「辞めたい」という従業員を思いとどまらせる魔法の言葉 CNS株式会社 話し方研究所 会長 福田健
- お役立ちインタビュー
従業員から「辞めたいのですが」と相談があったとき、あなたはどのような対応をしていますか。優秀な人材を手放してしまうのは会社として大きな損失だと思いつつも、手立てがなくそのまま承諾してしまった、もしくは引き留めようと長時間説得してみたものの、結局その従業員は辞めてしまった、などといった苦い経験はありませんか。今回はこうした「辞めたい」と言う従業員を思いとどまらせるのに有効な“言葉”と対応について、CNS株式会社話し方研究所の会長・福田健氏に伺いました。
目次
「辞めたい」と言われた時の最初の言葉
「ここを辞めたいんです」
突然、アルバイト・パートの従業員がそう言ってきたとき、あなたならどう反応するでしょうか。その従業員が強力な戦力であれば、何とか引き留めたいと思うでしょう。ちょうど繁忙期に当たる時期であれば、欠員が出ることに焦るかもしれません。
そこで、まずは「辞めたい」と言われた時の最初の受け答えから、言ってはいけない言葉を「NG」、引き留めの助けとなる言葉を「OK」として、具体的な対処例を紹介していきましょう。
まずやりがちなのが、「辞められたら困る」という気持ちが焦りになり、理由を聞かずに、こちらの勝手な解釈や思い込みでつい発言してしまうケースです。
また、すぐに説得して引き留めようとしたり、「何とかもう少し勤めてほしい」と哀願したりするのも逆効果になることが多いです。
引き留めるかどうかを判断する前に、まずは真意を把握するために従業員の話を聞くようにしましょう。実際「これはやむを得ない」と思う事情を抱えている場合もありますし、反対に、こちらの対処次第で引き続き働いてくれる場合も大いにあります。話を聞くときには、「この人はダメだ」などと内心で勝手な評価を下さず、素直な気持ちで相手の言うことに耳を傾けることがポイントです。
説得して自分の思い通りにするのではなく、相手のことをよく知ったうえで、相手に合ったメッセージを発信していく。それがコミュニケーションです。アルバイト・パートも一人ひとり違った人格を持っています。そのことを認識し、その人が何を思って「辞めたい」と言い出しているのか、話を聞いて知ろうとする姿勢が何よりも大事です。
「辞めたい」理由を聞き出すための言葉
一口に話を聞くといっても、話し手の不安と警戒心を取り除かないと本心は聞けません。そのため、適切な時間と場所を考え、従業員が「辞めたい」理由をリラックスして話せる状況を作るよう心がけましょう。他の従業員の往来があってザワザワしていたり、お客の目があったりする場所では落ち着いて話せません。
また「辞めたい」と言ったものの、なかなか理由を言い出そうとしない従業員もいるでしょう。忙しい仕事の合間に話を聞こうとすると、聞く側に気持ちの余裕がなく知らず知らず急かしてしまうことがあります。これも要注意です。
仕事終了後に別室で聞くなど、しっかり時間と場所を確保し、「ゆっくり話せばいい」という姿勢で臨むようにしましょう。
辞めたい理由別に見た掛けるべき言葉
では、ここからはケース別に、「辞めたい」という従業員に対して、上に立つ者としてどう対処すればいいか考えていきましょう。
ケース1:上司や先輩が指示してくれないという不満から辞めたい
この例のように、まずは気づかなかったことを詫びるところがポイントです。これは意外と簡単なことのようで、やっていない人が多いのではないでしょうか。そのうえで、店長や上司の指示に問題があるときは、改善の手立てを講じることを伝えます。自分たちが変わろうとする姿勢を見せることが大切なのです。
上司に話しづらいと思っている従業員もいるでしょうから、次のような一言で「聞いてもいいんだ」という安心感をもってもらうことも有効でしょう。
ただ、その従業員の態度や言い方そのものに問題がある場合もあります。例えば、社員がものすごく忙しく余裕がないときに唐突に話しかけたりしているケース。こういう場合は、きちんと指摘することも実は大事なことです。
「私も悪かったけれど、これからは相手に何か意見を言いたいときは、その時の相手の状況を考えてごらん。そうすれば、君自身も仕事しやすくなると思うし、これはどこへ行っても共通することだから」とアドバイスしてあげる。
