「小さな会社」のブランド戦略 – スターブランド株式会社 村尾隆介
- お役立ちインタビュー
アルバイト先を探すうえで、店や会社のイメージはとても重要なポイント。なおかつ、そのイメージは友人の意見や、利用者としてその店へ行った時の印象に大きく左右されます。では、アルバイトを探し中の人が応募したくなる店、アルバイト先として魅力的な店になるためにはどうすればいいのでしょうか。『小さな会社のブランド戦略』の著者であり、日々、数多くの中小企業のブランド戦略立案に、コンサルタントとして携わっている村尾隆介さんにお話を伺いました。
目次
~ブランド力を持つと、自然に「引力」が備わってくる~
従業員の表情を観察し、「うちは、みんなつらそうな顔をして働いているなあ」と思ったら、その状況を変えることが最初の一歩となります。
ブランド戦略はいわば中長期戦略。短期で売上を伸ばす営業戦略とは異なり、直接、数字にはね返ってくるものではありません。店舗の雰囲気や空気を作るための戦略なので、効果が見えにくいところがあります。しかし、地域や業界で注目されるような店舗になれば、お客様はもちろんのこと、スタッフも募集に苦労せず向こうから「働かせてください」と集まってきます。ブランド力を備えると、引力が作用し、人材が自然に入ってくる仕組みになっていくのです。
では、どうすればブランド力のある店舗になれるのでしょうか。
最初にまず、「仕事はつらいもの」「そのつらさを我慢する対価として給与をもらっている」という考えを、全従業員から徹底的に取り払ってください。従業員の表情を観察し、「うちは、みんなつらそうな顔をして働いているなあ」と思ったら、その状況を変えることが最初の一歩となります。「ここで働きたい」と思われる店舗になるには、従業員一人ひとりが心からの笑顔で業務に携わっていることが大前提です。
~方向性を掲げ、逆算して今すべきことを考える~
次に、ブランド戦略で大切なのは「逆算のクセ」。ビジョン(将来の構想)、ミッション(企業としての使命)、バリュー(企業価値)、クレド(信条)すべてを決定し、それらを総括したところで、店舗や会社の未来へ向けての方向性が決まります。
方向性が定まったら、必ずそこから逆算して、何をすべきかを考え、実践していきましょう。
例えば、「うちはみんなが幸せに楽しく働く店を目指す」という方向性だとしたら、そのことを見据えて、「それなら店内の印刷物はこうしよう」「働く仲間同士でこういうルールを作ろう」「採用試験はこうしてみよう」と、自分たちがすべき枝葉の部分のことを丁寧に考え、具現化していきます。
そうすれば、自分たちの目指す方向性からぶれることなく、様々な改革を進めていくことができるはずです。
~ラスト10%のツメにこだわる~
ブランド化を目指すなら、中途半端なところで妥協しない、手抜きをしないことが大事です。
そして、ぜひ皆さんに行っていただきたいのは、最後10%のツメを怠らないこと。ブランド化を目指すなら、中途半端なところで妥協しない、手抜きをしないことが大事です。
もともと日本人はサービス力が高く、「こうしよう」とゴールを決めれば、90パーセントくらいはできてしまうものです。ところが残念なことに、みんなそこで終わってしまう。「概ねできたから」と満足してしまうんですね。「一見楽しそうに見えるけど、本当にスタッフは仕事を楽しんでいるか」「私たちにできることは、もっとあるのではないか」など、最後の残り10%までこだわって、あと一歩踏み込んで自分たちがすべきことを考え、詰めていく。それができると、地域でも業界において圧倒的に光る企業や店舗になるができ、良い人材を引き寄せる力も備わってきます。
ある程度できたところで満足してしまうか、それとももうひと踏ん張りしようと努力できるか。それによって店のブランド力は180度変わってくるのです。
~ブランド力のある店舗には「他地域、異業種から見学者が訪れる」「いい人材が集まってくる」~
茨城県にある調剤薬局「やまぐち薬局」は7、8年前までごく普通の地方薬局でした。当時、周辺にはドラッグストアが増え、このままではお客様が来なくなってしまうかもしれないという状況に陥りかけていましたが、今では他の地域・異業種から見学者が訪れるほど魅力的な薬局に生まれ変わり、「働かせてほしい」「ここで勉強させてください」「うちの従業員を数カ月預かって教育してほしい」と多くの人々が集まってきています。居心地の良さから、お客様の滞在時間も長く、店内はいつも賑わっています。
「やまぐち薬局」の成功の背景には、「相談できる『くすりやさん』」という企業スローガンを設定し、それに基づいて徹底的に行った店舗改革があります。お客様の誰もが相談しやすい雰囲気をつくるため、ユニフォームを明るく刷新、店舗の照明も青白い蛍光灯から飲食店のようなハートウォームな色のものに変えました。また、従来の薬局のイメージを自分たちの工夫で変えていこうと、バックオフィスには「暗い、汚い、高圧的なイメージを変えていきましょう」というポスターを随所に貼りました。
