介護職員が辞めない4つの秘訣 – 社会福祉法人白百合会 特別養護老人ホーム 増戸ホーム

  • 企業採用成功事例

掲載企業DATA:社会福祉法人 白百合会 特別養護老人ホーム 増戸(ますこ)ホーム

本社所在地 東京都あきる野市三内485-1
法人理事長 渡邊哲伸
設立年月日  1968年12月
資本金  1億3,000万円
事業内容   特別養護老人ホーム 短期入所(ショートステイ)
従業員数 72名 ※介護職スタッフ:45名(うちパート10名)

 01 パートと正職員の相互転換制度でモチベーションアップ

社会福祉法人白百合会は、パートの雇用環境の改善に取り組んでいる事業体として、東京都より「非正規労働者雇用環境整備支援事業モデル企業」の指定を受けている。その白百合会が運営する施設の一つが「特別養護老人ホーム 増戸ホーム」だ。
一般に、介護職員の離職率は2010年度で19.1%で、およそ5人に1人の割合で辞めている状況だ。さらに、離職者のうち1年未満で辞めた人は43.5%に上る(※)。その中で、増戸ホームの介護職員は平均勤続年数が約7年、勤続10~20年のベテランも複数いるほど、非常に定着率が良いという。高い定着率の理由を施設長の渡邊哲伸さんに聞いた。

「正職員になるという目標があるから、頑張れるようですね」という渡邊さん。「正職員になるという目標があるから、頑張れるようですね」という渡邊さん。

まず一つは、正規・非正規の職員相互転換制度によるところが大きいという。この制度は、本人の希望や資格・能力などによって、パートから正職員へ転換できるだけでなく、ライフステージに合わせて正職員からパートへも相互転換を可能にした制度である。
「パートから正職員への転換条件は、(1)介護福祉士の資格を取得していること、(2)夜間勤務ができること、(3)介護主任者の推薦があることの3つです。これさえクリアすれば、誰でも正職員になれます。反対に、子育てや健康上の理由などから夜勤が難しくなり、一時的に正職員からパートに転換する人もいます」
この制度は、資格を持たないパートの資格取得に対するモチベーションアップにもつながっているという。「働きながら資格を取ろうとしても、日々の忙しさに追われて、なかなか勉強時間がとれないのが現状です。それでも正職員になるという目標があるから、頑張れるようですね」。実際、これまでにパートから正職員になった人は4名おり、現在もパート10名のうち、3名が介護福祉士の資格取得に向けて勉強中だ。

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02 パートにも正職員と同基準の賞与と退職金を支給

給与面では、正職員とパート間に区別を設けないようにしている。例えば、パートの時給は870円からと決まっており、2年ごとに30円昇給する。昇給には査定はなく年功制で、これは正職員も同様だ。また、夜勤手当や職務手当、通勤費手当なども、パート・正職員に関係なく支給するほか、健康診断の実施や福利厚生施設の利用も、パートに対して保証している。さらに、賞与も正職員同様、パートにも一律3.8カ月分を支給、退職金も正職員と同じ基準になっているという徹底ぶりだ。
このように賃金・福利厚生面において、正職員とパートの格差をできる限り小さくしていることが、スタッフ間の対等な関係構築を促進しているという。
「多くの介護施設で課題になりがちなのが、パートと正職員とで給与や仕事内容に差があるために、パートの方が『これ以上はやらない』とか、反対にパートの方が自主的に頑張ろうとしても、『そこまでしなくていい』と否定されてしまうようなケースです。それでは、お互いにやる気が下がってしまう。うちの施設では、誰が正職員でパートかとか、介護職か看護職かなどを区別しない雰囲気があり、正職員とパートの間に壁や上下関係がありません。ですので、正職員もパートも対等な立場で、より良いサービスのために意見を言い合っています」

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03 ユニットケアで、利用者にもスタッフにも快適な環境を実現

渡邊さんは「ユニットケアを実践していることも、定着率が高い理由の一つです」と言う。 同ホームのユニットケアは、利用者100名を10名ずつのユニットに分割し、2ユニット(20名の利用者)に対して、9名の介護スタッフという人員配置で行われている。ユニットごとに入浴から食事介助、生活支援までを一貫して同じスタッフが担当しているのだ。利用者とスタッフの顔ぶれがお互いに変わらないため、自然に交流も密になっていく。

