自閉症と知らず育てた従業員 その経験が今でも大きな自信に~第1回 株式会社壱番屋 東東海営業部長 平田恵一氏の巻~
- お役立ちインタビュー
現在、企業のトップや幹部として活躍の方々に、店長を務めていた頃を振り返っていただく新連載。店長時代の実体験や失敗から学んだこと、さらにはアルバイトを束ねる店長としての心構えなどをお聞きするコーナーです。記念すべき第1回は、国内外1,300店以上の店舗を展開する「カレーハウスCoCo壱番屋」の東東海営業部長平田恵一氏にご登場いただきました。
目次
プロフィール
平田恵一/Keiichi Hirata
株式会社壱番屋 東東海営業部長
1973年愛知県生まれ。中京大学社会学部卒業後、1996年4月、株式会社壱番屋へ入社。1年の本社研修後、約5年半の間に20店舗以上の「CoCo壱番屋」店長を経験。その後、スーパーバイザーを経て現職に。
株式会社壱番屋
「カレーハウスCoCo壱番屋」を国内外に1,300店舗以上展開するカレー専門チェーン。カレーライス以外にもカレーらーめん、あんかけスパゲッティ、ハンバーグ等の新業態を次々スタートさせている。
http://www.ichibanya.co.jp/index.html
店長になったのは入社2年目から
当社には「ニコニコ・キビキビ・ハキハキ」という社是があるのですが、私の入社当時の新卒採用担当者は、まさにその社是を体現化したような人でした。「こんなにさわやかに、元気よく接してくれる人がいるんだ」と感動したのを今でも覚えています。それが一番の入社動機でした。
店長になったのは本社勤務1年が終わり、ちょうど入社2年目に入った頃からです。そこから約5年半、愛知、長野、富山、福井などにある20以上の店舗で店長を経験しました。大きな店舗だと40名、小さな店で10名ほどのアルバイトがいましたね。
自閉症の高校生が心打ち解けてくれたことは今でも忘れられない
長野の飯田市にある店で店長をしていた時のこと。高校生の女の子がアルバイトの面接にやってきました。そして、毎週土曜の1回だけシフトに入るということで採用しました。
面接では普通に会話していたのですが、いざ働き出すと「いらっしゃいませ」も言えないし、他の従業員ともまったくコミュニケーションがとれない。唯一、私とだけは何とか話してくれるといった状況でした。
実は彼女は自閉症だったのですが、私はそんなことを思いもしなかったので、「ちょっと引っ込み思案な性格なのかもしれないな。だったら私がどこででも働けるように育てよう」と考え、「さあ、声を出していこう」など、ことあるごとに声をかけ、彼女の育成に努めました。
そんなある日、彼女の母親から手紙をいただきました。「自閉症で不登校だったのですが、学校へも行くようになりました。店長のお陰でずいぶん明るくなりました」と。そこで初めて、私は彼女が自閉症だったと知ったのです。
結局、彼女は4カ月ほどで辞めてしまったのですが、辞める際、再びお母さんからもらった手紙には「本人は店長のことが大好きだと言っています」と書いてありました。
この時、彼女を育てようとしてよかったと、しみじみ思いました。人を育てるということはこういうこと、つまり「人が成長していく変化に携われること」なんだと身をもって分かったし、私自身の大きな自信にもなりました。
当社では障害者の方も採用をしているのですが、彼らのことはすごく気になります。会えば、立場を越えてしっかりコミュニケーションをとり、自分にできるケアをするよう心掛けています。
先輩の「自分の得意分野を作れ」が店づくりのキーワード
店長時代、ある先輩から「自分の得意分野を作れ」と言われました。それは何もすごいことではなく、例えば、「チェーン店で1番鍋がきれいな店にしよう」とか「身だしなみではどこにも負けない店舗を作ろう」、「従業員の靴の清潔さでは、全店舗№1」といったことでいいから得意を作れと。そうやって「1番」を意識して店舗運営をしていくと、確かに従業員の士気は高まりますし、店全体の雰囲気も清潔で明るくなっていきます。ですから、新しい店舗に赴任するたびに「ここの1番は何にしよう」と考え、それを実践してきました。
アルバイトが店長を好きか嫌いかで売上も変わってくる
私はどのお店に配属されてもとにかく口数の多い、アルバイトやパートにもどんどん話しかける店長でした。
学生アルバイトにはファッションや音楽、テレビ番組のことのほか、つきあっている彼氏彼女の話を、パートの女性にはご家族の事や、趣味の話を聞いたりしていました。
なぜそうしていたかというと、店長である私を好きになってほしかったからです。
店長のことが好きであれば、店を好きになってくれる。店を好きになれば、運営に関することすべてに協力してくれる。それが結果的には売上アップにつながっていきますから。
自分に対してだけでなく、従業員同士も和気あいあいとした雰囲気で働けるよう、よくみんなで食事にも行きました。実は「みんなで食事」は当社では禁止なのですが、あえて規則を破っていました。それよりも一緒に食事をし、みんなの心が打ち解け、一丸となって働ける職場づくりのほうが大事だと思ったからです。
本部には私が謝ればいい。もちろん、そういう覚悟はちゃんとありました。
「ちょっと」叱るから若者は来なくなる。「ちゃんと」叱ることが大切
また、アルバイトでも自分から「こんなことがやってみたいのです」と言えるような雰囲気づくりと、それを実行できる環境づくりも店長として常に心がけていました。
当社は店長の自由裁量が少なく、本部の決裁を受けなければなりません。それがかえって私にはよかった。というか、そういう縛りがあるからこそ、「でも、店としてやりたいことはこれをやりたいんだ」というスタンスで店舗を運営できたと思います。反骨精神があったというわけではなく、変な言い方ですが、店舗や従業員だけはその縛りから解放してあげたいという思いがあったというか。でないと、従業員だってのびのび仕事できないでしょう。とにかく彼らが気持ちよく働ける店であることが、私にとっては何より大事なことでした。やはり彼らがいかに楽しく働けるかどうかで売上も変わってくることが、分かっていたからだと思います。
今は、営業部長として愛知、静岡、三重の約160店舗を管轄しています。直接、アルバイトの面接をしたりする機会はほとんどないですが、それでも話す機会があれば、流行りの言葉を言われて分からない時はその場で聞いたり、後でパソコンで調べたり。なるべく彼らの感覚も把握するようにしています。
最近は若者の気質が変わったなどと言われていますが、全然そんなことはないと思います。「ちょっと叱っただけですぐ来なくなる」という話も聞きますが、「ちょっと」だからダメなんです、「ちゃんと」叱らないと。私たちだって若い時、バイト先の店長にちまちま叱られたら腹が立って、「こんな店辞めてやる」と思ったはず。そのあたりの感覚はまったく変わってないですよ。だから何よりまず、自分たちの若い頃と大して変わっていないんだと思って若い人たちに接することが大事なのかもしれません。そうすることで、彼らとの距離もグンと縮まっていくはずです。