ヴィレッジヴァンガード流 人を育てる方法 – ヴィレッジヴァンガード
- お役立ちインタビュー
掲載企業DATA | 株式会社ヴィレッジヴァンガードコーポレーション |
本社所在地 | 愛知県名古屋市名東区上社1-901 |
代表取締役会長 | 菊地敬一 代表取締役社長 : 白川篤典 |
設立年月日 | 1998年5月(創業 1986年11月) |
資本金 | 22億4248万9000円(2011年5月31日現在・連結) |
事業内容 | 「遊べる本屋」をキーワードに、書籍、雑貨類、ニューメディア(DVD、CD類)を複合的に陳列し、販売する小売業。 |
店舗数 | 365店舗(直営343店+FC22店)※2011年5月31日現在 株式会社ヴィレッジヴァンガードコーポレーション |
目次
01 アルバイトからのスタート、時給は低く設定
書籍をはじめ、雑貨やインテリア、ファッション小物、CD、DVDなどを幅広く扱い、「遊べる本屋」として知られるヴィレッジヴァンガード。新刊書やベストセラーに頼らない品揃えや「連想ゲーム」と呼ばれる独特の陳列、思わず見入ってしまうPOPなどで、高校生や大学生など若年層を中心にファンが多い。
昨年、初めて新卒採用を実施したが、採用したのは大卒2名だけ。設立以来、同社では、アルバイトからの採用・登用を基本としてきた。アルバイトのきっかけについて、「お客として店に何度も通ううちに働きたくなり、アルバイトを始める人ばかりです」と語るのは、人事部の八木雄高さんだ。
自らも約3年のアルバイト期間を経て正社員になったという八木雄高さん。2009年より人事部に
現在、全国に400店舗近くを展開しているが、仕入れにも、店舗の経営や運営の仕方にも一切本部は介入せず、すべて店長に任せている。採用も同様だ。店舗ごとに店長が求める人材を採用している。
「採用基準も店舗によって違います。私が店長職だった時は『ヴィレヴァンは楽しそう』と憧れだけでは続かないので、実際には地味で肉体的にも相当ハードであることを伝え、『それでもいい、がむしゃらに働きたい』という人を採用するようにしていました」
ちなみに、アルバイトの時給は低く設定している。「時給額が高ければ、応募してくれる人は確かに増えると思います。ただ、同時にすぐ辞めてしまう人も増えてしまう。時給が低くてもヴィレッジで仕事をしたいという強いモチベーションをもった人材を求めているのです」
02 現場で働きながら自分で売り方を学んでいく
アルバイトは働きながら、仕入れ、ディスプレイ方法、POPの描き方、接客などを学んでいく。誰かに習うというより自分で覚えてほしいと考えているため、かなり早い段階でアルバイトに売場を任すのだ。八木さん自身、入って2週間で店長から「書籍売場を任せる」と言われたそうだ。
八木さん自身、アルバイトで入って2週目に『本の売場、任せるから』と店長に言われ、驚いたそうだ
「仕入れと返本の仕方は一応教えてもらいましたが、どんな本を仕入れて並べるかは完全に自由なんです。『好きにしていい』と言われても、どうしていいかわからず、近くの書店の棚を見に行ったり、近隣の店舗へ行って自分で勉強しました」
とはいえ、最初は知識もなく、それまで店長が担当して作り上げた売場を維持するので精一杯だったという。「店長への遠慮もありました。でも、他店を見に行った際、そこの店長に相談したら、とても気軽な感じで『自分が売りたい本を自由に売ったらいい』と言われて、まさに目からうろこでした。それから自分が好きな本を仕入れて並べるようになりました」
そのうち、自分なりに仕入れて売った本のなかに、売れるものが出てくる。「そうなると、もう楽しくて仕方ないですよね。もっと売場を良くしよう、もっと売れる本を探そう、売れるようにPOPを描こうなど、自然に思い、行動するようになっていきました」
こうした成功体験が、本人のやる気を引き出していると八木さんは言う。
「正直、アルバイトの場合、時給だけを考えると他の仕事をした方が絶対に良いわけです。でも、それ以上に、好きなことをやらせてもらえることに、やりがいがある。だからこそ、お金のことを気にせず頑張れるのです」
03 「任せる」+「褒める」を徹底的に繰り返す
人材をどう育てていくかも、基本的に店長次第だ。「概ね、私たち店長は、その人に仕事を任せるとなれば、本当にすべてを任せます。多少軌道修正することはあっても、ほとんど干渉しない。『何かあれば相談して』という程度の関わり方です」
