「ニーズに合わせて進化する“共育”制度」 – 株式会社ユナイテッドアローズ
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目次
掲載企業DATA:株式会社ユナイテッドアローズ
本社 | 東京都渋谷区神宮前2-31-12 |
設立 | 1989年10月2日 |
資本金 | 30億3千万円 |
従業員数 | 2,303名 (2008年3月31日現在) |
売上高 | 2008年3月期 連結 72,221百万円 単体 69,560百万円 |
事業内容 | 紳士服・婦人服及び雑貨等の企画・販売 |
01 イントロダクション
2007年、アルバイトの正社員登用を行う企業が増えたのがこの年。株式会社ユナイテッドアローズ(以後、ユナイテッドアローズ)もそのひとつだ。
業界内でも早期に採用に踏み切った理由は何か。結果どのような効果がもたらされたのか。若手社員の増加に伴い、教育機関として作られた企業内大学・束矢大學(たばやだいがく)について、ユナイテッドアローズ人事部人財開発課の飯嶋聡さんと長島勝さんにお話をうかがってみた。
02 アルバイト1200人を正社員に登用
2007年8月、ユナイテッドアローズは全従業員の社員化制度を導入し、1200人ものアルバイトを正社員として一挙に登用した。その背景には、創業来掲げてきた「販売員の社会的地位向上」を全販売スタッフが社員になることによって前進させることや、これによるES(従業員満足)の向上と、ESがもたらすCS(お客様満足)向上への循環効用を作りたいという意図があった。
「アルバイトスタッフは、実際にショップで働いていた経験がありますし、会社の予備知識なども持っていますから、当然即戦力として活躍していました。その一方で、社員化制度導入以前はアルバイトとして3~4年、働いた後に社員になるチャンスが与えられない状況もあったため、せっかく技術や経験を持っているのに他社へ移ってしまうケースもあったんです。そこで、泣く泣く退職を決断する人材の流出を防ぎ、従業員満足を高めるために社員化に踏み切りました」(長島さん)
それにしても、1200人の大量社員登用は人件費がかなりかかりそうだが……。
「これはコストではなく先行投資だと考えております。未来のために若手を育てていくことが重要でした。2~3年後、それ以降の将来を見据えれば、どうしても必要な改革だったんです」(長島さん)
03 いろいろな人財からよいアイデアが生まれる
全社員化を開始して、2年の月日が経過したが、社員の定着率はどのように推移しているのだろうか?
「アルバイトから社員になったスタッフからは『社員がこんなに大変だとは思わなかった』という声も聞こえてきましたが、データをみると退職率は1/3程度低下しているんです。皆『たいへんだ』と口では言いながらも精力的に働いてくれているんですね。それというのも、アルバイトから正社員になったことで、それまでできなかった仕事を任せてもらえたり、責任を与えられたりすることに、やりがいを感じてもらえているのではないでしょうか」(飯嶋さん)
また、2006年からは毎年新卒採用を行っているが、全従業員の正社員化制度導入を機に、応募者数が増加しているという。「最近の新卒採用者は販売員という枠を越え、洋服を通してお客様に何かしらのアピールやサービスをしたいと考えているスタッフ、自分で事業を起こしたいと考えているタイプのスタッフが増えています。
一方、アルバイトから登用した社員は、職人気質の社員が多いんです。例えば、ボタンについて話し始めたら朝までしゃべり続けてしまい洋服が大好きで仕方がないというような。新卒採用の継続は結果として、人財の多角化を促し、さまざまなアイデアが生まれる環境を作りました。(飯嶋さん)
04 コミュニケーションに支えられた研修制度
ユナイテッドアローズでは2007年4月、束矢大學(たばやだいがく)という企業内大学を設けた。増加した若手社員教育の強化、早期化そして学び合う風土醸成のためだ。
「労働環境を良くするということは、ただ給与を増やせばいいというのではなく、ステップアップを目指すスタッフのために教育の場を提供することも含まれていると考えています」(飯嶋さん)