現代は、本当の意味での“人とのいい関係”が不足している時代だと思います。だからこそ、特にまだ若い学生などには、「こうしたほうがいいよ」と見守るような気持ちで言ってあげること、その場で失礼なことを言ったら「それは失礼だよ」とはっきり言ってやることも必要だと思います。また最近は、繊細でありながら同時に鈍感なところがある人が多いようにも感じます。自分が傷つくことには敏感ですが、案外相手がどんなことを言われると嫌なものか、あまり気付いていないのです。言われる側の気持ちを教えてあげることで、従業員は自分にも改善の余地があることに気づくかもしれません。自ら気づくと、人は自分で改めようと思うものです。
そしてもう一つ、アドバイスをするときは謙虚に話すことがポイント。上から目線で「あなたはこういうところが良くない」と指摘するのは絶対にNGです。ますます相手の気持ちは離れていきます。例えば、次のような前置きがあると、受ける印象も変わります。
ケース2:必要以上にコミュニケーションを求められるのが嫌だから辞めたい
従業員が「飲みニュケーション」を嫌がる気持ちに対して理解を示し、無理に付き合う必要はないと言ってあげましょう。そのことで他の社員がどうこう言うようであれば、自分がフォローすることも伝えます。
一方、食事の席は考えようによっては、ふだん話せないことを相談したり、何かしら教わる場、無駄にはならない時間になることもあります。従業員の状況に合わせて、時には社会人の先輩として、こうした考え方もあると提示してあげるのもよいでしょう。
ケース3:やりたい仕事と違うから辞めたい
こういう理由を挙げる人には、何が本当にやりたいことなのかわかっていない場合があります。また、他にやりたいことがあるのではなく、今の居場所や自分に気に入らないところがあり、他の場所にここにないものを求めているだけの場合も往々にしてあります。そのため、はっきりした他の目的がなさそうだと察したら、何が気に入らないのか、どうしてほしいのかを聞いて、辞めたい本当の原因を一緒に明確にしてあげましょう。
その際、大切なのは、その従業員が「言い負かされた」「説得された」と思わないように会話を運ぶことです。あなたに話したことで、「気づかされた」「勉強になった」と感じてくれることが最良の方法なのです。こうした従業員の場合、意外とこちらが話を聞くだけで相手の気が済み、思いとどまってくれるケースも多いものです。
ただ、一度辞めると言い出した本人から、「やはりもう少し勤めたい」と言うのは、結構ハードルが高いもの。もう一度やる気になってくれそうであれば、継続を「促す」ように、こちらから言葉を投げかけてみましょう
まとめ
聞くことはアクティブな行動
「思いとどまらせる」というと、多くの人が「説得しなければ」と思うのではないでしょうか。しかし、人は相手を説得しようとすると、得てして自分本位に喋りがちです。そうではなく、まずは「聞く」。「聞く」ことは、受動的な行為ととらえられがちですが、実は相手に働きかけることであり、積極的な行動です。特に、部下や従業員は、「わかってほしい」「認めてほしい」という思いを上司に対し、強く抱いているものです。そのため、上司に真剣に聞いてもらうだけで、「やっぱり、もう少しここで働きたい」と心が動くことも十分起こり得るのです。
日頃からスポットコミュニケーションを大事にする
最後に、日頃から従業員の人間関係や与えられている仕事などを把握することを忘れないでください。職場ですれ違った時など、声をかけて世間話をしたり、「ところで仕事はどう?」などと聞いてみる。「そういえば、今朝はうつむき加減だったけど…」とさりげなく気づいたことを一言伝えてみる。わずか1~2分のこうした日常のコミュニケーションを小まめにとり、部下の気持ちの変化や状況をつかんでおけば、いきなり「辞めたい」と言い出されることもきっと少なくなるはずです。
福田健 / Takeshi Fukuda 1961年、中央大学法学部卒業後、大和運輸(現ヤマト運輸)入社。67年、言論科学研究所入所。指導部長、理事を歴任。83年に話し方研究所を設立。04年より現在の会長職に就任。主にコミュニケーションの取り方を軸にした講演、セミナーにて実践的指導にあたっている。著書に「『ほめる力』がすべてを決める!」「人は『話し方で』9割変わる」(経済界)、「上手な『聞き方・話し方』の技術」(ダイヤモンド社)、「『できる人』の相談する技術」(角川ONEテーマ21)など。 話し方研究所公式サイト http://www.hanashikata.co.jp/ |
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