「早期退職を防ぐ人間関係の築き方」 人材育成ベーシック 松田尚文
- お役立ちインタビュー
新人を迎える前にやるべき3つの退職防止策について、前回「働く環境を整える」で、新人が入る前の準備についてご紹介させて頂きました。
では、新人が入ってからはどういった点に気をつければ良いのでしょうか?その対策の中で、今回は特に「人間関係の築き方」についてご紹介いたします。
早期の退職は、働き始めの段階での印象や対応に不安・不満を感じることによって生じます。最初の対応がいかに重要かは言うまでもありません。前回「働く環境を整える」や「オリエンテーション」による退職防止策を説明しましたが、これらは実際に働き始める前とスタート時点での防止策と言っていいでしょう。主な退職理由のひとつ「店長などの雰囲気が悪い」は実際に現場で働き始めた後に新人が感じることです。つまり勤務開始後の退職防止策は非常に大切で、きちんとした対応策を実行することが望ましいのです。
この「店長などの雰囲気が悪い」とは、店長や同僚が面倒を見ない、周りの人が快く受け入れないなどの新人が溶け込みにくい環境を作っていることが原因です。これでは退職を促しているようなものです。店長や同僚の誰かがつきっきりで面倒を見たり、同僚がいつも近くでサポートしたりすれば、新人も安心して働けます。それらを常にできるように形にしておくと良いでしょう。
その具体策のひとつが、「パートナーをつける」です。
新人のオリエンテーションからトレーニングまで、新人を教えることができるスキルと経験を持つ人を、一定のレベルに到達するまでマンツーマンでつけておきます。特に初日から数日間は密着させておくとよいでしょう。パートナーは、新人の勤務開始時間から終了時間まで一緒に仕事し、仕事を教え、店での過ごし方を指導します。パートナーは、新人が何か困ったことがあったり、上手くいかなかったりした時にはすぐにフォローに入ります。休憩なども一緒にとり、仕事のことや店のこと、また、それ以外でも共通の話題を見つけて、話すとよいでしょう。
早期退職防止としては既存の人達との信頼関係の構築が必要です。単に一緒にいる仲間では、店に対する愛着もわきませんが、人間的なつながりが築かれれば、人や店に対する愛着も生まれ、辞めたいと思うことも少なくなるでしょう。
では、信頼関係を築くにはどうすればよいでしょうか?方法は2つあります。ひとつは「相互に知り合う」ことです。信頼関係は相互理解から始まります。コミュニケーションによってパートナーはどのような人物であるか、新人はどんな人かを相互に理解すればお互い理解者になれます。そして、信頼関係を築く方法のもうひとつは、パートナーが「常に模範を示す」ことです。仕事の方法、手順、基準、スピード、効率などで模範を示すことが最も分かりやすいのですが、仕事に対する意欲的な姿勢、高いモラルや意識を実際の行動で示せば信頼できる人物として頼れる存在になります。
こういったことによって、緊密な人間関係が築かれ、新人は職場で安心して働くことができます。
しかし、人間関係が良好になっても、仕事を覚えていく進歩や達成感を感じられなければ新人の意欲は高められません。ここで重要になってくるポイントは「観察し認める、褒める」ことです。パートナーは新人の仕事ぶりをよく観察し、進捗や頑張りが見えた時にはそれを認め、声に出して本人に伝えます。また素晴らしい仕事ぶりを見せた時は思い切り褒めます。認められれば誰でもより良い仕事をしようと意欲的にもなります。
このように、人を大事に育てていこうとする気持ちを持ち、パートナーをつけ、信頼関係を作り、意欲を高めるのは容易ではありませんが、それを実行すれば、「退職防止」や「人材の成長」という大きな果実は確実に得ることができるでしょう。
松田尚文 / Naohumi Matsuda 日本マクドナルド(株)に17年間在籍し、店長、スーパーバイザー、海外駐在(3年)、本社人事部統括マネージャーを歴任。1993年よりコンサルタントとして活動開始し、1999年人材育成ベーシック社を設立。 コンサルタントとしてメーカー・サービス業・チェーン店企業を中心に、人材育成、チェーンオペレーション開発、人事制度等のコンサルティングを行う。東洋経済社「日本のコンサルタント101名」の1人に選出される。 |
著書
1999年7月:『八方ふさがりを突破する本物店長マニュアル』明日香出版社
2001年:『実践!強い店長学』明日香出版社
2002年:『飲食店業務マニュアル』アーバンプロデュース社
2003年:『小売店業務マニュアル』アーバンプロデュース社