シニア世代が活躍するドン・キホーテ ~現場を支える新たな人財「ライジングクルー」

  • 企業採用成功事例

掲載企業DATA:株式会社ドン・キホーテ

株式会社ドン・キホーテ

本社所在地 東京都目黒区青葉台2-19-10
代表取締役 大原 孝治
設立年月日  2013年8月14日(旧ドン・キホーテ設立1980年9月5日)
事業内容 ディスカウントストアの運営

 

01:開店前の早朝勤務スタッフ「ライジングクルー」

日本最大級の総合ディスカウントストア「ドン・キホーテ」。豊富な品揃えをはじめ、店内に並べられたさまざまな商品の中から掘り出し物を見つける「宝探し」感覚が楽しめる独特の陳列スタイルが人気を博している。
同店を全国にチェーン展開する株式会社ドン・キホーテでは、2014年の7月より、60歳以上を積極採用する早朝勤務パートスタッフ「ライジングクルー」の採用を行っている。開店前に商品を売り場に運んで陳列するのが主な業務内容だ。
例えば冷蔵食品の場合、バックヤードの冷蔵庫から商品を売り場へ運んで陳列したり、陳列の際に出たゴミを分別して片付ける。このような作業を繰り返し、開店前の品出し完了を目指す。

「MEGAドン・キホーテ 東久留米店」で、ライジングクルー導入後の現場も見てきた小長井氏「MEGAドン・キホーテ東久留米店」で、ライジングクルー導入後の現場も見てきた小長井氏

ライジングクルーの勤務条件は、週2日以上・1日2時間以上。スタッフは定年退職を迎え、第一線を退いた60歳以上のシニア層を中心に主婦や学生、フリーターが在籍している。
ライジングクルーの採用を始めた背景には、より一層サービスを向上させるべく、開店前の品出しの効率を上げる狙いがあったという。

「店舗への商品輸送ルートは決まっています。納品時間が比較的遅い店舗や大型店舗は、開店時間までに品出しが完了せず、お客様を迎えても一部の売り場の商品が足りない状況でした。この課題を改善するため、早朝の品出しスタッフであるライジングクルーの採用を始めました」と語るのは、同社ヒューマンモチベーション本部(現 株式会社 ヒューマンモチベーション・ディライト)人財支援運営部責任者の小長井将氏。
メディアで取り上げられた反響も手伝って、ライジングクルーの応募者数は徐々に増えているという。口コミからの高齢者の応募や、「父(夫)をそちらで働かせたい」という家族からの問い合わせもあるのだとか。スタートから1年余りが経ち、多くの良い変化が生まれたという。

「ライジングクルーの取り組みは、スタッフ全体の労働環境の改善に大いに役立っています。開店直後からお客様を豊富な品揃えでお迎えすることができるようになったのはもちろん、時間帯売上が驚くほどアップしました。品出し専門のスタッフがいてくれることで、社員やメイトが別の業務にあてられる時間も増えました。かなり良い効果が出ていると実感しています」と話すのは、「メイト」ことパート・アルバイトスタッフ採用担当の加納啓子氏だ。
また、当初は予想していなかったメリットも生まれた。原則的にライジングクルーの勤務時間は開店前だが、営業を開始してからも作業を継続することがある。シニアスタッフが現場に立つと、同じ世代の顧客が親近感を抱き、来店しやすくなるという効果があったのだ。

02:採用・戦力化のポイント

ライジングクルーには、企業に数十年勤めた元会社員や会社経営経験者、主婦など、さまざまな経歴を持つ人財が集まっている。採用にあたって、どのような点を意識しているのだろうか。

「ライジングクルーに経験の有無はまったく関係ありません。チームで動くため、職歴や経験よりも、協調性を重要視しています。また、ライジングクルーとして働くシニアの方々の多くはお金を稼ぐのが第一の目的ではなく『早朝の決まった時間に、きっちり2~3時間働く』ことが、いきいきと毎日を過ごすための活力となっているようです。いわば『朝の日課』のような感覚で働いている方が多いのではないでしょうか。ハードな肉体労働はできませんが、私たちの想像以上にシニアの方たちは元気があふれています」(小長井氏)

