この深刻な人手不足をどう乗り切るか? ~応募者を獲得できる秘訣とは?
- 採用課題
有効求人倍率が1.0を超えて上昇した2014年。深刻な人材難に悩まれた企業も多かったのではないでしょうか? しかし、その中でも求職者たちから根強い人気を誇るのが、居酒屋「塚田農場」などでおなじみのエー・ピーカンパニーと、総合リユース事業の大手ブックオフコーポレーション。今回は、この2社の人事責任者をお招きし、弊社執行役員の横道浩一を加えた3人で、2014年の採用市場を振り返りつつ、今後の人材確保に向けたヒントを探ります。
【座談会参加者】
横道浩一 / Koichi Yokomichi
パーソルプロセス&テクノロジー執行役員 パーソルプロセス&テクノロジー |
山本芳樹 / Yoshiki Yamamoto
エー・ピーカンパニー 副社長室 エー・ピーカンパニー |
冨山隆範 / Takanori Tomiyama
ブックオフコーポレーション 人財部長 ブックオフコーポレーション |
※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のもの。
目次
求人数は増え、求職者数が減った2014年
時給アップだけでは、人材を集められなくなっています。
横道 リーマン・ショック以降、有効求人倍率は上昇を続け、2014年6月に1.10となりました。これは、1990年前後のいわゆるバブル期に並ぶ高水準です。有効求人倍率が1.0を超えたのは、長いスパンで見ると統計が始まった1963年以来4回のみ。有効求人倍率が1.0を超えているということは、簡単にいえば応募者を全員採用しても人手が足りない状態ですから、いかに異例の事態であるかがわかります。
さらに、求職者数は月によって変動はあるものの、前年比で5%前後減少を続けています。求人数が増加傾向にある一方で、求職者数が減り、人手不足が深刻化しているのが現状なのです。
平均時給はいよいよ頭打ちに……
横道 また、2014年は全国的に上昇が続いていた「平均時給」にも変化がありました。例えば、「an」の飲食・フード業界では、2012年あたりから平均時給は上昇を続けてきましたが、2014年に入ってから月によってはマイナスへ転じるようになりました。
販売業界でも、4月の消費税増税の前後からは前年を下回る月も出始めました。時給の上昇は高止まりしつつあると推測しています。採用難を解決するために、時給をはじめとした各種条件を変更する動きは一巡し、限界に近づいているのではないでしょうか?
今回お話を聞くのは、まさにこの状況の渦中にありながら、人材獲得に健闘されている「エー・ピーカンパニー」と「ブックオフコーポレーション」の2社です。求職者が減少し続ける中で、どのように人材を募り、かつスタッフの定着率を高めているのか。その方法について伺いましょう。
<人気の2社にココが聞きたい!>
- 募集&採用プロセスの見直しを含めた「応募者の確保」の方法
- 採用した人が辞めない「定着率アップ」の方法
応募者数を増やすための施策は?
横道 募集をかけても人材が集まらないなか、一部の企業では主婦層やシニア層なども積極的に採用するなど、募集ターゲット拡大の動きがありました。このような取り組みはされていましたか?
メインターゲットの募集方法を見直しました
山本 弊社(エー・ピーカンパニー)の場合、学生をメインターゲットにしているので、今のところ積極的にターゲットを広げることは予定していません。その代わりに学生の募集の仕方を見直しました。今の学生はスマートフォンを使ってさまざまな条件でアルバイトを探しています。その結果、複数の求人媒体を利用しているのです。
そこで、検索結果から弊社の募集にたどり着きやすいよう、求人広告を出す先を4媒体から17媒体に増やしました。結果として、限られた媒体で露出を強化していたときよりも応募数は増加。応募単価を抑えることにも成功しています。
冨山 応募者を増やすために、まず媒体の見直しをしたという意味では、弊社(ブックオフコーポレーション)も同じです。私たちは、特に店舗での掲示を強化しました。当店をよくご利用いただいている方が働きたいと思ってくだされば、マッチング的にもベストですからね。
また、弊社の場合は、各店舗の店長たちが採用権限を持っています。彼らはこれまで、「幅広い商品を買い取り、きれいに磨き、棚入れをして売る」という一連の流れを1人のスタッフが一括して行うことを考慮して、週に4日以上、長めの時間で働いてくれる人を優先して採用してきました。
しかし、人手不足に直面した現在は、各店長やエリアマネージャーたちも求職者が希望する日数や勤務時間などを柔軟に聞き入れる方向へと意識を変えつつあります。もちろん、地域によっては時給を上げることを検討しているケースもありますが、なるべく時給アップには頼らず、勤務条件を緩和することで人材を確保できるよう努めています。
スタッフがやりがいや成長を感じられる仕組みを作る
横道 人材確保のためには、応募者数を増やすとともに、定着率を上げることが欠かせません。応募者の増加に向けた施策を打つだけにとどまる企業も多いなか、お二人の会社は定着率アップにもウエイトを置かれています。
近年見られる求職者のマインドについて、リーマン・ショック前後は、アルバイト選びの決め手は「時給」「勤務地」「職種」などが主流でした。しかし、「an」が調査した「若年層白書2014(15~24歳対象)」によれば、求職者は「社会経験」「仕事の経験」「マナー」「成長」などといった要素をアルバイトに期待することがわかっています。こうした変化は現場で感じますか?
