シニアがいきいき働ける職場とは? ~現役シニアバイトの価値観を調査~
- 市場動向
各業界で慢性的な人手不足が続く中、安定した人材の確保は採用担当者の大きな課題です。人口減少、少子高齢化が進む現在、募集ターゲットを広げ、積極的にシニア層を採用する企業も増えてきています。
そこで今回は、「アルバイト・パート人材としてのシニア層」に着目。60代から70代のアルバイト・パートに従事する方にアンケートをとり、就業時の理想的なケアついて探ってみました。シニア層に長くいきいき働いてもらうための職場作りにお役立てください。
目次
調査概要
【調査地域】 全国(インターネットリサーチ)
【調査対象】 60~79歳のアルバイト・パート就業者
【調査期間】 2016年2月16日~2月17日
【有効回答数】 343サンプル
1.アルバイトを始めてから仕事で苦労するポイントは
シニア層がアルバイトを始めてから仕事で苦労したポイントを聞いてみたところ、41%が「教えてほしい時に聞ける人がいない」と答えました。回答者の声を見ると、「仕事を覚えるまでは、分からないことはきちんと質問して確認したい」という声が多く見られます。また、「分からないことを聞いても嫌な顔をせず、丁寧に教えてもらいたい」という声も挙がっています。仕事を教える側は、最初のうちはよく目にかけて仕事をフォローするとともに、シニア層が気軽に質問できるような雰囲気作りを心がけたいものです。
次に苦労するポイントは「覚えなければいけないことが多すぎる」で、27%の方が答えています。ここでは、「明確な業務のマニュアルがなく困っている」という声が多く寄せられています。シニア層の視点に立ったマニュアルの作成が優先事項になるでしょう。
回答者の声
- 同じ仕事でも、何度も繰り返さないと身につかないし、中には覚えられないこともある。そんなシニア層の現実を理解してほしい。
- 気軽に質問できる雰囲気がないのは辛い。分からないことを聞いても嫌な顔をせず、丁寧に教えてもらいたい。
- 教える人によってバラバラなこともあり、教え方の基準に戸惑うことも。シニア層へのマニュアルは考えられていないところがほとんどなので、考えてもらいたい。
2.仕事環境づくりで考慮すべき、体力&体調面のケア
体力面で考慮してほしいことについて聞いたところ、「体力・健康状態や持病は把握しておいてほしい」との声が半数以上にのぼりました。シニア層を雇用する際は、一人一人の体力面、体調面を常に気にかけておき、仕事がきつくないかマメに声掛けすることがポイントになるでしょう。
次いで26%と多かったのが休憩に関する要望です。回答者の声には「冷暖房について配慮してほしい」という声が複数挙がっており、寒さ、暑さは思っている以上に体にこたえることが分かります。シニア層の労働環境を整備する上では、空調も大事なチェックポイントになるのです。
回答者の声
- 体力に考慮してほしい。シニアに向いている仕事を割り振ってもらえると良い仕事ができると思う。
- 工場勤務の場合、夏や冬は骨身にこたえる。冷暖房が十分にきいたところで働きたい。
- 勤務の時間をもう少し細かく区切って働けるようにしてほしい。
また、シニア層が働きやすいと感じた実際の職場での取り組みを聞いてみたところ、「重いものを持つ際は若い人が進んで動いてくれる」という意見が多く見られました。シニア層がいくら元気でも、重いものを持ったり、高いところへ荷揚げしたりするのは困難なこともありますので、このようなサポート体制は重要なポイントになるでしょう。
回答者の声
- 重いものを持つ際は手助けしてくれるなど、しんどい仕事は若い人が進んで動いてくれる。
- シニア向けのマニュアルがあり、65歳以上は重いものは運搬しなくてもよいことになっている。
- 社員並みの健康診断があった。
- 休みたい時いつでも休憩できる。 一日3回お茶付の決まった休憩がある。
3.シニア層と若者――コミュニケーションギャップの解消を考えよう
アルバイト先の人間関係で具体的に苦労した点を聞いたところ、回答は分散していましたが、シニア層はおおむね職場でのコミュニケーションギャップで苦労しているようです。前章で分析した通り、シニア層を体力面でケアしていくことは大切です。しかし、そこで過度に気をつかい、壁を作ってしまうと大きなギャップを生みかねません。年長者への敬意を持ちつつ、積極的にコミュニケーションをとっていきましょう。
回答者の声
- 一緒に働いている若い人と話が合わない。もっとコミ二ケーションを取りたいのだが……。
- シニアだからと気遣ってくれるが、それがかえって負担になることもある。
- 若い人の挨拶が少ないのが気になる。
- 職場懇談会を定期的に開催してほしい。
