「未経験者を採用し、不景気を追い風にする」 – 株式会社ニチイ学館

  • 企業採用成功事例

掲載企業DATA:株式会社 ニチイ学館

本社  東京都千代田区神田駿河台2丁目9番地
設立 1973年 8月
資本金  119億3,300万円(2008年3月末現在)
従業員数  社員5,152名、業務社員85,047名(2008年3月末現在)
売上高 1,855億円(2008年3月期実績)
事業内容  医療関連事業、ヘルスケア事業、教育事業

01 介護業界における採用への新たな試み

株式会社ニチイ学館 総務・人事本部人事部 人事一課 課長 佐野 正幸氏

介護・医療業界は慢性的に人材不足で困っている業界のひとつに挙げられている。

そんな状況にあって、業界最大手の株式会社ニチイ学館(以下、ニチイ学館)がグループ会社も含めて未経験者の採用を行うという。この動きが人材不足脱却への突破口となるのか?

そこで、今回はニチイ学館人事部の佐野正幸さんにこの新たな採用戦略と、不況下における介護業界の現状についてうかがってみた。

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02 資格を持っていない未経験者を100人採用

先輩の生の声がステップアップにつながる

過去事例を使った実践的な研修が理解を深める

ニチイ学館は2009年3月末までに、介護認定資格をまだ持たない未経験者をニチイグループとして非常勤で100人程度採用する試みを開始した。また、同時に今年、2009年4月入社の新卒採用でも資格をまだ持っていない学生を初めて採用するという。このような策に打って出た理由とは、何なのだろう?
「現在の日本は他国に例を見ない速さで高齢化が進み、介護サービスのご利用者も比例して増えています。この状況に対応するためには、早急に介護を支える人材を確保しなければなりません。そこで、試験的な段階ではありますがまだ資格をお持ちでない方を採用するのも、ひとつの選択肢だと考えました。また、グループホーム(認知症対応型共同生活介護)などの居住系介護では、資格がなくてもできる業務があることも理由のひとつに挙げられます」

資格を持たない未経験者を登用するには、人材教育がキーポイントになると考えられるが……。
「初めは資格がなくても可能なところでの就業になります。そして、働き、経験を積みながら、並行して資格も取得していただけます。このように、実際に仕事をしながら知識を増やしていき、“わかる”と“できる”を同時に学ぶことができるので、理解も深まるのではないでしょうか」

また、各介護の拠点ごとにミーティングや研修も随時実施している。都度その拠点ごとに現場の専門スタッフが中心になり、開かれるという。
「小さなことでも、職員間での情報を共有するように心掛けています。いろいろな事例をいち早く共有することが、より良いサービスの提供につながるからです。そのほか、研修では基本的なマナー修得から、過去の様々な事例を使った実践的なケーススタディをすることで、さらに業務への理解を深めて職員のスキルの向上に役立てています。豊富な実務経験を持つ先輩社員の生の声を聞けることは、キャリアの浅いスタッフがステップアップするためのサポートになっています」

ニチイ学館は、これまで70万人の修了生実績がある優良講座、ホームヘルパー2級講座を全国で展開している。しかし、資格がとれるシステムもさることながら、経験豊富な先輩の指導が新人の教育に大きくつながっているようだ。

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03 不景気だからこそ、今が逆にチャンス

ニチイ学館では就業説明会を全国で随時実施しているが、昨年秋頃から説明会に参加する応募者が急増。最近は幅広い年齢の方や男性の姿も見られるようになったという。
「やはり、現在の不況の影響で、職を求める方、そして安定性を求めている方が増えています。介護の仕事はたいへんですし、また、たとえば製造業のようにヒット商品の開発やコスト削減等で大きく利益が上がるという業界でもありません。しかし、今後も日本の高齢化は確実に進むため、仕事が無くなるようなことはありませんし、長期的な展望に立ってキャリアを積み上げていくことができます。それだけに、説明会での質問には、『どのような仕事ができるのか』、『入社後のキャリア形成で、どのような働き方の選択肢があるか』を気にされる方が多くなっています」

こうした安定志向は、資格取得の動きにも見られる。
「弊社が展開している教育講座の受講生は、月を追うごとに急増しています。景況感もあって、手に職を付けたいと資格取得を目指す方は本当に多いですね」

不景気により、安定を求める求職者はますます増えていくようだ。

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04 就職説明会ではストロングポイントを押し出す

働き方を選んでほしいと語る佐野氏

子育てを一段落した方がもう一度介護現場へ戻るケースも多いという

ニチイ学館では、日本全国でサービスを展開しているため、たとえば転居するようなことがあっても、キャリアを途切れさせることなく、次の地でも働くことができる。

また、在宅介護から居住系介護まで、様々な介護サービスの経験を積むこともできる。就職説明会では、こうした働く場所・仕事の内容の多さとともに、長期的な働き方の選択肢の豊富さも紹介している。
「ホームヘルパーをずっと続けたい方もいれば、さらにスキルを高めてケアマネージャー等を目指す方もいます。また、現場のセンター長や支店の管理者など、マネジメント業務に進む道もあります。このように、同じ会社内でも多様な働き方を選べるのはメリットだと思います」

それは勤務時間においても同じ。
「パートタイムで働くことも、フルタイムで働くこともできます。最初はパートの時給制からスタートし、経験を積んでフルタイムへ。また、出産、育児で少しブランクが空いたけれども、子供が大きくなってからもう一度働きだしている、という方が当社にはたくさんおります」

今後は働く場の提供やキャリア形成の支援以外にも、従業員の満足度向上に向けての施策を打っていくというニチイ学館。

離職率が高い業界なだけに、今、働いている人材をどのようにしてつなぎとめるか。その課題をクリアするため、様々な改善がはかられていくことだろう。

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05 タイミングを逃さない改革

有資格者、経験者などの専門職採用の難度は当然高い。そこで、新たな取り組みを開始したのがニチイ学館である。介護業界には追い風ともいえる不景気のなか、このタイミングでさらに採用の門戸を広げる試みを行ったのは、まさに機を見るに敏だったと言えよう。この改革は他の業界にも通ずる採用の改革であると思う。未経験者の採用を教育によって補うという観点は、採用する側にとって学ぶべきところが大きい。資格が必要ではなくとも、経験者採用にこだわり、必要な人材が確保できないという話は何も介護業界だけの話ではないのではないか。

経験の不足さを教育によって補うと一口にいっても、そこには時間や労力がかかる。ニチイ学館のこの新しい試みが、どの程度の効果を上げることができるのか、今後も注目していきたい。

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