スタッフを守る! 元刑事が教える悪質クレーマー対処法

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店頭でスタッフに土下座を迫ったり、恐喝まがいの要求をしたりして逮捕者が出るなど、年々エスカレートしているクレーマー事件。理不尽な怒りを爆発させる彼らを前にパニックに陥り、適切な判断ができなくなってしまうお店も後を絶ちません。そこで、元刑事にして、日々悪質なクレーマーと戦うエンゴシステム代表・援川聡さんに撃退法を伺いました。ぜひ店舗のスタッフと一緒に実践してください。

目次

普通の人が悪質なクレーマーと化す時代

近年は、ごく普通の人がクレーマー化する事例が増えています

近年は、ごく普通の人がクレーマー化する事例が増えています

サービス業を営んでいると、日々さまざまなクレームに接するものです。例えば、買ったものに不具合があって、交換や返金を求めるもの。これは、消費者側の正当な権利ですね。しかし、そこで「迷惑料」や「特別待遇」、「度を超えた謝罪」まで要求するのは悪質です。

こうした犯罪まがいの過大要求は、かつては犯罪者や暴力団組員といった見るからに“ブラックな人間”が金品目的で行うのが一般的でした。しかし、最近はビジネスマンや主婦といった普通の人、いわば一見“ホワイトな人たち”が悪質なクレーマーと化すケースが増えています。過去の事件で、店舗で土下座を強要して逮捕されたのも、ごく普通の主婦でした。

ホワイトな人たちがクレーマー化する理由としては、ストレス社会で鬱憤が溜まっていた、便利なサービスに慣れきって我慢耐性が低くなっていた、一度クレームを入れて得をしたことで味をしめた……など、さまざまな状況が考えられます。つまり、現代は誰もが悪質なクレーマーになり得る時代。だからこそ、その対処法を知り、スタッフにも教えておくことが非常に重要なのです。

覚えておきたいクレーム対処時の3ステップ

悪質なクレーマーが見た目で判断できない以上、相手の主張が正当かそうでないかは、慎重に見極める必要があります。その目安となるプロセスがこちらです。

クレーム対処の3つのステップ

STEP1 顧客満足を念頭に、親身な態度で話を聞く

相手の要求が正当であることを前提に、言い分を真摯に聞きます。誠心誠意お詫びの言葉を伝えます。
お客様「お詫びだけでは納得できない!」
謝罪だけで解決できない場合は……

STEP2 じっくりと話し合い、お互いが妥協できる点を探す

相手の要求に対して、「ここまでは応じられるが、これ以上は応じられない」というラインを示し、お互いの妥協点を見つけます。
正当な要求をするクレームの多くは、この段階で解決できます。
お客様「そんな対応では納得できない!」
相手の主張の背景に、金銭や特別待遇といった目的が見えてきたら……

STEP3 応じられない要求については断固拒否する

「お客様」対応から「悪質クレーマー」対応へと切り替えて、徹底的に拒否します。

以上が大まかなクレーム対処の流れです。ここからは、それぞれのステップにおける注意点を詳しく見ていきましょう。

STEP1:真摯にお客様の主張を聞き、内容を絞ってお詫びをする

STEP1では、お客様の言い分が正当であることを前提に、しっかりと話を聞きましょう。この時、「安易に謝ってはならない」と指導する会社もあるようです。理由は「全面的に非を認めたことになってしまうから」ですが、怒っている相手に対して、一言のお詫びもせずに話を聞くのは困難です。そんな時は、内容を限定して謝るとよいでしょう。

ピンポイントで謝る「お詫びの言葉」

「ご不快な思いをさせて」
「ご迷惑をおかけして」
「お手間をとらせて」
+
「申し訳ございません」

お客様の気持ちに対して謝罪の意を伝えましょう

お客様の気持ちに対して謝罪の意を伝えましょう

もし、相手が「非を認めたな!」と詰め寄ってきても、「いいえ、お客様が被られたご不快な思いに、おかけしたご迷惑に、とらせたお手間にお詫びをしました」と説明できます。

また、正当な要求をしていたはずのお客様が、スタッフの対応の悪さゆえに悪質クレーマーと化すこともあります。クレーム対処の現場では、上から目線の発言や言い逃れに聞こえてしまう「D言葉」は封印してください。代わりに「S言葉」を使えば、相手の気持ちを逆なですることなく対処できます。

相手を怒らせる「D言葉」、怒りを鎮める「S言葉」

「D言葉」

  • ですから
  • でも
  • だって

「S言葉」

  • 失礼しました
  • 承知しました
  • すみません

STEP2:焦りは禁物 時間をかけて相手の要求を見極める!

STEP2は、相手の要求に対して「できること」と「できないこと」を明確にして、お互いの妥協点を見つける段階です。きちんと話し合い、よく観察して相手の要求を見極めてください。

正当な要求をしているお客様なら多少の時間がかかってもきちんと対応してもらえることを望みますし、金銭目的の悪質なクレーマーは、長期的な対応を嫌います。なぜなら、交渉期間が長引くと、通報されるリスクが高まるためです。

「今すぐ結論を出せ!」と詰め寄ってくる人もいますが、決して結論を急いではいけません。次のような「ギブアップトーク」を実践して、対応策を検討する時間を確保するようにしましょう。

自分ではどうにもならないことを伝える「ギブアップトーク」

  • お急ぎかと存じますが、この場では判断できません。
  • 大切なことですから、きちんと上の者と協議をしてお返事いたします。
  • 後日改めてご連絡したいので、お名前とご連絡先を教えてください。