そして、その人が任された仕事を実践できたら、とにかく褒める。それをただひたすら繰り返すのが、“ヴィレッジヴァンガード流、人の育て方”だ。
「どうしても、人ってダメなところを指摘しがちじゃないですか。それが当社にはないんです。『あの売場、お客さんの反応がいいね』『POP見て、お客さんがクスクス笑っていたよ』『あのグッズ、売れたね~。よかったね』という具合に、とにかく良いところを見つけて褒める。うまくいかないことは相談に乗る。マニュアルなどはないのですが、それぞれ店長自身がそうやって育てられてきたから、伝承芸みたいに、“任せて、褒めて”人を育てています」
ヴィレッジヴァンガードの大きな特色の一つに、独特な表現が魅力のPOPがある。これもマニュアルがあるかと思いきや、ない。どのPOPも、まったく従業員の自己流なのだ。八木さんも現場にいた時は「商品の売れる売れないにこだわらず、まずはお客さんを笑わせたいと思って描いていました」と言う。
「入ったばかりのアルバイトに『POPを描いて』と言うと、たいていは尻込みするんです。『字が下手で…』『センスないんで』と言って。確かに最初は、先輩のマネだったり、実際に下手だったりするんです(笑)。でも、それを『よく描いたね』『売れたのは、あのPOPの効果なんじゃない?』と褒めると、だんだん楽しんで描いてくれるようになる。そうすると、そのアルバイト自身がやる気を出し始め、その結果、売場が良くなり、モノも売れるようになる。相乗効果ですよね」
04 アルバイト店長を経て正社員に
同社では、ほぼ全店長がアルバイトとして入社後、売場を任されて約2年で店長になる。ただし、この時点では、まだアルバイト雇用。そこからさらに約2年、店長職を務めてようやく正社員となる。
「店長になれば、自分の世界観を店全体で実現できる。そうした店舗運営を既存の店長が楽しそうにやっている姿に触発され、多くのアルバイトが自然に店長を目指し、その先にある正社員を目標にしています」
また、正社員になるとグンと給与が上がる。好きなことができる業務内容が最大の魅力ではあるものの、こうした給料アップも、アルバイトが店長・正社員を目指すモチベーションアップにつながっている。
ただし、すべてのアルバイトが正社員になれるわけではない。そこは実力主義に徹している。店長職に就けるのは、チームワークを大切にできる人だという。
「アルバイトとか正社員の立場を超えて、みんなで考え、みんなで店舗を作り上げていこうという風土があるので、独断的なリーダーよりも従業員の意見を吸い上げ、うまく全体をまとめながら次に進んでいける人、そんなチームを作れる人が店長職として活躍しています」
05 育てるために、もっと失敗させたい
早い段階で従業員に売場を任せるのは、『失敗が人を育てる』という思いがあるからだ。八木さんもアルバイトで入った頃は、失敗の連続。特に商品を頼みすぎ、在庫が大量に出て苦しんだことなど何度もあったと語る。
「『これは売れる!』と思って100個仕入れても、実際には3個しか売れなかったということもあるわけです。売れなかった97個をどうするか。もちろん、店長にも相談しますが、何とか自分で売ろうと工夫します。POPを変えようかとか、商品を色々な売場に分散させようとか…」
そういう失敗があったからこそ、成功した時の喜びは大きい。「在庫の97個を売り切る苦しみを味わったことは、実際、その後の自分の大きな自信につながっています」
ところが、最近の従業員はこの失敗経験がずいぶん少なく、そこが問題だと八木さんは感じている。「仕入れの理由でも、『業者さんが勧めるから』とか、『他店舗で売れているから』とか、とても保守的な傾向があります。型破りな人が以前に比べて減っているんです。そうなると各店の個性が消え、均一化してきてしまう。そこが今、私たちの抱える大きな課題でもあります」
そのため、本部からは「もっと従業員に失敗させよう」と各店舗に伝えている。「『小さな売場で練習させてください』とお願いしています。たとえ失敗しても売場が小さければ、店全体の売上にも影響が少ないので。売れる店にすることも大事ですが、それ以上に、私たちは従業員一人ひとりが持つ世界観をしっかりと具現化できる店を今後も作っていきたいのです。そうすればお客様に支持されて、最終的に売上につながると思っています」
ヴィレッジヴァンガードの人材育成には、マニュアルも特別なルールもない。学べるのは「先輩たち」と「自分の失敗」からでしかない。「だからこそ、一人ひとりを信頼し、任せ、失敗してもらいながら、質の高い人材を育てていく。このやり方は、今後も基本的に変わらないと思います」