研修施設を1カ所に集約。丁寧な人材育成でパートの定着率がアップした株式会社ちよだ鮨
- 企業採用成功事例
掲載企業DATA:株式会社ちよだ鮨
本社所在地 | 東京都中央区明石町8番1号聖路加タワー37階 |
代表取締役社長 | 中島正人 |
設立年月日 | 1959年12月 |
事業内容 | 総合すし店の経営 |
01 パートスタッフの定着率が顕著に向上
せっかくコストをかけて新しいパートスタッフを採用したのに、短期間で辞められてしまった。あるいは、仕事を覚えてようやく戦力になってきたのに、そのタイミングで辞められてしまった。そのような苦い経験を味わっている人事採用担当者も多いはずだ。
「ちよだ鮨」の店長・地区長・営業部長を経て、現在は人材開発部長として教育研修の責任者を務める梶原氏。
また、社員とパートにスキルの差があることで、お客さまからのクレームにつながったり、多店舗展開の場合に店舗間のクオリティーに差ができてしまったりと、マイナス要因となることが多々ある。ではどうしたら、パートスタッフを長く定着させ、各店でスキルやモチベーションの高いスタッフを育てることができるのか。
今回は、持ち帰りすし店211店を筆頭に、回転すし店や立ち食いすし店、本格すし店と、首都圏で手軽に味わえるすしを提供している株式会社ちよだ鮨を紹介。同社では、7年ほど前から取り組んできた丁寧な研修教育で、パートスタッフの定着率が顕著に向上したという。
※「パート」「パートスタッフ」とは「ちよだ鮨」での短時間勤務スタッフの総称。学生アルバイトなども含む。
02 すしの本場に研修施設を集約
同社のパートスタッフ研修の特徴となるのが、すしの本場ともいえる東京築地市場のほど近くに設けられた研修施設だ。パートスタッフは「研修スタジオStudio T」と名付けられたこの施設で、同社におけるすしの基本技術を学ぶのだ。
東京築地・新大橋通りに面したビルの1階に設けられた「Studio T」
「ここができるまでは、何カ所か広めの店舗のバックヤードに厨房設備を作って、研修場として利用していました。しかし、施設が分散すると効率も良くないし、教える内容も施設ごとに少しずつ違うなど、問題がありました。そこで、2006年12月から、このスタジオに集約しました」と話すのは、同社人事本部人材開発部部長の梶原淳一氏。
流れとしては、まず、その週に採用となった新人パートは全員、日曜日に本部で開かれる入社時研修に参加。同社の理念や就業規則について説明を受け、翌日から研修がスタートする。
「当社では“しゃり玉”はロボットが作りますので、握りを学ぶわけではありません。それでも、盛りつけやパック詰めなど、新人のパートさんが受け持つ作業には、ちょっとした技術やコツが必要です。商品ごとに手順が決まっているとはいっても、誰でもすぐにできるというわけにはいかないので、最初は難しいなと感じる人もいるのも事実です。まずはトレーナーが説明をしながら見本を見せて、次にそれを受講者が実際にやってみるというのが、研修の基本的な流れになります」
経験豊かなトレーナーのアドバイスを受けながら研修が進む
研修は基本的に33時間のカリキュラムで、各自の就業時間に合わせて受講する。人によって就業時間が異なるので一概にはいえないが、2週間程度で終了する人がほとんどだ。研修も仕事の一環のため、研修スタジオまでの通勤時間も時給の対象で、交通費も別途支給される。
研修の進み具合は「進捗確認表」というA4用紙1枚にまとめたチェックリストを活用。江戸前、大阪などの商品種別や、販売や仕込みの業務項目別に受講日やトレーナーのサイン欄などがあり、どこまでできているかが一目でわかるのだ。店舗に行くときにも、本人がこのチェックリストを持参。店長も容易に確認できるようになっている。こうした研修を経て、年間800~900人ほどのパートスタッフが各店舗に配属される。
03 新人同士で安心して学べる環境
研修施設を1カ所に集約することで研修内容の統一が図られ、作業の標準化、さらにはチェーン店における同品質の商品の提供が行われることは理解できるが、それがなぜスタッフの定着率アップにつながるのだろうか。
決まった手順どおりに、すしのパック詰めを行う
「店舗で教育を行っていたときは、ベテランのスタッフを見て、自分はあのレベルまでなれそうにないと不安に思ってしまう方もいました。ですが、ここでは周りは同じ新人ですし、みんなで1つずつ覚えていけるという安心感があります。それでも不安に思うことや心配ごとがあれば、トレーナーが相談にのります。それが定着率の向上につながった要因の1つではないでしょうか」と梶原氏は分析する。
また、店舗で教育を行う場合、どうしてもお客さま対応が優先されるため、パートスタッフの教育は最後になってしまいがち。そうなると、すし作りは「なんとなく」でできる仕事ではないので、何をしていいかもわからず、それが辛くて辞めていくケースもあったという。
このように研修のスタイルを改善したことで、採用1年後の定着率が5割から7割ほどに向上。さらに、作業の標準化がなされたことで製造効率が上がり、結果として売るべき時に商品がないという欠品を減少させることにもつながった。これが、おいしくて安いすしを提供するという同社の理念「すしの大衆化」を実現する原動力にもなっているのである。
04 接客の強化が今後の課題
「今後はお客さまに気持ちよく買い物していただくために、接客も強化する必要があります。基本的にレジ専任者を置いていないので、全員がお客さまを待たせないこと、さらにお客さまの目を見て応対すること、笑顔で接客すること、そういったことができるようにしていきたい」と、接客面の強化が人材教育における本年度の最重要課題と梶原氏は強調する。
同社のパート採用者は、8割以上が女性で占められている
さらに、パートスタッフの能力評価においても、昨年度から、できている部分、できていない部分など、明確な基準を設定。スキルの達成度によってS、A、B、C、D、Eの6段階で店長が評価。上位のSとAに評価されたスタッフは、研修スタジオで試験を受ける。そこで合格となれば、契約更新時に時給もアップするという仕組みとなった。全社的に公正平等な評価を行うことで、パートスタッフのやる気を引き出すのがねらいだ。
また、同社では優秀なパートスタッフには、店長のポジションに立てるパートナー社員への昇格、さらに管理能力や技術力に優れたパートナー社員には正社員への昇格というキャリアアップの制度も用意されており、こうしたこともパートスタッフのモチベーションアップにつながっている。