当初は、「面倒だから嫌だ」「仕事が増える」と改革に抵抗するスタッフもいましたが、ビジョンを掲げて粘り強く改革を推進していくうちに、「自分たちが望んだ通りに、お客様が集まってくれる」ことを実感するようになり、スタッフみんなが生き生きと働くようになっていきました。
では、「やまぐち薬局」のように、自社店舗をブランド化するためにはどうすればいいのか。下に、誰もが今すぐ実行できる10のポイントを挙げてみました。ビジョンと方向性が定まった企業や店舗であれば、必ずできることばかりなので、ぜひ実践してみてください。
従業員と今すぐできるチェックポイント10
1 ビジョン・イメージと矛盾しないユニフォームにする
くすんだ色のユニフォームでは、店全体の表情も暗く沈みがちです。「明るい店づくりを実現する」とビジョンを決めたなら、その意志に準じたユニフォームに刷新しましょう。その際、心がけてほしいのは、業界の常識から10%程度はみ出してみること。私は、ある建築会社のユニフォームをフェラーリのレーシングチームのような派手なものにしました。それによって店内の雰囲気が明るくなるだけでなく、従業員のモチベーションもアップし、みんなが楽しそうに働くようになりました。全従業員が着用するユニフォームは想像以上に店内の印象を決める、ブランド化において大事なアイテム。刷新が難しければ、首に彩りを添えるスカーフを巻くなど、着こなしにひと工夫を加えるだけでもOKです。
2 ビジョン・イメージと矛盾しない印刷物を揃えていく
「エコにやさしい店」と言いながら、メニューがピカピカの光沢のある紙でできていたり、店紹介のカタログがムーディーな雰囲気を醸し出していては、お客様は違和感を抱きます。その違和感に気づかないまま営業している店で、「自分が磨かれる」「成長できる」とは誰も思いませんし、働きたいとも思わないものです。理想とするビジョン、イメージがあるのであれば、それに準じるよう印刷物ひとつにもこだわりましょう。
3 一流ホテルと同レベルの清潔感を保つ
「年末の大掃除の時にまとめて」ではなく、毎日掃除しましょう。しかも、一流ホテル同等の清潔感を保つことを心がけてください。私はコンサルタントとして店に伺う際、必ずトイレをチェックし、場合によっては誰が掃除しているかを尋ねます。「当番制で掃除しています」とか「トイレ掃除は社長自ら」と答えてくれるような店舗の従業員は、たいてい輝いています。反対に「特に決まっていません」「時間が空いた人が…」なんていうところはダメです。掃除がおろそかな店は、お客様はおろか、アルバイトも次第に寄り付かなくなります。
4 スタッフ同士の呼び方を決める
スタッフ同士がどう呼び合っているかで仲の良さや、その会社がスタッフをどれだけ大切にしているかがが伝わります。「●●ちゃん」と親しげに呼び合うことを否定はしませんが、理想的なのは店長もアルバイトも関係なく「●●さん」と敬称で呼び合うこと。できれば、アルバイトの総称も「スタッフ」なのか「クルー」「キャスト」なのかなど、見直してみるとよいと思います。「クルー」なら、みんなが同じ船に乗っている運命共同体のように聞こえますし、「キャスト」だと、一人ひとりが店を舞台に演じるように働いている感じを演出することができます。従業員の意味づけが明確になるわけですね。
5 離職率が高いと思われないようにする
お客様から「あれ、あの子いないね」「スタッフ変わったの?」などと言われたら要注意。1年以内にどれだけの従業員が辞めたか今一度確認を。その上で離職率を下げるための工夫や制度を作りましょう。
「Soup Stock Tokyo」では、「ファミリー制度」を設け、1人の新人スタッフに対して「お父さん」「お母さん」「お姉さん」「お兄さん」役という立場のトレーナーが計4人つき、新人をフォローする体制にしています。何かあればいろんな立場の相談役がいるお陰で、離職率はぐんと下がっています。
実は、私も本業とは別に飲食店を経営しており、離職率で悩んだことがありました。その際、「早い段階で先輩になることで、自己重要感を持ってもらえるのではないか」と思い、75項目の「スタンプラリー制度」を導入しました。これには「トマトの切り方」「読むべき本」など、習得すべき項目が並んでいるのですが、例えば「トマトの切り方」に習得済みのスタンプを押してもらえれば、翌日からその項目に関して他の人に教えることができるのです。人に教えることは、とてもやりがいを感じられること。いつまでも下っ端だとやる気がおきませんよね。そういう気持ちに配慮した制度というわけです。
6 スタッフ同士が仲良く見えるかどうか確認する
