デジタルコンテンツを活用し、人材定着を目指す「デニーズ」の教育システム

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掲載企業DATA:株式会社セブン&アイ・フードシステムズ

株式会社セブン&アイ・フードシステムズ

本社所在地 東京都墨田区八広一丁目25番12号
代表取締役 大久保 恒夫
設立年月 2007年1月10日
事業内容 レストラン事業、ファストフード事業、給食事業

01 教育用ハンドブックを細分化

株式会社セブン&アイ・フードシステムズが運営し、全国各地にチェーン展開するファミリーレストラン・デニーズ。現場では、「パートナー」と呼ばれるアルバイト・パートスタッフ約15,000名が活躍している。そのうち、学生が約6割、残りの約4割はフリーターと主婦が占めている。店舗運営において、パートナーの協力が必要不可欠である同社では、どのような人材活用を行っているのか。
「パートナーの採用はもちろん大切ですが、その後の定着が大きな課題でした。新人スタッフは、業務が予想以上にハードであると感じて、入社後すぐに辞めてしまうケースも少なくありません。そこで、パートナーの定着を図るには、業務指導の徹底と、スタッフ間のコミュニケーションが不可欠だと考えました。せっかく入社してくれた方たちのために、企業側は働きやすい環境づくりを常に工夫していかなければなりません」と語るのは、同社執行役員であり、人事部長を務める大塚祥子氏。

「新人用ハンドブック」はイラストや写真を豊富に使って、見やすさを重視している「新人用ハンドブック」はイラストや写真を豊富に使って、見やすさを重視している

デニーズでは、数種類の教育用ハンドブックを使う。そのなかで、新人教育のためのマニュアルは、接客・調理と業務別に分かれており、40時間を目安として修了するよう構成されている。例えば接客編のハンドブックには、顧客の出迎えの流れやオーダー時に使うハンディーの操作方法などが、多数のイラストや写真を交えながら、項目別にわかりやすく記載されているのだ。
新人パートナーは「自分を成長させたい」「新しいことにチャレンジしたい」という気持ちが強く、「仕事を教えてもらえない」という理由で辞職してしまう人が多いという。このような事態を改善するために、同社は新人教育・指導を担当する「トレーナー」専用のハンドブックも制作した。トレーナーは、基本的に先輩パートナーが日替わりで担い、複数名で協力しあいながら新人の指導に当たる。
トレーナー用ハンドブックには、業務の教え方をはじめ、パートナーのモチベーションを上げるための褒め言葉や、反対に「でも・どうせ・だって……」といった、スタッフのやる気を低下させるNGワードが具体的に盛り込まれているのが特徴的だ。

02:「eラーニング」でいつでも学べる環境づくり

業務習得を効率化する「eラーニング」システム業務習得を効率化する「eラーニング」システム

パートナー育成のために、同社が近年新たに始めたもう一つの取り組みが「eラーニング」だ。このシステムは、各店舗に配布したタブレット端末から、ハンドブックと連動したコンテンツを閲覧できる。レジの使い方などを動画で確認することで、より効率的に業務内容を学習してもらう狙いがある。さらに、選択式の簡単なテストで、スタッフ自身がどこまで業務を習得したか確認もできる。
「このシステムが導入されたことで、トレーナーに教わる時間以外でも、パートナーが業務について自習できるようになりました。また、途中でトレーナーが代わっても、パートナーがどこまで業務の習得を進められているのか一目でわかり、スタッフ教育が以前よりスムーズになったという報告を受けています。ただし、『eラーニング』での自習も業務の一環なので、休憩中に使うのは原則禁止し、勤務時間中の余裕がある時に活用するよう周知しています」
店内の制度が変わる時や新メニューの提供がスタートした時など、本社と店舗間での速やかな情報共有も可能となった。スタッフが業務内容をスムーズに理解できるのはもちろん、現場の声を聞きながら、不足しているコンテンツを補ったり内容を改善したりできる点が、「eラーニング」ならではの大きなメリットとなっている。

