「全員ロフト社員」という新人事制度が目指すもの – 株式会社ロフト
- 企業採用成功事例
目次
掲載企業DATA:株式会社ロフト( THE LOFT CO.,LTD. )
設立 | 1996年8月8日 |
本社所在地 | 東京都渋谷区宇田川町18番2号 |
本部事務所 | 〒169-8621東京都新宿区大久保2丁目4番12号 新宿ラムダックスビル3階 |
資本金 | 7億5,000万円 |
売上高 | 2007年2月期683億円(総取扱高) |
従業員 | 2007年3月現在2,341名(パート・アルバイト含む) |
事業内容 | 雑貨専門店 |
01 「3人に1人が非正規雇用」時代の突破口
1732万人。この数字、何だかわかりますか? 実は、日本における2007年の非正規雇用者数(総務省統計局「労働力調査詳細結果」調べ)なのです。しかも、調査開始から初の1700万人突破。役員を除く職員・従業員数全体の、何と33.5%に達していることになります。
この背景にあるのは、なかなか出口の見えない景気低迷。それにより、企業は積極的にパート・アルバイトを採用し、人件費を削減するという構図があります。しかし、年々増える非正規雇用者は、同時にいくつのかの弊害を生んでいるのも事実。低所得者層の拡大や従業員の定着率低下、などなど…。
ところが今年3月、そんな現状に一石を投じる新たな人事制度を、生活雑貨専門の大手「ロフト」がスタートさせました。今回は、その革新的なプログロムの中身について見ていくことにしましょう。
02 “正社員化”ではなく、全員が“同じ社員”
株式会社ロフト 業務統括部 人事部 部長 橋本 圭司氏
今年3月2日、朝日新聞のサイトにこんな見出しが出ました。〈ロフト、全パートを正社員化、短時間勤務でも〉。内容の概略は、無期限雇用を希望する契約社員やパート社員を正社員にする、というもの。しかし、ロフト業務統括部人事部部長・橋本圭司氏はこう話します。
「メディアとして、正社員化と書きたい気持ちもわかりますが(笑)、その表現は正しくはありません。正社員化とは、あくまで正社員がいて、そうでない人もいることになる。今回の人事制度の根幹は、パート、契約社員、正社員といった区分をなくす。全員が同じロフトの社員ということが、出発点なんです」
全員同じ社員――。つまりは、ロフトの新人事制度は、これを理解することから始める必要がありそうです。
興味深い数字があります。同社が2006年度に採用した非正規雇用者は1700人。そして、同退職者も1700人。1年でちょうど1サイクル。しかも、採用後1年未満で退職する割合は、全体の75%にも達していました。結果、年間を通じてほぼ毎日、どこかの店舗が求人募集を行い、それでも人材確保はなかなか難しく、そのため人も育たない。現場からのそんな声が、年々強くなってきたと言います。
では、辞める理由は何なのか。同社が独自にアンケート調査したところ、その最多理由は、本採用、正社員採用が決まったため。次いで多かったのが、もっと時給の高い就職口が決まったため。
「つまりは、極論かもしれませんが、ロフトという職場にそんな人たちをつなぎとめるだけの魅力がない、ということ。ならば、そういう退職理由を改善する、抜本的な制度づくりが必要だろう、と」
同時に、橋本氏は別の角度からも、人事制度の在り方に疑問を感じていた、と言います。そのキッカケとなったのが、同社が昨年、1996年の設立以来、初めて行った新卒採用。
「これも理由は人材を確保し、育成していく必要性を感じ始めたため。でも、新卒の正社員と既存のパート社員、仕事は変わらないのになぜ区分が必要なのか、待遇に差が必要なのか、という思いが生まれました。あたかも同一労働、同一賃金ということが着目されていた時期でしたしね。ならば、そういう区分を取り除いて、すべてロフト社員という考えで、人事制度が作れないか。それが今回の出発点なんです」
03 勤務時間が選択できるという先進性
では、今回のロフトの新人事制度の中身を詳しく見てみます。
まず、これまでの正社員(ロフトでは「本社員」と呼びます)、契約社員、パート社員といった雇用形態の区分をなくし(=全員がロフト社員)、無期契約を基本に1年ないし3年の有期契約も選択できるようにした。しかも、画期的なのは、短時間勤務であってもそれが可能という点。従来、無期契約とは正社員であることを意味し、週40時間勤務が常識とされていましたが、この人事制度では、週20時間以上(職務によっては32時間以上)の勤務が可能であれば、無期契約で働ける。つまり、週5日で毎日4時間勤務でも、土日だけ10時間勤務でもいいということになります。
