13,000人の高校生バイトが活躍する「すかいらーく」のスタッフ育成術
- アルバイト育成・管理
目次
掲載企業DATA:株式会社すかいらーく
本社所在地 | 東京都武蔵野市西久保 1-25-8(三鷹 第3オフィス) |
代表取締役会長 | 谷 真 |
設立年月日 | 1962年4月 |
事業内容 | フードサービス事業全般、その他周辺事業 |
01 13,000人もの高校生スタッフを活用
「ジョナサン」や「ガスト」など、多くの人に親しまれるファミリーレストランを運営する株式会社すかいらーく。ホールやキッチン業務をはじめ、現場は多くのアルバイト・パートスタッフに支えられており、そのうち高校生は約13,000人。近年、増加傾向にあり、同社の現場を支える力強い存在となりつつある。
クルー採用チームのリーダー杉原氏
「高校生を採用する大きなメリットは“素直さ”。労働経験が少ない彼らは、どこかのカラーに染まっておらず、こちらの指導内容が伝わりやすいのです。特に、最近の高校生は真面目な子が多いですね」と語るのは、人財本部でクルー採用チームのリーダーを務める杉原康仁氏。
反対に、高校生スタッフを雇うことで生まれる難しさもある。どの学校もほぼ試験期間が重なるため、試験が近づくと一斉に休みに入ることだそう。そんな問題では、事前の対策が有効だという。
「テストの時期は、フリーターや主婦の方々にお願いして人員を補っています。事前に試験期間を把握して他のスタッフにフォローをお願いしておくと、みなさん協力的に動いてくれます」
学校の試験のほかにも、高校3年生は大学受験が近づいてくる。ほとんどの高3生は夏休み前に退職してしまうという。急な人材不足に陥らないために、同社ではスタッフへ後輩や兄弟といった友人・知人を紹介してくれるように声かけも実施している。
02 採用面接では高校生の“表現力”よりも適性を重視
高校生スタッフの採用面接では、大学生や社会人がもつ“表現力”を求めないことが重要だと杉原氏は言う。
「彼らくらいの年代の子たちは、自分の考えを上手に表現するスキルがまだ備わっていません。明瞭な受け答えをできないことが多いように感じられますが、それは働くなかで身につければよいものなのです」
高校生の採用面接をする時に、コミュニケーション能力の高さや自己アピールの得手不得手を採用の判断基準とすると、適性をうまく見抜けずに、貴重な人財を採用しそこねてしまう可能性がある。
「すかいらーく」では、すべての採用面接で、全社共通の質問項目をもとに、応募者の適性を判断しているという。まずは、同社が大切にしているお客様へのサービスやメニューのこだわりなど理解してもらえるかを確認。次に“時間が守れそうか”“人に迷惑をかけることについての意識はどうか”などを会話を通して見極めていく。
「緊張して質問にうまく答えられなくても、一般的な常識や、“人にサービスを提供するという意識”を持っていると感じられれば採用します。スタッフになった子たちの社会性やコミュニケーション能力を、一緒に働きながら引き出していきたいですね」
また、同社は採用決定の際に応募者本人だけでなく、保護者へも電話連絡を入れているそうだ。
「親御さんに一言ご挨拶をしておくだけで、きちんとした職場だと安心していただけますし、こちらも『大切なお子さんをお預かりする』という意識がさらに強くなります」
アルバイト先に子どもを預けることへの不安を持つ保護者は多い。企業側のちょっとした気遣いで、企業と保護者間のつながりが保たれる。そうすることで、「無断欠勤をする」「退職時、いきなり連絡がつかなくなる」など、勤怠や離職時のトラブルを回避し、問題があった時も保護者と連携して相談できるというメリットが生まれるのだ。
03 スタッフ育成にオリエンテーションブックを活用
同社では2012年より、採用したすべてのスタッフに「オリエンテーションブック」というマニュアルを配布している。その中には、まず「仲間になってくれてありがとう」というウェルカムメッセージ、そして挨拶の仕方やユニフォームの着用方法、働く上での必要最低限のルールや心得が記載され、スタッフ教育の第一歩としての役割を担っている。このようなマニュアルを全店舗で共有することで、店舗によって教育方法にばらつきが生じるのを防ぐことが可能だ。
スタッフ教育で活用する「オリエンテーションブック」(右下)と「リコグニションレコード」
「ページ数を抑えて写真やイラストを多く取り入れ、誰にでもわかりやすい内容を意識しました。特に高校生は、初めてアルバイトをする方も多いので、親しみやすいマニュアルを用意することが、未経験者もなじみやすい環境づくりにつながると考えました」
多くの高校生を活用する「すかいらーく」の今後の課題は、スタッフ用マニュアルのさらなる充実を図り、教育ツールを向上させてくことだという。
「文字ばかりの分厚いマニュアルでは、なかなか読もうという気になりません。冊子だけではなく、動画やモバイルデバイスを用いたトレーニングツールの開発も検討しています。今後は基礎的な研修も、より効率化していきたいと考えています」
また、研修のうち、フロア担当者には徹底した業務シミュレーションを行う。接客の流れを説明するだけではなく、控え室で先輩スタッフを相手に何度も練習を行い、トレーニングを重ねてから初めて現場で実践となる。ロールプレイを重ねることで、アルバイト経験のないスタッフも自信を持って接客の対応ができる。
現場でのスタッフ育成で活用しているのが「リコグニションレコード」シートだ。例えば「オーダーがとれる」といった業務項目を書いて、それが達成できたらシールを貼り、業務上の記録をつける。新人スタッフ自身が成長を実感でき、教える側も課題が見えるため、お互いの目的意識やモチベーションを高めることが期待できる。
04 最近の高校生の上手な褒め方・導き方
高校生スタッフとコミュニケーションをとる上で、現場の社員はどのようなポイントに気をつけているのだろうか。
「スタッフに対して、自身の価値観を押し付けないことが何よりも大切です。同じ15歳でも、時代や環境によって個性や性格は異なります。『自分が高校生の時はこうだった』という経験はまったく役に立ちません」
同社では、高校生スタッフと年齢の近い先輩スタッフに、メンター的な立場でサポートしてもらう方法も取っている。わからないことや困ったことが起きた時に、すぐ相談できる人を決めておくことが、高校生スタッフでも安心して働ける環境づくりにつながっているのだ。
もちろん、マネージャーやバイトリーダーからコミュニケーションを取ることも忘れてはならない。業務の話だけに終始せず、学校や私生活などの雑談も意識的に取り入れ、より円滑な交流を図っている。
「最近の子はとても恥ずかしがりな面があって、みんなの前で直接褒めると、照れたり戸惑ってしまったりするスタッフも多いので、褒める時は日報に『○○さん、●●の業務がよくできていました』とコメントを残すようにしています。褒められた内容が他のスタッフの目にも触れるため、本人も嬉しくてやる気がアップします」
一方で、注意の仕方のコツは「頭ごなしに叱らないこと」。人前で頭ごなしに叱っても反発したり、響かなかったりでよい効果は望めない。近年の高校生は傷つきやすく繊細なタイプが多いように見受けられるため、強い口調で指導をするのは得策ではない。個別の場を設けて、丁寧に理由を説明してあげると伝わりやすいという。
高校生に限らず、「居場所がない」「認めてもらえない」という不満はバイトを辞める理由となりやすい。良いスタッフに長く働いてもらうためにも、スタッフの性格や個性に合った接し方を心がけていきたい。