なぜスターバックスで働きたくなるのか?人気と成長を支える人材育成
- アルバイト育成・管理
先月9月13日、元大手企業幹部などシニアエグゼクティブの顧問サービスを提供するパーソルプロセス&テクノロジーのi-commonと求人情報サービスanが「経営革新セミナー」を共同開催した。
今回のアルバイトレポート記事では、本セミナーの中でも特に、企業成長につながる人材マネジメントとして、元スターバックス コーヒー ジャパン執行役の簔口一実氏の語ったスターバックスにおける人材育成についてご報告する。
目次
01 ミッションステートメントがすべての軸に
米シアトルに拠点を置くスターバックスが日本に進出したのは1995年。翌年、銀座に第1号店が誕生し、以来、着実に実績と店舗数を伸ばしてきた。その成長を支えてきたのは「手法ではなく、基本理念とブランディング、それと従業員のやる気です」と簔口氏は断言する。
「経営理念“感動体験を提供して、人々の日常に潤いを与える”を実現するために、スターバックスでは“ミッションステートメント(使命)”を掲げています。これが現場運営の軸になっています。店舗運営もサービス内容も人事考課も、すべてこの“ミッションステートメント”に従って決定されているのです」
講演で紹介されたスターバックスの“ミッションステートメント”
- お互いに尊敬と威厳をもって接し、働きやすい環境をつくる。
- 事業運営上で不可欠な要素として多様性を積極的に受け入れる。
- コーヒーの調達やばい煎、新鮮なコーヒーの販売において、常に最高級のレベルを目指す。
- お客様が心から満足するサービスを常に提供する。
- 地域社会や環境保護に積極的に貢献する。
- 将来の繁栄には利益が不可欠であることを認識する
元スターバックス コーヒー ジャパン株式会社 執行役 簔口一実氏
特に1つ目に掲げられている「お互いに尊敬と威厳をもって接し、働きやすい環境をつくる」は、働く仲間に対してのミッションであり、言葉の裏には上下関係なく共にいい環境で働こうという思いが込められている。その思いは、社員もアルバイト、役職も関係なく、同社で働くすべての人を「パートナー」と呼んでいることにも表れている。
また、スターバックスではお客様からの声を反映し、新たなサービスや商品を開発し、提供しているが、お客様の声すべてを実行するわけではない。ミッションを念頭に置いて自分たちがすべきことは何かを考え、すべきとみなしたことのみを実践している。「どんなに優秀でもミッションステートメントに共感できない人は採用しません。だからこそ、ぶれないサービスが提供できるし、ぶれない人材育成ができるのです」
このように同社のミッションステートメントは、日々の業務の中に浸透している。そのため、本部の決定事項に納得がいかないと、一店舗の店長が直接電話で本部へ意見してくることもあるという。
「もちろん店長にとって、納得がいくかどうかの判断は決して主観ではなく、ミッションステートメントに則っているかどうか。今、我々がすべきことは何かを必ずミッションに落とし込んだ上で発言するわけです。だからこそ本気の話し合いができる。そういう企業体質こそが、スターバックスの魅力だし、成長の根幹を担っているのだと思います」
02 なぜ、スターバックスで働くのか?
「正直、時給も決して高くない。それでも、スターバックスで働きたいと応募してくるアルバイトは多かったですね」と簔口氏。
「知り合いから、ここでの経験がキャリアパスになる、社会人になって役立つと聞いて来る人も多かったし、スターバックスというブランドの下で働く自分が好きだからといって入ってくるアルバイトも多かった。今もそこは変わっていないと思います」
同社では、基本的に新入りのアルバイトは最初の1週間は店に出ず、教育を受ける。そこで学ぶのは、スターバックスの基本理念から、勤務に関わるシフト体制、衛生面で気をつけるべき点など。やりがいのある会社であることを伝えるプログラムも含まれている。
接客マニュアルはなく、「お客様が何をしてほしいかを考えてサービスしよう」ということが問われるという。
ただし、実際の接客には細かなマニュアルのようなものはない。品質マニュアルや製造マニュアルはあるが、接客に関してはたった1行、「お客様が何をしてほしいかを考えてサービスしよう」という内容のみである。
「要は、あなたがお客様の立場になった時、やってほしいと思うサービスを提供しなさいという、ただそれだけなんです。つまり、接客はすべて自分次第。だから、スターバックスで働くのは面白いし楽しいと言って、長く働いてくれる人が多かったです」
自分で考えて提供したサービスでお客様が喜んでくれる。その経験を通して接客の真の楽しみを感じ、モチベーションにつながっているのかもしれない。
03 人間力を重視した評価制度
人事評価で重視される人間力。具体的に何ができればいいのかを示した「ビジネス姿勢」を階級別に細かく定めているのが特徴だ。
人事評価は、目標設定が50%、コンピテンシー評価が50%と、人間力を重視した評価制度になっているのが大きな特色だという。
そのため、具体的に何ができればいいのかを示した「ビジネス姿勢」を階級別に細かく定めている。例えば、アルバイトや新入社員などの新人に求められる「ホスピタリティ」は「どんな人に対しても役に立とうとして行動しているレベル」、「コミュニケーション力」は「コミュニケーションの重要性を十分認識しながら行動しているレベル」など、すべてミッションステートメントに沿って規定されている。
社員もアルバイトも、この「ビジネス姿勢」に沿って評価される。評価方法はアルバイトの場合であれば、シフトスーパーバイザー(時間帯責任者)が1次評価を行い、店長が2次評価をする「2次チェック体制」となっている。
「評価する時は『●月△日の態度が良くなかった』など、具体例を挙げて伝えます。そのため、店長もシフトスーパーバイザーも、毎日細かくスタッフの様子を見ていないといけないし、評価軸も全員に浸透していることが前提になります」
さらに、評価に偏りが生じないよう、アルバイトも1次評価者のシフトスーパーバイザーを飛び越えて、店長に直接意見を言ってもよい仕組みになっている。共に成長し、互いの能力を引き出していくために必要なことであれば、誰に意見してもいいし、相談してもいいというわけだ。
04 リーダーに大切な「明快・集中・簡単・チームワーク」
アルバイトや部下を評価するマネジメント層の社員も、当然、人間力が問われる。同社のキャリア形成の方法から、それがよく分かる。
「個別業務に必要な知識やスキルは後からでも習得できる。まず人間力があれば、他部門でも通用するという考え方がスターバックスにはあります。そのスタンスに基づき、社員は、約3年で異動があり、様々な立場からスターバックスを見つめる視点を習得する体制になっているのです」
最後に、「どんな部署のリーダーにも大切な人間力として、スターバックスが教えてくれたこと」として簔口氏が挙げた4点をご紹介して締めくくりたい。リーダーとしてどうあるべきかを考えている方々にとって、参考になるのではないだろうか。
問題点の本質を明快にする。本質がわからないと解決はできない。
「集中」
あれもこれもではなく、やるべき大事なことは「3つ」に絞り、集中して取り組む。
「簡単」
難しいことを簡単に説明する能力がリーダーには必要だ。頭の悪いリーダーは簡単なことも難しく言う。
「チームワーク」
成功したら部下を褒める。失敗したら自分が責任を取り、次の方法を考える。できるリーダーはその切り返しに長けている。
簔口一実氏 元スターバックス コーヒー ジャパン株式会社執行役 i-commonに登録するシニアエグゼクティブ。1997年から2004年までスターバックスコーヒージャパンに在籍し、店舗開発、店舗運営、新規事業開発などに取り組む。その後の不動産、飲食店経営など多彩な経験も活かし、現在、顧問業務に従事。 |
■i-commonのHP
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