そもそも束矢大學は2003年の11月に販売員の育成強化を目標にスキルアップなどを企図した“束矢塾(たばやじゅく)”という教育機関だった。その後、名称を束矢大學としたのだが、名称のみならず研修内容や仕組みをも大きく見直しをかけたのだという。
「自主的に開講された束矢塾も、長年が経って義務的になってしまっていた部分もありました。そこで、束矢大學では必修科目に、自分で講義を選択して受講できる内容を大幅に追加し、参加者の学びたいジャンルや要望に応えられるようにしました。参加者は入社3年目くらいまでの販売スタッフが中心で、講義は一科目につき、8時間。毎日、10時から昼休憩を挟んで、19時までみっちりと研修をしています。その内容は企業理念やその理念を実現するための方策を座学で学ぶ必修講座のほかに、実際の店頭接客業務をロールプレイングする実践学習や、さらには工場見学など、さまざまな講義を用意しています」(飯嶋さん)
カリキュラムは多くのベテランスタッフからの意見を取り入れて作られているが、開校して3年目を迎えた現在も、時代遅れにならないように配慮しながら、改良を加え続けている。
「開校当時とくらべると、現在は参加者同士で話し合いをして、意見をアウトプットできる時間や、チームで課題をクリアする講義などを増やすようにしています」(飯嶋さん)
こうして、1年目は延べ約2000人。2年目はさらに増えておよそ2700人ものスタッフが束矢大學に参加。現在は地方に講師を派遣し、地元の公民館などを借りて出張大学を開校することも多いという。
そして、束矢大學が成功している最大の理由と考えられるのが、大学側と現場の店長間できちんと連携がとれていることである。
「束矢大學に参加したスタッフは授業終了後、受講した内容を現場で活かせているかどうか、店長からフィードバックしてもらうことになっています。本人がウィークポイントを自覚し、目標を明確化することで、学ぶことへの意欲も沸いてくると思いますし、習ったことが現場でのサービスに活かされることが一番大切なことです。もうひとつの狙いには「共育」意識を定着化させることがあります。
一般的には「教育」と書きますよね。OJTが浸透していくと、先輩自身も復習や新たな知識を得るための自己啓発をするんですね。そうすると、みんなが共に育つ環境が生まれていくはずなんです。なので、当社では「共育」と言っています。」(飯嶋さん)
一方的に与える授業であれば、ここまで目に見える効果はないに違いない。店舗と束矢大學との密なコミュニケーションが研修をより有意義なものにしている。スタッフのスキル向上はユナイテッドアローズのお客様へのサービス向上へとつながる。
そして、ユナイテッドアローズが考える理想は、意外にも束矢大學がなくなることだという。
「伝えていくべき技術や情熱を後輩へと伝えていく。そして、受け継いだ若い世代は自分のなかで消化して、また次の世代へ伝えていく。そういったシャワー効果を期待していて、その継承こそが大事だと考えています。そして、今後はエデュケータースチューデント制度(メンター制度)やOJTを浸透定着させ、最終的には現在の共育チームがやっていることを、全スタッフがそれぞれの所属チーム内でやってくれたらと考えています。ですから、一番の理想は現在の共育チームがなくなることなんです」(飯嶋さん)
05 成功は試行錯誤の先にある
ユナイテッドアローズには、社員のさまざまなライフスタイルに合わせた雇用形態もある。たとえば、一生、販売員として働きたいスタッフのために、セールスマスターという称号をつくった。
また、子供を持つ母親のためには短時間の店舗勤務ができるなどの育児支援制度も充実させ、次世代育成支援に積極的に取り組んでいる企業として厚生労働省より「子育て支援企業」の認定マーク『くるみん』を取得した。
さらに、障がい者雇用にも力を入れていて、障害を抱えながらも店舗スタッフとして通常業務に就いている社員もおり、なかには入社3年目で副店長をしているスタッフもいるという。
前述の束矢大學も含め、多くの制度はまだ立ち上がって日が浅い。しかし、ユナイテッドアローズは今後も試行錯誤を繰り返しながら、様々な改革や制度を導入していくことだろう。共育チームと現場のコミュニケーションがいかに大事なことかを学ぶことができた。これからの共育にはニーズに合わせて変化していく柔軟な対応が求められていくに違いない。