく短時間勤務のパート社員も選択できる。その後、一定の手続きを経てフルタイムの正社員に復帰する、パート社員のままでいるなど、都合に合わせて選択することが可能。
●ジョブ・リターン制度
結婚・出産・育児・介護を理由に退職した正社員をパートスタッフとして再雇用する制度。以前から個別には行われていたが、2年前に明確に制度化。
●勤務地変更申請制度
転居先に店舗や事業所がある場合(通勤時間約1時間圏内が目安)、転居先の店舗で働くことができる。配偶者の転勤で退職するパートスタッフが多かったことを考慮したもの。現在までに約10名がこの制度を利用しており、好評だという。
「正社員に登用されたスタッフからは、今までよりも責任が大きくなり、最初はとても苦労したと聞いています。それでも半年経てば、『正社員になって良かった』という声がありましたし、やりがいを感じていただいています。また、正社員1年目には、社長の話を直接聞く“フレッシュマン・トップセミナー”にも新卒採用者と一緒に参加しますので、いろいろな立場の人と関わることができ、『ネットワークが広がった』」という喜びもあるようです」
また、新卒の社員も「従業員を大切にしてくれる会社なんだ」と士気が上がり、刺激になっているという。
03 商品開発に参加することで経営参画への意識も
ほかにも、同社ではスタッフのモチベーションアップにつなげる取り組みをも実施している。例えば、来店客からお褒めの言葉をいただくなど、接客技術が認められたスタッフには「グッドサービス・バッジ」を配布している。また昨年からは、来店客にとって安全に、快適に、商品が選びやすくなっているか、カインズのサービス基準を満たしているかなど、「ストア・コンディション」を評価して、店舗ごとにアルバイトを含むスタッフ全員に報奨金を出す仕組みを設けた。
研修風景。さまざまな店舗のスタッフが共通の課題について話し合う
人材教育面では、非正規スタッフであっても社内の研修制度に参加して、商品知識や接客技術を身につける。そのほか、春と秋に本部で行われる商品展示会には全国から年間1万人の従業員が参加し、新作商品の説明会ではバイヤーに現場の意見をどんどんぶつけるなどして、商品開発にも参加しているという。
「例えば、炊事をするときのカバー付き手袋は水が入りにくいようにカバーを付けた人気のオリジナル商品です。これはパートの主婦ならではの声を取り入れて生まれたグッズです。IH調理器で使う土鍋も中が見えて使いやすいガラス蓋にするなど、たくさんのアイデアが採用されています」と松井氏は語る。
「スタッフの意見を吸い上げることによって、自分が経営に参画しているという意識でモチベーションを上げてもらうようにしています」
04 ハード、ソフト両面で安心して働ける環境づくり
同社が推し進める新しい人事制度はまだ始まったばかり。この制度によって、どのような成果があったかなど、長期的な検証などはこれからだという。
「実は、ジョブ・リターン制度自体を知らない従業員も多くいます。そのため、退職の手続きの中で申請書を送って案内をするなど、新制度を周知・浸透させていく必要があると思っています。また社員教育で利用するテキストも作成していますが、現場の声を反映させてより使いやすいものに改訂を行っています」と松井氏。
上越新幹線本庄早稲田駅に隣接する本部新社屋は2012年10月に完成。同社はオリジナル商品などの開発に力を入れていることでも知られているが、商品開発から販売までを一貫して行うSPA(製造小売業)体制に対応する機能を備えているのがこの新社屋なのだ。
例えば、大小さまざまな研修室では、毎月外部講師を招いてあらゆるセミナーを開催。毎月店長会議が行われるホールは約1,000名を収容する規模だ。こうしたハード面と制度・運営面の整備の両輪で、長期にわたって安心して働ける環境づくりがなされていることが、同社の成長を支えているといえる。