広く明るいエントランス。2階~4階がユニットの生活用フロアになっている広く明るいエントランス。2階~4階がユニットの生活用フロアになっている

「集団ケアという従来のやり方では、それぞれの介助を作業ごとで分担するので、スタッフ側は作業的になりがちです。利用者としても、毎回世話をしてくれるスタッフが変わると、どの人を覚えていいかわからず、結局誰も覚えられなかったりします」。それでは本当に心地よい介護サービスを提供できないのではないかと考え、同ホームでは2005年の新築移転を機にユニットケアを導入した。
ユニットケアは「一人の利用者をじっくりサポートしたい」という介護職の思いを叶えるシステムでもあると渡邊さんはとらえている。
「例えば、毎日決まった利用者の方に接していると、ちょっとした変化にもすぐに気づくことができ、対応できます。でも集団ケアだと、そうはいかないことが多い。たくさんの利用者を一度に担当するので、一人のスタッフが一人の利用者に対してそこまで深くケアできないのです。それがしっかりお世話をしたいと願う介護スタッフには、ストレスになってしまうこともあるのです」
だがここは違う。介護の中で気づいたことがあれば、ユニットごとに自由に話し合い、実践したいことがすぐにできる環境が備わっている。 介護という仕事柄、どのスタッフも強い緊張感や責任感のなか働いているはず。「でも、自分のやりたい介護を比較的すぐに実行できるので、さほどストレスを感じず、のびのび働いてくれています。そのせいか、現場には大らかな雰囲気が漂っています。みんな家族のよう。利用者、スタッフの枠を超えて仲よく日々過ごしています。終末の看取りも多いですね」
なぜ、これほどスタッフの労働環境や条件に力を入れるのか。「職場のスタッフ同士がギスギスしていたり、ストレスを抱えていると、それが利用者への介護サービスに影響しかねません」と渡邊さんは言う。「利用者一人ひとりに対応したユニットケアを実践していくためには、スタッフがどれだけやりがいと責任を持っているかがとても重要なのです」
ユニットケアを行う他施設では、利用者と介護スタッフの人数割合が3対1のところもあるが、増戸ホームはほぼ2対1とスタッフを多めに配置している。「これだけのスタッフ数がいないと安全なケアを実現できない」と考えるからだ。
ちなみに増戸ホームの人件費は、施設全経費の70%以上を占める。「離職率が高いとその分、採用コストが上がるだけで人が育っていかないわけですからね。それよりは待遇や労働環境を充実させ、長く働いてくれるスタッフを一人でも多く増やし、その人たちのスキルアップを図ることのほうが、断然メリットは大きいと考えています」

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04 採用・課題解決はみんなで選んだ主任が担う

こうして労働環境や条件を整え、働きやすい職場づくりを心がけても、スタッフ同士がうまくいかないことや、問題が発生することはもちろんある。そんな時は、まずユニット内で芽を摘み取り、大きなトラブルになることを防いでいる。

「同席した主任が全員OKを出さないと採用にはならず、どうも基準が高いようで採用者は極めて少ないですね」と渡邊さん「同席した主任が全員OKを出さないと採用にはならず、どうも基準が高いようで採用者は極めて少ないですね」と渡邊さん

 同ホームでは、ユニット単位での活動が基本であるため、ほとんどの課題解決はユニット内で完結させられる。ちなみに、こうした課題解決の中心を担う主任、副主任は、各ユニットのメンバーで推薦して決定している。選ばれた人がリーダーとなるため、よりまとまりやすいのかもしれない。
各ユニットの主任たちは、採用場面でも大きな役割を担う。「複数の主任に、面接に同席してもらい、『自分たちと一緒にやっていける人物かどうか、介護職に向いているかどうか』をしっかり見極めてもらいます。それは正職員だけなく、パートに対しても同じです。同席した主任が全員OKを出さないと採用にはならず、どうも基準が高いようで採用者は極めて少ないですね」
しっかり選び抜いた人をじっくり育てる。もちろん、それが可能な土台が増戸ホームにすでに築かれているから、採用・育成にも時間をかけられるのだろう。だが、そこにたどり着くまでに、正職員・パートといった垣根をなくし、一人ひとりのスタッフに仕事を任せるといった、誰もが平等に主体的に介護に関われる環境づくりがあったからこそ、今の状態が確立されているのだ。
同ホームのスタッフ、サービスの良さは、地元でも有名。利用者からの人気も高く、入居待ちも多いそうだ。

※ 平成22年度 介護労働実態調査結果 (財団法人 介護労働安定センター 2011年8月23日発表)

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