人手不足で店長受難! どうすればアルバイトの採用はうまくいく!?
- 採用課題
深刻な採用難と言われている昨今、2018年1月度の労働市場データによると、全体の有効求人倍率は1.59倍となっています。そのうちのパート・アルバイトに限ると、1.83倍とさらに高くなり、中でも飲食店のホールスタッフなどの職種、いわゆる接客業のアルバイトにおける有効求人倍率の上昇は著しく、7.77倍となっています。つまり、8店舗で1人のアルバイトスタッフを取り合っているという現状なのです。
景気の回復と、少子高齢化でアルバイトスタッフの主戦力である若者が減少しているという側面から、アルバイト採用難易度は上がり続けています。このような状況のなか、いったいどのようにアルバイトを採用していけばいいのでしょうか。
今回は、株式会社ツナグ・ソリューションズ取締役であり、ツナグ働き方研究所所長の平賀充記さんに、アルバイトの採用に成功するためのポイントをうかがいました。
なぜ今、「店長受難の時代」なのか?
──「店長受難の時代」などといわれていますが、職場ではどのようなことが起きているのでしょうか。
数年前から、人手不足によって、一人ひとりが長時間働くことでなんとか職場を回すといった状況が増えてきました。こうした職場環境の悪化が行き過ぎてしまったのが、ご存知のようにブラックバイト現象です。アルバイトスタッフの長時間労働はもちろん、忙しすぎて辞めたくても辞めさせてもらえないとか、アルバイトスタッフが1人で店を任される深夜のワンオペとか、大きく報道されたことは、記憶に新しいところでしょう。
その流れから逆の揺り戻し現象が起こったのが2017年でした。その起爆剤となったのが「宅配クライシス」(注)といえます。長時間労働でなんとかしのいできた労働環境も限界に達し、今まで行ってきたサービス優先の考え方を見直す必要に迫られたのです。これがきっかけとなり24時間営業をやめるチェーン店も出てきたり、労働環境の浄化しようという方向に振り子が振られたのです。国を挙げての「働き方改革」大号令ともシンクロしました。
そこからアルバイトスタッフの労働環境も是正される方向に大きな揺り戻しがきました。さらにその延長線上で、今では「アルバイトスタッフの過保護化」が進んでいるのです。劣悪な労働環境を改善しないと、評判が悪くなりアルバイトの応募がこなくなってしまうためです。それによりアルバイトスタッフの労働環境は一気に改善されましたが、そのしわ寄せが店長にいくこととなったのです。
図1:店長の労働時間実態 ※「240時間」は産業医面談を課せられる「月間80時間残業」に相当 出典:ツナグ働き方研究所「飲食店店長・実態調査」(2017) |
店長の労働時間実態についてアンケートをとってみると、過労死ラインといわれる「月間残業80時間」以上働いている割合は通常期で約4割、繁忙期になると約7割近くにのぼります。過去には、一部店舗でみなし残業制の誤用や名ばかり管理職の導入などで本来支払うべき残業代を支払わないまま店長を長時間働かせ、代わりにアルバイトの労働時間を削って人件費を抑えるという事例も問題になりました。そういった体質が残っていることも背景にありますが、今は、アルバイトを守ろうとするがゆえに店長にしわ寄せがいくという構造になっているのです。
アルバイト採用は経営サイドや本部との連携が重要
──やはり店長が忙しくなると、アルバイトスタッフの採用にも影響が出てくるのでしょうか?
その通りです。アルバイトスタッフを採用するのは、店長の仕事となっていることが多いと思います。ただ、これだけ忙しく働いていれば、アルバイトスタッフ採用のために時間やパワーを費やすことは難しいですよね。しかも受け入れ態勢が万全とはいかない状況では、せっかく採用したアルバイトスタッフもすぐに辞めてしまうという残念な結果につながります。人が足りない。急いで採用。教育できずすぐ辞める。また採用。この悪循環を断ち切るには、つまり店長1人だけで採用活動に力を入れるといっても限界があるのです。
──店長ひとりで頑張るのではなく、経営サイドや本部の協力も仰いだ方がよいということですか?