前職では部下に指示をする立場だったスタッフも少なくないが、ライジングクルーに業務を教えるのは、彼らよりも年下の社員であるケースが大半を占める。世代のギャップや年齢差のあるなか、コミュニケーションの取り方は大きなポイントとなる。

「ライジングクルーに接するスタッフに対して『ライジングクルーは人生の先輩。敬意をもって接しましょう』と呼びかけています。業務を教えるだけではなく、長年社会に貢献してきた方々に、私たちが教えてもらうこともたくさんあるはずだと考えています」(小長井氏)

一方で、シニア層のライジングクルーからは、自分の子どもや孫のような若いスタッフと働けることが良い刺激になる、という声があがっている。規則的な労働と仲間とのコミュニケーションによって、空いた時間を日々の活力や充実感につなげているようだ。

チーム制を導入することで、作業効率やモチベーションが向上。離職率低下にもつながった

チーム制を導入することで、作業効率やモチベーションが向上。離職率低下にもつながった

 業務内容を正確に把握して効率的に進めるために、同社はライジングクルー専用のマニュアルを作成した。そのなかでは、ダンボールの持ち方や機材の使い方などがイラストをまじえて解説されている。また、視力が落ちた方でも見やすいように、文字が大きめに印刷されているのも特徴だ。さらに管理者用のマニュアルも用意されており、スムーズなライジングクルーの育成・指導をサポートする体制も整えている。

ライジングクルーを順調に活用しているのが「MEGAドン・キホーテ三郷店」だ。MEGAドン・キホーテは売り場面積が広く、商品陳列に大きな労力を要するため、ライジングクルーの活躍は必要不可欠になったという。ライジングクルーは曜日ごとにチームを組み、商品の重さや得意な売り場によって、リーダーがそれぞれに適したスタッフを配置し、声を掛け合いながら品出しを行う。

チーム制にすることで、スタッフの間に仲間意識と強い絆が生まれ、作業効率とモチベーションが向上。また、品出しにかかった時間をチームごとに競うなど、共通の目標を立てて仕事を楽しみ、チームワークを高める試みも行われている。結束が生まれることで離職率が低下したグループや離職者が一人も出ていない店舗もあるという。現在は、店長や社員がクルーたちのリーダーを担っている店舗が大半を占めるが、将来的にはライジングクルーのメンバーに一任することを目指している。

03 短時間勤務の有用性をさらに広げる

導入後、順調にライジングクルーの活用を行っている同社。現時点では限られた店舗での実施となっているため、今後は徐々にライジングクルーを活かす店舗を増やしていくことを視野に入れている。活用に成功している三郷店をモデル店として、他店舗にもノウハウを広めていきたいという。

「ライジングクルーが毎日朝礼に参加して、業務についての反省や提案を盛んに行っている店舗もあります。店舗によって規模や納品時間が異なるので、全社共通で行うのは難しいかもしれませんが、いい事例は積極的に店舗間で共有していきたいですね」(加納氏)

また、メイトの募集・採用に関しても、今後は営業時間内の短時間勤務シフト導入を視野に入れている。

「ライジングクルーの取り組みを通じて、『短いシフトで働きたい人はもっといるのでは?』という気づきが生まれました。現場では、品出しのほかにも、商品に防犯タグを付ける作業など、短時間でできる業務が多くあります。業務の切り分けをして、短時間シフトで働きたい求職者の採用を強化できればと考えています」(小長井氏)

早朝以外の時間帯は、手が空いた時間を有効利用したい主婦や学生の採用も見込める。さらに多くの求職者を募集ターゲットにすることができるだろう。

定年退職後も、まだまだ活動の場を求めているシニア世代たち。ライジングクルーは、彼らと早朝の短時間の働き手を求める同社とのニーズがぴったりはまった、人財活用の成功例といえる。長時間勤務やスタッフの属性にこだわらず、求職者の求める勤務条件から採用を考えることで、スタッフ活用の幅がさらに広がりそうだ。

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