互いに助け合っているかどうかといったチームワークの良さは、日々の接客態度を見ていればわかるもの。自分の店はどうか、すぐにチェックしてください。なお、雰囲気づくりのポイントは「お互いに褒める環境づくり」。私がブランド戦略を手伝っている愛知県の野球用品専門店や、千葉県の老人ホームでは、3と9のつく日を「サンキューデー」としてチームメンバーを褒め合う日にしています。また、5~6人の朝礼なら、毎回1人ずつフォーカスし、徹底的に褒めることをお勧めしています。それだけで気分が軽やかになって、みんな生き生きと働くようになります。
7 社会への取り組みが表現できているか確認する
特に最近の若い世代は社会貢献やボランティアへの意識が高いので、ぜひ企業や店舗の社会への取り組みをアピールしてください。もちろん、単なる自慢にならないように留意が必要ですが、そもそも事業とは社会に貢献する取り組みですので、その説明も「社会の一員としてこんなことをやっています」とサイトや印刷物に添えておくことで、「ここで働くことは社会貢献になるんだ」と意義を感じて応募してくれる人も出てくるでしょう。
8 バックオフィスをすべて女性目線で改善する
休憩時間や昼食時に過ごすバックヤードを、女性目線ですべて改善しましょう。男性しかいない職場でも、女性目線はおすすめです。女性スタッフが喜び、長居したくなるようなキレイでおしゃれなオフィスづくりができれば、おのずと働く人を引き寄せることができます。
9 植物やポスターの管理をチェックする
古いポスターや何年も前に雑誌に掲載された記事など、貼りっぱなしになっていませんか。イメージがよくないので、すぐに取り払いましょう。また、植物が埃まみれになっていたり、枯れかけていたらすぐに取り換えましょう。「人を大事にする会社」と口では言いながら、目の前の植物すら育てられないようでは、従業員もお客様も寄りついてくれません。実際、青々と元気な植物が置いてある店は、スタッフの雰囲気にも活気があるものです。
10 楽しい制度やルールをクチコミのネタにする
福岡のカウテレビジョンは、「カウ=牛」という社名にちなんで、社員旅行はすべて「牛がらみ」。牧場での牛の乳搾りに始まり、沖縄の水牛乗り体験、次はスペインの牛追い祭りを予定しています。また、親の誕生日には必ず有休をとって実家へ帰らなければならない「親孝行ホリデー」もあります。どんな親孝行をしてきたか、後日報告する制度になっています。
上の例は社員のケースですが、こんな具合に楽しい制度やルールがあると、「あの会社は、こんな面白いことをやっている」と評判になります。同時に、カウテレビジョンの「牛」のような軸を作ると、従業員が率先して軸にちなんだ制度やルールを実践し、さらに面白いことを始めようと企画してくれるようになります。
ですから、このようにクチコミネタになるような制度を設置することもお勧めです。「こんな面白い職場で私も働きたい!」と思ってくれる人が増えていきます。クチコミを広げるため、ユニークな採用試験を行うのも1つの方法です。
~ブランドマネージャーを設置して今すぐ始めよう~
「最終的には全スタッフがブランドマネージャーとして働いてくれることが理想ですから、老若男女問わず、複数の方にこの肩書を持ってもらうといいと思います。」
この10項目を実践していくために、ぜひ社内にブランドマネージャーを置いてください。すぐに設置が難しければ、良い意味で公私混同できる人の肩書に、「ブランドマネージャー」と加えてあげてください。上手に公私混同できる人は、週末に見聞きしたことを平日の業務に応用できるポテンシャルがあります。こうした人は肩書や役割がつくだけで、自然に「ブランドマネージャー」に関する本を読むようになったり、自主的に勉強を始めてくれるようになります。彼らが「こうしたい」ということを受け入れ、任せればどんどん面白いアイデアで会社をブランド化していってくれるはずです。最終的には全スタッフがブランドマネージャーとして働いてくれることが理想ですから、老若男女問わず、複数の方にこの肩書を持ってもらうといいと思います。
以上、いろいろ私自身の経験をもとにお話ししてきましたが、少しでもみなさんの企業や店舗の改善、ブランド化にお役に立つことができれば幸いです。
村尾隆介 / Ryusuke Murao スターブランド株式会社 小さな会社のブランド戦略の専門家。スターブランド社の共同経営者・フロントマンとして全国をプロジェクトで飛び回る。弱冠14歳で単身渡米。ネバダ州立大学教養学部政治学科卒業後、本田技研に入社。同社汎用事業本部で中近東・北アフリカのマーケティング・営業業務に携わる。退社後、食品の輸入販売ビジネスで起業。事業売却を経て現職。その成功ノウハウを小さな会社や店に提供している。著書に「小さな会社のブランド戦略」(PHP研究所)、「『変える』は毎日のお仕事」(朝日新聞出版・、森川綵氏との共著)など多数。スポーツをこよなく愛するアスリートでもあり、6月に開催された「プノンペン国際ハーフマラソン」で総合5位に入賞。 http://www.starbrand.co.jp/ |