資格があっても働かないのはなぜ?【介護・看護編】
- 業界別求職者動向
医療・福祉の現場では深刻な人材不足が続いている。看護職では2011年度、56,000人の不足といわれる(厚生労働省発表※1)。そんな中、注目されているのが資格を持ちながらも現在、仕事から離れている潜在層の存在だ。これらの層を対象に調査を実施し、彼らの特徴と本音を探った。その結果から、彼らを確保し、戦力として活用する方法を考えてみたい。
目次
今月のポイント
- 潜在介護・看護職は8~9割が女性、子育て中の人が約半数。
- 彼女たちの多くは「家事や育児と両立できないから」今は働いていないが、「時機や条件によっては、資格を生かして働きたい」と思っている。
- 彼女たちを確保するには、育児と両立できる就業条件の提示がポイント。例えば、週3日、1日3~4時間のパート勤務、独自のシフト体制など
調査概要
- 調査名:有資格者調査
- 調査期間:2011年9月9日~12日
- 調査方法:インターネットリサーチ
- 調査対象:全国の20~40歳の男女で、過去に以下資格職に就業経験のある人のうち、現在は該当資格職に就業していない人
- 調査対象資格:【介護職】介護支援専門員(ケアマネジャー)、介護福祉士(ケアワーカー)、社会福祉士(ソーシャルワーカー)、訪問介護員(ホームヘルパー)【看護職】看護師、准看護師
- サンプル数:498名
1 介護・看護職における滞在的有資格者の属性
半数近くが、小学生以下の「子育てママ」
2011年9月、アルバイトレポートでは、介護・看護職に関わる有資格者のうち、過去に資格を生かして働いた経験があるものの、現在はその仕事から離れている人を対象に調査を実施した。その結果、介護・看護の有資格者で現在働いていない潜在的有資格者について、その約8~9割(元介護職の82%、元看護職の95%)が女性であり、かつ約半数が「5歳以下」の子どもを抱えている「子育てママ」であることがわかった。
こうした元介護職・元看護職の人が、資格を持ちながら、なぜ再就職していないのか。理由として圧倒的に多かったのが「家事や育児と両立できないから」だ。その後に「精神的に疲れる仕事だから」「体力的に疲れる仕事だから」といった理由が続いている。
介護・看護職は、夜勤がある職場が多い。また、どちらも人の命に関わる仕事であるため、やりがいはあるものの、精神的にも体力的にもかなりハードな仕事だろう。それだけに、家事や育児との両立はなおさら難しいのかもしれない。
就業意欲はかなり高い「子育てママ」たち
では、介護・看護職の資格を持ちつつも現場を離れている「子育てママ」たちは、再就職についてどう考えているのだろうか。
彼女たちは、できれば再就職したいと思っている。
5歳以下の子どもを持つ「子育てママ」に再就職の意向を聞いたところ、介護・看護職ともに「時機を見て、そのうち持っている資格に関係する仕事に就きたい」と考えている人が最も多く(元介護45%、元看護57%)、次いで「条件が合えば、すぐにでも持っている資格に関係する仕事に就きたい」が多かった(介護19%、看護20%)。
子育てに専念していたいと考える人よりも、「時機を見て」「条件が合えば、すぐにでも」働きたいと考えている人が多いのだ。子育てに専念しながらも心の中では、「働くことで社会と関わりを持ちたい」、あるいは家庭の経済状況などから「仕事に就きたい」と思うなど、それぞれの理由から再就職を願っているのだろう。
とはいえ、やはり家事・育児と仕事を両立させることは厳しい。
例えば、保育園や幼稚園へ通っている間は、子どもの送迎をしなければならないし、子どもに急な発熱やケガといった突発的なことがあれば、早退や休暇を取る必要も出てくる。小学校へ上がれば「子育ても一段落」と思いきや、決してそうではない。学校のイベントやPTA活動、場合によっては突然の学校からの呼び出しに応じなければならないこともある。このように、自分ではどうしようもない様々なことが、子育て中には起こりうる。そのため、いくら就業意欲はあっても両立が難しく、実際には仕事を控えている状況にあるのだ。
では、今は就業せず、子育てに専念している彼女たちを今、もしくは今後、確保するにはどうすればいいのか。やはり彼女たちが懸念している「家事・育児と仕事を両立できる」職場環境を用意することだろう。
2 両立のための希望勤務条件を探る
短時間勤務のアルバイトを希望
子育てと両立しながら働ける条件として、どんなことを彼女たちは望んでいるのだろうか。調査では、次のような傾向が出た。
まずは勤務日数。介護職、看護職ともに、希望する1週あたりの勤務日数は週3~4日となった。ちなみに彼女たちが以前勤務していた当時の状況で最も多かったのは、週5日勤務である。以前のようにフルで働くのではなく、できれば勤務日数を減らしたいという意向があるようだ。
また、一日あたりの勤務時間に関しては、看護職が3~5時間、介護職が5~8時間を希望する人が多かった。勤務時間についても、過去の就業時より2~3時間短い勤務を希望している。
こうした短時間労働を意識するためか、雇用形態も正社員よりアルバイト・パートを求める人が多くなっている。
過去に勤務していた当時の雇用形態を見ると、正社員であったという人が介護・看護職ともに60~70%を占めているが、今後については、介護職ではアルバイト・パートを希望する人が45%、正社員を希望する46%とほぼ同率。看護職にいたっては、アルバイト・パートを希望する人が68%と、正社員を希望する人を上回る結果となった。
介護・看護職の人材確保に苦心している職場では、これらの潜在的有資格者に注目し、「繁忙時間のみ3~4時間程度」「週3日でOK」といったパート雇用を促進したり、育児との両立を可能にするため、独自のシフト体制を整えるなどの改善を検討してみてはいかがだろうか。フォロー体制が整っていることがわかれば、潜在的な介護・看護職の「子育てママ」はもちろん、これから子どもを持つ可能性のある若い女性層からも支持を集め、優れた人材の確保につながるだろう。
2008年時点で介護職は全国で約128万人だが、団塊世代が全員75歳以上になる2025年には、介護職は約212~255万人と、2008年時点の1.5~2倍近く必要になると言われている(※2)。また看護職は、2025年には約191万8,000人~199万7,000人が必要になると想定されているが、供給見込みは約179万8,000人と、約12万~20万人も不足することになりそうだ(※1)。
このような状況下だからこそ、子育てをしながらも就業意欲のある有資格者は貴重な労働力であり、活用することは避けられない。慢性的な人材不足を解消するためにも、まずは介護・看護職のママのための「子育てに優しい雇用条件の見直し」が望まれる。