その通りです。採用が成功している企業をみていると、経営サイドや本部の人事が採用活動に深く関わっていることが多いです。店長1人で採用活動業務をこなすのではなく、経営サイドや本部の人事が当事者意識を持ち、アルバイト採用=経営課題として、企業全体で本気で取り組む環境を作ることが必要なんだと思います。
例えば経営サイドや本部人事が介在することで、今まで店舗ごとに行っていたアルバイト採用格差が解消できるというメリットがあります。A店の採用はうまくいっているが、B店ではうまくいかない。当然、A店の店長が持っている採用成功のノウハウを、うまく横展開させてB店の店長にも伝えたい。しかし店長同士で、普段そこまでの情報共有はなかなかしないものです。だからこそ、そこに経営サイドや本部が関わっていくことが重要なのです。採用成功ノウハウをナレッジ化することで店舗の採用格差を埋めていくことができるのですから。
さらに、店舗が経営サイドや本部と連携して採用業務を行う他のメリットとして、新しい手法を取り入れやすくなる、ということもあげられます。作今は採用ツールのデジタル化が急速に進んでいます。若い店長ならデジタル機器との親和性も高いと思いますが、なかにはPCなどの扱いに苦手意識のある年配の店長もいるでしょう。本部がデジタルリクルーティングの流れをうまくリードして、デジタル機器の扱いに慣れていない店長をサポートしていく。これも昨今求められる動きのひとつです。
図2:面接時の不満ポイント 出典:ツナグ働き方研究所「アルバイト&パート採用プロセス行動調査」(2016) |
また、アンケート結果から採用面接そのものが、なかなかうまくいっていないという声もよく聞かれます。応募者が採用面接に不満を持つ人の割合は半数を超えています。不満を持つ理由は、面接官=店長の上から目線の態度に関することが上位を占めています。そもそも忙しい店長は、面接に十分な時間を割くことができません。見極め作業に終始し、仕事内容をしっかり伝えることや応募者への質問にていねいに答えることがおろそかになってしまいがちです。業務の忙しさが雑な面接を引き起こす原因なのです。結果、採用が不発に終わったり、「面接で聞いてた話と違います」という入社後早期離職につながったり。面接は採用業務において極めて重要なタスクなのです。
これを解決するひとつとして、採用面接自体を本部に巻き取ってもらうという手段があります。もちろん自分の店舗のスタッフは自分が選びたいという店長は多いです。そのほうがスタッフへの愛着度も高まりやすいはずです。しかし最近では、本部一括採用を導入している大手チェーンも少なくありません。従来の“オレが雇ってやった意識”がフラットになる効果もあるようです。そうすることにより店長とアルバイトスタッフのコミュニケーションの質が変わっていくこともメリットのひとつになるでしょう。
このように採用業務=経営課題として位置づけ、経営サイドや本部人事が介入・サポートすることは、さまざまなメリットがあります。ぜひ取り組んでほしいですね。
応募者への対応はスピーディーに、面接には時間をかけて
──いっぽう、今のところ現場サイドの店舗で採用活動を進めている場合も含め、辞めない人材をどのように募集していけばいいのでしょうか。
辞めない人材を募集するというよりは、まず、採用率を上げることが必要です。それにはスピーディーに対応すること。アルバイト希望者の「ここで働きたい」という熱があるうちにキャッチして採用する、という姿勢が大切です。連絡を受けたらできるだけ早めに面接設定をするといった、対応をしていきましょう。
応募者がアルバイト先を探す手段は徐々にWEB化してきていますが、スマートフォンの普及により、応募手段は電話に回帰しています。そこで求められるのが応募電話へのリアルタイムの対応です。電話がかかってきた時にどう対応するかで、採用できるかが分かれるといっても過言ではありません。例えば、店長不在時でも店舗にいるスタッフが、店長のスケジュール表を確認して面接設定をできるようにすれば、応募者を逃がさないようにできるでしょう。もちろん、WEB応募に対しても、できるだけ早くレスポンスをすることが大切です。
図3:働きたい気持ちが強くなった面接時の対応 出典:ツナグ働き方研究所「アルバイト&パート採用プロセス行動調査」(2016) |
次に、採用するために考えるべきポイントとして、面接スキルの向上が挙げられます。面接の重要性について先述しましたが、最も大切なのは、応募者にどれだけその職場で“働く動機づけ”ができるかということです。アルバイト応募者に、どんなことが動機づけにつながったかをアンケートで聞いてみると、「面接で仕事内容をきちんと説明してくれた」、「自分の質問に面接で丁寧に答えてくれた」といった回答が返ってきます。応募者が求めていることは、じつは基本的なことなのです。逆にいえば、面接する側がそれさえもできていないケースが多いことがわかります。
図4:面接時間のかけ方 |
それは、まず面接にかける時間が足りないからです。面接時間についてのアンケート結果では、30分未満という回答が約78%にのぼります。さらにそのなかの詳細を見ていくと、15~30分未満が58%と、多くの店舗・会社が面接に時間を割いていない結果となっています。どんな人かを見極めるだけでも30分くらいはかかりますし、さらに動機づけのためにはもっと時間が必要になります。面接には1時間程度は時間をかけてほしいですよね。その間にお互いの相互理解も深まるはずです。また、店内やバックヤードを案内するなど、どんな職場かを知ってもらうのも有効です。
動機づけタイムを確保したら、やりがいについて積極的に伝えていきましょう。伝えたつもりでも相手に伝わっていないこともあるので、熱意をもって話すよう心がけること。同時に、こうした面接のノウハウはマニュアル化できる部分もあるので、質問事項や説明内容、店内案内手順など共通する部分をまとめておくのもひとつの方法です。
ただし盛り過ぎはNG。アルバイトスタッフがすぐに辞めてしまう最大の理由は「面接で聞いていた話と違う」です。メリットばかり伝えていると入社後ギャップが生じてしまいます。仕事の大変な部分なども正直に伝えることは、辞めてしまうアルバイトスタッフを減らすうえで非常に大切です。
ここまで解説してきたひとつひとつの対応が、「辞めない人材」を採用するということにつながっていくのではないでしょうか。
まとめ
前篇の今回は、アルバイト採用を行う職場の現状と採用についての考え方、そして採用のための具体的な方法を教えていただきました。
店長受難の時代、多忙な店長が1人でアルバイト採用を行おうとしても無理が生じてしまいます。本部がサポートに入ったり、一括採用を導入したり、全社が一丸となって取り組むことが問題解決につながっていきます。また、採用時には面接までの対応をスピーディーに行うことも採用率を上げ、そして面接では動機づけの時間を十分にとることが、辞めない人材の採用につながるのです。
後篇では、こうして採用された人材が辞めずに働き続ける職場とはどういうものなのか、うかがっていきたいと思います。
注:宅配クライシスとは
eコマース市場の拡大に対して宅配業界の配送体制が追いつかず、荷受量の規制や送料値上げなどの対応がなされた一連の出来事のこと