留意すべきは、「同僚や上司から必要以上に気を遣われる」と18%が答えていることです。体力や体調、持病については丁寧なケアがベターですが、それ以上の配慮を望んでいない人も一定数いることが分かります。
「その他」を選んだ27%方の声を拾っていくと、「当人のいないところで陰口が多い」「正社員との差別が多い」といった悩みを抱えているシニア層が多いことが分かりました。
陰湿ないじめとなる前に、上司や同僚スタッフの相互理解を深めておくことが重要です。そこで、「アルバイト先の同僚や上司と親睦を深めるために、交流会(ランチや飲み会)に参加したいと思いますか?」と聞いてみると、全体の41%が「参加したい」と回答しました。過半数には達しなかったものの、風通しのよい職場づくりのため、世代を越えた交流、懇親会の開催は検討してみても良いかもしれません。
4.離職の主な理由は健康と人間関係・マネジメントにあった
ここまでアルバイト・パートに従事するシニア層の要望、苦労を分析してきました。では、シニア層はどのような問題で離職を決意するのでしょうか。
「直近でアルバイトを離職した経験はありますか?ある方は離職理由を教えてください」という設問では、「ある」が70%、「ない」が30%となりました。「ある」と答えた方から、気になる理由をピックアップしてみましょう。
回答者の声
- 飲食店で働いていたが、体力が続かなかった。
- 清掃業だが、腰を痛めて続けるのが困難になった。
- 売店で働いていたが、混雑時にオーダーが立て込んでくると怒鳴られた。「メニューを完璧に覚えてこい」ときつい口調で言われて嫌気がさした。
- ホテルのルームメイクをしていたが、組んで仕事をしていた男性と合わなかった。
- 先にいた先輩スタッフからいじめを受けた。
全体を見ると、「持病がある」「体力的にきつい」などの健康面のほか、同僚との人間関係や上司のマネジメントのあり方で悩みを抱えたことが大きな理由になっていました。若者・シニアにかかわらず、職場の雰囲気を明るいものにし、働きやすい職場を目指していくことは大事なポイントになります。
では、シニア層に「働きたい」と思われる会社、店舗を目指すにはどうしたらいいでしょうか。「あなたのアルバイト先で改善してほしいことを挙げてください」と聞いたところ、下記のような回答が寄せられています。
回答者の声
- 仕事内容は同じなのに、シニアというだけで賃金格差がある。仕事内容が同じなら時給も同じにしてほしい。
- 働きぶりを公平に評価してほしい。不満を言う人のことばかり聞き入れられ、言ったもの勝ちの風潮は良くない。
- 上司の好き嫌い、えこひいきを感じるので改善してほしい。
シニア層は店長・上司の言動やスタッフへの接し方を見定めています。若者・シニアに限らず、公平性を意識したマネジメントを心がけましょう。
これらの設問を通して、時給などの待遇だけではなく、コミュニケーション面でも公平な対応が望まれていることが分かりました。スタッフへのきめ細かい対応が離職率を低め、いきいき働いてもらえる職場づくりにつながるのです。
5.シニア層の「自分へのご褒美」とは!?
では最後に、「アルバイトを頑張った自分への“ご褒美”を教えてください」という設問の回答をピックアップしてみました。コミュニケーションをとる際のヒントとしてみてください。
回答者の声
- 仕事の帰りにちょっとだけ豪華なスイーツを買う。
- バイト代が入る日はランチビールで乾杯するのがささやかな贅沢。
- バイトを終えて帰った時にかけられる、家内の「お疲れさん」という言葉。その後の晩酌。
- 日帰り温泉でゆっくりする。
- プレミアムビールを飲んだり、ちょっと高いアイスクリームを食べたり。
- 回転寿司をお腹いっぱい食べる。
- 一年に一回、家内と食事に出かける。
- たっぷり韓流ドラマの視聴に浸る。
思い思いの“ご褒美”が挙げられましたが、「高価な化粧品、洋服を買う」「舞台鑑賞」「ヨーロッパ旅行」などのラグジュアリーなものを挙げた方はごくわずか。シニア層の多くは日々の晩酌や、スイーツやお酒の“ちょい足し”にささやかな満足感を見出しているようです。
シニア層がいきいき働くためのポイント
教育体制の整備
シニア層は「仕事を覚える際の苦労」を困難に感じていることが多い。バックアップ体制やマニュアルの充実など、より良い環境を整えたい。
体力・健康面のケア
持病や体力など健康面の把握は必須。重い荷物を持つなど高負担の作業にはサポートを入れるなどの配慮を。また、休憩時間やスペースの確保、仕事場の寒暖差にも気を配りたい。
良好な人間関係
若者・シニアにかかわらず、良好な人間関係が働きやすい職場環境につながる。ポイントになるのは、適切なコミュニケーションと公平な評価・マネジメント。親睦会の開催なども、上司や同僚スタッフとの相互理解を深めるのに有効。