03:“スタッフの教え方”を教育することの必要性

執行役員で人事部長を務める大塚祥子氏

執行役員で人事部長を務める大塚祥子氏

 このような細かなパートナー教育システムの構築に至るまでには、試行錯誤があったという。

銀座や築地など都心部の一部店舗では、かねてより慢性的な人材不足に悩まされていた。そこで、パートナーの定着率の向上を目的として、2013年から一年間、本部社員2名が該当地区の店舗に通い、人材活用の見直しを図った。その際、店舗内の清掃や整理をはじめ、「新人が、わからないことを聞きやすい環境」を整えるために、トレーナーの初期教育を徹底。次第に人材が増加・定着するようになったものの、期間を終えて社員が現場を離れると元通りになってしまったという。

「根本的な改善のためには、エリアを統括する地区長や店長たちが実践できる方法を考えなければなりませんでした。そこで、店舗で実施されたパートナーへの指導方法をマニュアル化し、ハンドブックを作りました」

さらに、現場のスタッフ育成を行き渡らせるため、同社では、幹部や地区長、各店舗の店長を対象とした「心の研修」や「コミュニケーション研修」を積極的に行っている。「心の研修」は「感謝・思いやり・協力する・挑戦する」という4つの心を育て、スタッフに生き方を学んでもらうことが目的だ。もう一つの「コミュニケーション研修」では、従業員同士が協力し、充実した気持ちで働くことができるように、スタッフの褒め方や叱り方などをレクチャーする。

「ゆくゆくは全社員に受講してもらいたいのですが、『まずは上から』ということで、現在は店長までを対象に実施しています。パートナーの定着率は、店長の力量によるところが大きいと感じています。定着率向上を目指して、パートナーを受け入れるための環境整備と、新人パートナーの教育法の見直しという、二つの側面からのアプローチを試みています」

同社の大久保社長は、常日頃から社員に向けて「接客業は、お客様が何を望んでいるかを瞬時に判断し、サービスを提供する、素晴らしい仕事である」と話しているという。最高のサービスを提供するために、働く人と人との関わり方を根本から考え、理解することを大切にしているのだ。

「教育以外の面も工夫を心がけています。弊社の社長は日頃から『働く人の気持ちを動かせないと、お客様の気持ちも動かない』というモットーを掲げ、スタッフの『心の教育』を重要視しています。そのような思いから、新しいパートナーが入ってきた際には、『デニーズの一員になってくれて嬉しい』という気持ちを伝えるために、出勤初日にメッセージカードを手渡ししたり、休憩室に『○○さん、よろしく!』などと書いたポスターを掲げて歓迎するようになりました。既存のスタッフたちへも、新人さんに積極的に声をかけてもらうようにしています」

スタッフに長く働いてもらうためには、1日も早く業務を覚えてもらうだけではなく、新人パートナーを孤立させずにスタッフ同士でコミュニケーションを取れる体制づくりも重要なのだ。

04 長く働いてもらうための充実した社内制度も

同社では、新人教育に力を入れるとともに、既存パートナーが長く働けるようさまざまな取り組みを行っている。その一つが、同社従業員を対象とした「リチャレンジ制度」だ。この制度は、出産・育児からの職場復帰を支援するためのもので、週20時間以上の労働時間を満たす雇用保険加入者で、勤続1年以上であればパートナーでも利用することができる。

「実は、正社員よりもパートナーのほうが制度利用率が高いんです。なかには、4人のお子さんを出産・育児しながら復帰されたパートナーさんも。『もう一度ここで働きたい』と思ってもらえたのは、パートナー同士の協力関係や連携がしっかりしている店舗だったからなのかもしれませんね」

また、社員やパートナーの垣根なくスタッフの活躍を評価する、同社の検定制度にも注目したい。ホールを統括する「フロントリーダー」やキッチンスタッフのリーダーとなる「キッチンリーダー」、店長の補佐役を務める「レストランマネージャー」などの手当が支給されるポジションは、社員・パートナーを問わず、社内検定をクリアすれば就くことが可能だ。

マニュアルの徹底やマネジメント側の教育、より働きやすい制度の整備など、さまざまな取組みに挑戦し続ける同社。現場で貢献するパート・アルバイトスタッフの気持ちを汲み取る努力を惜しまない姿勢が、スタッフのモチベーションを上げ、定着率向上へのさらなる可能性を広げていく。

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