「労働時間についても事前にアンケートを取りましてね。こちらとしては、ほとんどの人が8時間以上の勤務を望んでいるはず、と安易に考えていました。ところがフタを開けてみると、週5日8時間勤務の、いわゆるフルタイム勤務を希望する人は、それまで週25時間就労者の15%、週35時間就労者の50%だった。6時間を希望する人もいれば、10時間を希望する人もいる。だったら、そういうニーズに応えられる制度にしなくては意味がないと思ったわけです」
もうひとつの特徴が、時給額のベースアップ。たとえば、従来パート社員が担当していたラック・レジ係は、その職能レベルに応じて時給額が3段階に設定されていました。それが新制度では8段階に細分化。渋谷店を例に出すと、900円~950円だった時給幅が、960円~1200円にアップされています。
こういった内容を見ると、同社退職者の大きな理由となっていた「他で正社員として決まった」「高い時給の職場に決まった」の2つをクリアしたい。そういった企業側の思いが、今回の新制度に反映されていることがよくわかります。
04 ボーナスの季節に同じ喜びを
渋谷styling
勤務時間が選択できて、時給もベースアップが実施された。では、職務体系は従来とどう違っているのでしょうか。
ロフトでは、売り場のラック・レジ担当を「フロント」と呼び、これまでパート・アルバイト社員が行っていました。この職務に関しては、その人のスキル・経験によって、先述したように8段階のグレードが存在します。さらにその上には、現場である程度の責任を持たされる「リーダー」があり、これは従来、契約社員が担当していました。今回、パートや契約社員といった区分を撤廃したわけですから、スキルさえあれば「フロント」が「リーダー」へ、ステップアップすることはもちろん可能。そして、「リーダー」の上に位置し、これまで正社員が担っていた売り場の主任、係長、店長、あるいは本部の部課長といったクラスにまで、登用の道は用意されていると言います。
「これまでも、たとえば正社員登用試験やそのための面接は行っていました。しかし、今回、そういった仰々しいことは(笑)一切やめました。スキルがあると現場が判断し、本人もそれを望めば、積極的に登用していくというスタンスです」
福利厚生面にも手を加えています。たとえば、企業が独自に運営する共済組合は、これまで正社員と契約社員、さらに社会保険適用のパート社員に限って加入が認められていましたが、この新制度でロフト社員全員(週20時間以上勤務)が加入できることに。出産祝い金や弔慰金の支給、さらには財形貯蓄制度や社内融資などが一律利用できるようになります。
また、ボーナスは新制度でも「リーダー」以上の月例給の社員に限っていますが、それに代わるものとして「フロント」にも「奨励手当」もしくは「インセンティブ」(フロントのグレードによって異なる)がボーナス支給と同じ時期、年2回支給されます。
「ボーナスの時期になると、一部の社員だけがニコニコして、でもパート社員には関係のない話。これでは、全員にとって魅力ある職場とは言えない。それと、福利厚生も誰もが同じテーブルにしたい、というのがあくまでも基本的な考えです。できる限り共通に受けられるように考えていくつもりです。」
05 ずっとずっと働いてください
この新制度、今年の3月16日施行時点で、無期契約を結んだ契約社員・パート社員は2286人。この数字は、全体の93%に達しています。これにより、ロフトは人件費が10%アップする、とのこと。それでも、個々の社員のスキルアップと離職防止につながれば、という思いでスタートしました。
「これにより、無期契約を結んだ人たちの意識がどう変わるか。それについては、1年後、2年後に判断したいと思っています。ただ、この制度で大事なことは、そういった社員を受け入れる主任や係長といった現場の責任者たち、その意識もまた変わらないといけないということ。働く側は、働く内容そのものの変化も期待しているはずですから。今後、じっくり詰めていかないといけない部分でしょうね」
全員同じ社員、という大胆な発想から生まれたロフトの新人事制度。社員向けに配布された、そのパンフレットの、ロフトカラーである黄色が鮮やかな表紙にある「ずっとずっとロフトで働いてください。」というコピーが目を引きます。
新制度である以上、今後の課題はまだあることは確か。それでも、非正規雇用者が働く人全体の35%を占めるという今、その弊害を打破する企業努力と創意工夫が一層求められていることだけは、間違いないようです。