STEP3:4つの応答例で、悪質クレーマーを撃退する

悪質クレーマーの脅しには、きっぱり「NO」と言うべきです

悪質クレーマーの脅しには、きっぱり「NO」と言うべきです

STEP3では、お客様用ではなく、悪質クレーマー用の対応に切り替えます。一度でも言いなりになれば、彼らは味をしめて何度でもやってきます。クレーマーたちがよく使うセリフをもとに、撃退に効果的な応答例をご紹介しましょう。

悪質クレーマーの“あるある”セリフ(1)

●「誠意を見せろ!」

→「これが私たちの精一杯のお詫びの気持ちです。お客様のおっしゃる誠意とはどのようなことでしょうか?」

うかつに金品を要求すると恐喝にあたることを知っている悪質クレーマーは、「誠意を見せろ」「責任を取れ」という言葉で内容でぼかします。「いくらお支払いすればいいのですか?」など、先走った対応をせずに、何が目的なのかを具体的に聞き出しましょう。

悪質クレーマーの“あるある”セリフ(2)

●「そういう態度をとるなら、ネットに流すぞ!」

→「困りました。でも、私はお客様の行動に口出しできる立場ではありませんから……」

「やめてください」と言うのではなく、自分ではどうにもならないことを示す「ギブアップトーク」を駆使して、さっさと土俵から降りるのが得策です。それでネットに流された場合は、法的手段も視野に入れます。

悪質クレーマーの“あるある”セリフ(3)

●「悪いと思うなら、詫び状(念書)を書け!」

→「私の一存では書けません」

こちらも、ギブアップトークが効果的です。詫び状や念書はのちのち脅迫の材料になることもあるため、書く場合は弁護士などの専門家と相談して作成するのが鉄則です。詫び状に限らず、クレーマーに書面を提出する時は細心の注意を払ってください。

悪質クレーマーの“あるある”セリフ(4)

●「そんな謝り方じゃ足りない。土下座して謝れ!」

→「できません」「困ります」「嫌です」

社会通念上、いき過ぎた要求はきっぱり拒否して何も問題ありません。一度「できない」という意思表示をしたにもかかわらず、再び要求されたら、強要罪で被害届を出すこともできます。

ほかにも、「責任者のくせに、そんなことも決められないのか!」「タダで済むと思うなよ!」といった言葉を浴びせられることもありますが、無視して問題ありません。「裁判にしてやる!」との脅し文句もよく耳にしますが、万が一裁判になって賠償金を払うことになったとしても、怖いからといってどこの誰かもわからない人にお金を渡すことと、裁判で法に照らして命じられたお金を支払うのとでは、まったく意味が異なります。

悪質クレーマーには、チームで立ち向かおう!

クレームには、二人以上で対応すると効果的です

クレームには、二人以上で対応すると効果的です

さて、こうした恫喝は、いざ目の前にするとやはり恐ろしいものです。早く終わらせたい一心で、言いなりになってしまう人がいるのも無理はありません。
しかし、一度でも屈すれば、繰り返し悪質なクレーマーに狙われることになりかねません。要求がエスカレートすれば心に傷を負って辞めていくスタッフがいたり、結果的に店舗や会社の評判を落としたりして、運営に大きな支障が出てしまいます。
サービス業を営む以上は、いつ悪質なクレーマーの標的になるとも限りません。そこで、事前に次のような対策を講じておきましょう。

いざという時に慌てない事前対策

●クレーム対応のガイドラインを作っておく!

STEP1~3の対処プロセスを参考に、クレームを受けた時の流れを定めておきましょう。「ここまでは対応できるが、これ以上はできない」といった線引きを決めておくのも大切です。決定したガイドラインは、必ずスタッフ間で共有を!

●必ず複数人で対応する!

スタッフとお客様のやり取りに不穏な空気を感じたら、他のスタッフがペンとメモを持って駆けつけられるとベスト。解決を急がずに、その場での回答は一旦保留して、店内や社内で協議する時間を作ります。
●警察に相談しておく!
クレーマーの標的になった場合は、防犯カメラに残された証拠や記録を持って警察へ。被害届を出すまでには至らなくても、次に何かあったらすぐに駆けつけてもらうように頼んでおくと安心です。

●気持ちのいい挨拶こそ、最高の護身術!

「いらっしゃいませ!」「こんにちは!」といった挨拶を徹底するのも効果的。普通のお客様の目には “感じのいいお店”と映り、悪質なクレーマーの目には“教育の行き届いた店”“つけこむ隙がない店”と映るのです。

クレーム対応は、チームワークが命です。一人ではパニックになることも、二人なら冷静に対処できますし、お店全体で団結してクレームに対峙できれば、怖いものなどありません。ぜひ、チームで戦うためのガイドライン作りから始めてみてください。

援川 聡/Satoru Enkawa

援川 聡 / Satoru Enkawa

エンゴシステム代表取締役
大阪府警OB。元刑事の経験を生かし、多くのトラブルや悪質クレームを解決してきたクレーム対応コンサルタント。その適切で確実な”解決術”に各方面から高い評価を受けている。2002年「困難なクレームを解決し、企業の危機管理を援護する」をモットーに、(株)エンゴシステムを設立。現在も、リアルタイムで企業をサポートしながら、ピンチに頼れる”合棒”として活躍中。

エンゴシステム
http://www.engosystem.co.jp/index.html

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