地域限定社員や外国人スタッフを活用し人材を安定的に確保する「リンガーハット」
- 企業採用成功事例
掲載企業DATA:株式会社リンガーハット
本社所在地 | 東京都品川区大崎1-6-1 TOC大崎ビル14F |
代表取締役会長兼社長 | 米濵和英 |
設立年月日 | 1964年3月株式会社浜かつ設立(1962年7月創業) |
事業内容 | 「長崎ちゃんぽん リンガーハット」「とんかつ浜勝」「長崎卓袱浜勝」、合わせて約600店舗を運営 |
01 非正規雇用者を活用し、人材を安定的に確保
「長崎ちゃんぽん リンガーハット」の店長や営業職などを経て、現在は総務人事グループ人事チームの課長を務める杉本貴一氏。
「長崎ちゃんぽん リンガーハット」「とんかつ浜勝」、さらに卓袱(しっぽく)料理専門店「長崎卓袱浜勝」を運営している株式会社リンガーハットでは、人材の安定的確保のため、いくつかの施策を実施している。
中でも、非正規雇用に関わる部分では、優秀なパートやアルバイトを転勤のない地域限定社員に登用するなど、正社員への転換を積極的に行い、人材確保に成果を上げている。また、都市部を中心にグループ全体で700名もの外国人スタッフが在籍。彼らの接客マナー向上のために研修を義務づけ、戦力化を図った結果、外国人の時間帯責任者が生まれたり、周囲の外国人にも良い影響が出たりしている。
雇用の多様化が進む中、近年耳にする機会の増えた地域限定社員や外国人スタッフであるが、立場や背景の違う人が同じ職場で働くことは、意識の違いや文化の違いなど、課題もあると推察される。株式会社リンガーハットでは、どのようにしてさまざまな立場にあるスタッフを活用しているのだろうか。同社で人事を担当する杉本貴一氏にお話を伺った。
02 優秀なスタッフを正社員に登用
ちゃんぽんは、1食ずつ調理。火を使わないIHコンロは厨房が暑くならず、また鍋を振らなくて良いため、女性でも快適に調理できるのが特徴。
「社員の成長なくして、会社の成長なし」というポリシーのもと、人材をあえて「人財」と呼ぶリンガーハットグループ。同社では、1995年からパート・アルバイトを正社員に積極的に登用するという制度を設けた。その背景には、「外食産業はどうしても人材が不足がちなので、せっかく弊社で働いている優秀なパートやアルバイトの方を、なんとか活かしていきたいというのがありました」と杉本氏。
同社では、勤務地を限定して働ける地域限定社員を「エリア社員」、転勤可能なことが条件になっている社員を「ナショナル社員」と呼び、もともと通常の正社員にも2種類のキャリア制度を設けていた。そのため、パート・アルバイトからの登用であっても、そのどちらかを選択できる仕組みとなっている。
パート・アルバイトから正社員への登用実績は、累計でエリア社員は60名程度、ナショナル社員は90名程度。「以前は中途採用を行っていましたが、この制度が始まってからはほとんどなくなりました。力量などが分かっている人を採用したほうが安心ですし、採用に関わるコストも削減できますから」と、正社員登用の利点を挙げる。
特に、居住地から離れることの難しい主婦などのベテランパートからすれば、エリア社員へのステップアップのメリットは大きい。有期雇用から無期雇用となり安定した職が得られるだけでなく、処遇について幅はあるものの、エリア社員の店長職の年収は300万~400万程度が目安で、パート・アルバイト時より時給換算では200円程度アップするという。
「パート・アルバイトでも優秀な方がなるわけですから、もともと時給が高い方がほとんどです。店長になって責任は増すのに給料が下がってしまっては意味がないので、逆転しないよう考慮しています」(杉本氏)
03 2つのキャリア制度が抱える課題
パート・アルバイトからエリア社員、ナショナル社員になるには、まずは本人がエントリーする。その後、店長、ブロックリーダー、営業のチームリーダー(営業部長)、担当役員(業態ごとの社長)の決裁が下りれば、登用される。店長として入社するためには、正社員と同様に店長への昇進課題をクリアする必要がある。
昇進課題には、QSC(クオリティー、サービス、クリンネス)の実践、店舗運営に関わるマネジメント、緊急時やクレーム時の対応などが含まれる。これは、自分が知っている、できるというだけでなく、店舗全体でクリアしなければならないという厳しい試練が課せられている。
50年の歴史を社員全員で振りかえるという社内教育の一環で、未来創造塾とよばれる研修。2013年は店舗のパート(一部)も参加した。
「いいスタッフばかりがそろっている店舗だったら簡単ですが、そうでない場合も、リーダーシップやコミュニケーション力を発揮して改善していく必要があります。そういった能力も当然店長職には必要とされます」と杉本氏。
エリア社員制度があることで、課題もあるという。
「実は、エリア社員の店長のほうが、社内評価が高い傾向にあります。それは本人の努力のほかにも、転勤がないので腰を据えて仕事に取り組めるというのも理由の1つだと考えています。ただ、ナショナル社員からすれば、転勤せずに落ち着いて仕事できるのだから当たり前という声が出てしまいます。また、エリア社員からすると、ナショナル社員の中にも転勤の少ない人がいるのに、ボーナスや昇給面で処遇がいいのはどうしてという声が聞かれます」
さらに、今後は超高齢化社会を迎え、親の介護が必要となる社員が増えることも予想される。ナショナル社員からエリア社員への転換も可能というが、そういったときには制度に関わりなく会社側の配慮が必要になるだろうし、「転勤」ができる、できないの区別があいまいになってしまうことも考えられる。
04 外国人スタッフの活用と今後の課題
一方、外国人のアルバイトについては、現在700人弱の外国人が働いているが、その9割を中国人が占める。以前は、接客マナーの問題や店内で母国語を話すといったことでクレームが出ることが多く、苦慮していたという。
そこで取り入れたのが、外国人スタッフ向けのきめ細やかな研修制度だ。
「今でもクレームはゼロではないのですが、外国人スタッフ向けの勉強会を開くようになってからは、確実に減少しました」
リンガーハット1号店長崎宿町店
外国人スタッフの場合、採用が決まればまず勉強会への参加が義務づけられる。最初は半日程度で、企業理念や日本と中国の文化の違いについてなど、基本的なものが中心となる。これは日本的な接客やサービスに理解がないところから起こるクレームを防ぐのが第一の目的。また、制服を持参してもらい、身だしなみの指導も行う。その後、3カ月程度経過したところで、復習を兼ねて2回目の研修を行う。
さらに、優秀かつ時間帯の責任者を目指すスタッフには3回目の研修を実施。現在までに10人ほど外国人の時間帯責任者が誕生しているが、役職が付くと周りの外国人スタッフも「自分もなれるかも」と意識が変わって、やる気が出てくる効果があるという。
「弊社の場合、中国人の留学生がほとんどです。長期といっても限度があるので、外国人のアルバイト同士で、ノウハウを継承してもらうのが理想ですね」
最近はほかの業種での有効求人倍率が上昇し続けているため、中国人をはじめ、外国人スタッフの人材確保も懸念されているという。今後は労働意欲の高い高齢者を活用する店舗運営の方法などを考えていく必要があると杉本氏は語る。