山本 もちろんです。弊社では従業員が自分の成長を感じながら楽しく働けるかどうかが、就活前の離職防止や長期雇用につながると考えています。そこで、アルバイトスタッフにもやりがいや成長を感じてもらえるような研修やイベントをたくさん用意しているんですよ。
就職活動支援セミナー「塚田農場キャリアラボ」。
例えば、働いているスタッフはもちろん、就活前の大学生なら誰でも参加できる就職活動支援セミナー「塚田農場キャリアラボ(通称ツカラボ)」。ほかにも、アルバイトスタッフに日頃の感謝を伝える「APオールスター感謝祭」や、生産者との連携を深める「AP万博」といった交流イベントを実施しています。
研修も多様なテーマで定期的に実施しています。例えば、「人を道具と見なすか、1人の人間として向き合うか」を考えるといった内容。いわば、一緒に働いている人を大切にする環境作りです。
店舗で働くことで、楽しさや成長、やりがいを感じたりすることはもちろんですが、こうしたイベントや研修が、スタッフの満足度や働くモチベーションを高め、結果的に定着率の向上にもつながっていると感じています。
人を大切にする企業文化が定着を後押しする
エー・ピーカンパニーの山本氏(右)とブックオフコーポレーションの冨山氏
横道 ブックオフコーポレーションの取り組みといえば、「キャリアパスプラン」が有名ですね。業界的にも先駆けとなる1993年に導入されたと聞いていますが、そもそもどういった制度なのでしょうか?
冨山 簡単にいえば、個人の頑張りに応じてランクアップする育成制度です。ランクアップと同時に時給も上がり、一定ランクを超えれば社員登用選考にも参加できます。
現在は他社でも同様の仕組みを導入されているので、差別化になるとは考えていませんが、目標が明確になり、仕事のやりがいや自らの成長を感じてくれるスタッフがいるのは確かです。
キャリアパスプラン
社員とアルバイトは立場的に平等であり、やる気があれば役割をどんどん任せていく。こうしたことをいざ実行に移すには、時間とお金、エネルギーが必要ですが、弊社は創業以来、「一緒に働く人を大切に思いながら働く」という思想のもと、「キャリアパスプラン」を実践してきました。
その積み重ねが、人を大切にする社内風土になり、人材の定着にもつながっていると感じています。今後も、この社風を壊さないように気をつけなければなりません。
2015年も厳しくなりそうな採用市場 2社はどう動く?
横道 2015年の採用市場についての予測は難しいですが、大きな流れとして、労働人口、特に若年の働き手が減っていく傾向は変わらないと思います。もちろん、短期的には景気動向に連動して、人手不足が緩和されることもあるとは思いますが、大きな流れから、今後も採用難は続くと想定して準備しておくことが重要だと思います。
相手を選ぶのは、企業ではなく応募者なのです
冨山 そうですね。その点、私たちは今後、2つの業務改善に力を入れようと思っています。
1つ目は“分業化”です。先にもお話した通り、弊社の業務形態は、1人のスタッフが「買い取り」から「販売」までを一貫して行うマルチタスク型です。でも、この一連の流れを分業化すれば、「午前中だけ」「平日だけ」という条件の人にも働いてもらえるはずです。
2つ目は、採用プロセスの見直しです。例えば、「ネットで応募があったらすぐに返信しているか」、「電話で応募があったら丁寧に対応しているか」といったこと。基本中の基本ですが、だからこそ意外とおざなりにしがちでもあります。一般的に「応募者が面接に来ない」というのはよくある話ですが、それは「ここで働きたい」と思わせる対応ができていないせいかもしれません。
こちらが相手を選ぶのではなく、こちらが選ばれる側なのです。忙しい店舗で求職者への細かな対応を徹底するのは大変ですが、粘り強く、手間をかけて実行していくべきだと感じています。
山本 確かに今は、求職者が求める条件や価値観の幅が広がっていて、多様なニーズを満たせる施策をどんどん打ち出していかなければならない時期ですよね。その施策が、スタッフのニーズを満たすと同時にサービスの向上につながり、お客さまにも喜んでいただけたらベストだと思います。
塚田農場でうまくいっている例を挙げると、客単価は約4,000円で、その10%はアルバイトスタッフがお客さまを喜ばせるために自由にサービスできるという権限を与えていること。
それぞれのお客さまに対して「どうしたら喜んでもらえるか?」ということをスタッフたちは必死で考え、行動しています。その成果が出れば、本人の承認欲求が満たされますし、成長も実感できると思うのです。
弊社では、これからもスタッフが「働いていて楽しいな」「成長しているな」と実感できて、同時にお客さまにとっても価値のある取り組みをしていくつもりです。
施策や制度は、継続する覚悟と実行力が必要
求職者は慎重にアルバイト先を見極めてから応募に踏み切ります
横道 きっと2015年も、多くの企業様が人材難を乗り越えるための新しい施策を検討されると思います。そのときに1つ気をつけたいのは、今は求職者がアルバイト選びの際に参考にしている情報源が、一昔前に比べて飛躍的に増えているということです。
例えば、学生たちの生の声を聞いてみると、約半数が「実際にお店に行ってから応募する」と答えているんですよ。また、ネット上の口コミなどを調べることも一般化しつつあります。
山本 その風潮は確かに実感しています。今はネットで少し検索すれば、口コミや評判がずらりと並び、良い情報もそうでない情報も得ることができますよね。
冨山 応募者の拡大を狙って新たな取り組みを始めても、口先ばかりではすぐに見破られてしまう時代ですよね。本気で運用しない限りは、逆効果になってしまう恐れがあります。
横道 新たな仕組みや制度を導入するときは、決して付け焼き刃に終わらせないという覚悟と実行力が必要になるはずです。
本日お招きした2社は、募集&採用プロセスにおいて手間を惜しまず、じっくり取り組まれている点、そして働くスタッフを大切にし、精神的な満足を感じられる仕組み作りや環境作りに尽力されている点が共通していると感じました。
これこそスタッフの定着率アップ、また人材難の時代においても変わらず応募者を獲得できる秘訣なのですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。