【雇用主必見】パートは何時間働ける?社会保険適用拡大による変化とは

  • 雇用主向け法律情報

 

2016年10月から、一定の要件を満たすパートタイマーを対象として社会保険の適用が拡大されます。従来のいわゆる「130万円の壁」が「106万円の壁」に引き下がることが、果たしてどのくらいのインパクトがあるのか、高い関心が集まっています。そこで、新制度に移行すれば保険料負担が生じる可能性のあるパート主婦に対し、新たな社会保険基準についてどのように感じ、どのように対応するのか、実態をアンケートしてみました。

調査概要

【調査地域】 全国(インターネットリサーチ)
【調査対象】 主婦422サンプル
アルバイト・パートに従事し、新社会保険適用基準に該当する見込みのある主婦。具体的には、「1年以上の雇用見込み」「週の所定労働時間15時間以上」「月収7.8~10.7万円」「就業先会社規模が従業員数501人以上」の条件をすべて満たす主婦を対象とした。
【調査期間】2016年6月11日~6月15日

01 社会保険の新たな5つの適用要件

これまでパートタイマーは、所定労働時間が通常の就労者のおおむね4分の3(週30時間)以上でなければ、社会保険の加入対象とはなりませんでしたが、今年の10月より適用基準が拡大され、以下の要件を満たす場合に社会保険に自動的に加入することになりました。

<社会保険適用対象拡大の5大要件>(平成28年10月施行)

  1. 週の所定労働時間が20時間以上あること
  2. 賃金の月額が8.8万円(年収106万円)以上であること
  3. 勤務期間が1年以上の見込みであること
  4. 学生ではないこと
  5. 勤務先が従業員501人以上の企業であること

適用要件に関する詳細は厚生労働省のこちらの資料をご覧ください。

従来、いわゆる「130万円の壁」を意識してパートの日数、労働時間を調整し、夫の扶養内で働いていた主婦は、2016年10月より社会保険に加入となった場合、社会保険の負担分と、夫の扶養手当などがなくなることで、本人や世帯の収入が減ってしまうことになります。当然、社会保険への加入は大きなメリットがあることですが、「収入減」と天秤にかけた時、果たしてパート主婦は加入を選ぶのか否かが気になるポイントです。

そこで、本記事では、上記5要件を満たす可能性のあるパート主婦を対象に、3つの月収ゾーンにごとに動向を探ってみました。すなわち、適用対象のちょうどライン上にいる月収ゾーン(②)と、その前後にいる月収ゾーンです(①③)。

①現在月収7.8~8.7万円

⇒適用対象となる「一歩手前」におり、収入を増やさなければ適用対象とならないゾーン。

②現在月収8.8~9.7万円

⇒新基準のボーダーラインをちょうど超える月収ゾーン。

③現在月収9.8~10.7万円

⇒新基準のボーダーラインの一段「上」におり、かつ現在「130万円の壁」を意識して労働を調整していると思われるゾーン。

02 社会保険に加入するか扶養内にとどまるかの決断は?

まず、今回の社会保険適用拡大の認知度から調べてみました。家計に大きな影響を与える事案について、主婦はどれだけ関心を持っているのでしょうか。

その結果、「全く知らなかった」を除いた9割弱の主婦がこの件を認知しており、注目度が非常に高いことが分かりました。ただ、月収ゾーンによって理解度に差が見られます。「内容をよく理解している」と最も多く答えたのは、年収130万円にギリギリ未達の「9.8~10.7万円ゾーン」。社会保険上の夫の扶養内になるように「130万円の壁」を意識して労働時間・日数を調整していると考えられる層だけに、適用基準の変更に最も敏感になっているようです。

続いて、適用拡大される10月以降、主婦は夫の社会保険上の扶養から外れて社会保険に加入するのか、それとも夫の扶養のまま社会保険未加入でいくのか、気になる結果を見てみましょう。

ボーダーラインの「8.8万円」を下回る「7.8~8.7万円」の月収ゾーンでは、85%が収入を上げず夫の扶養内にとどまることが分かりました(社会保険は未加入)。回答者のフリーコメントでその理由を見ると、「わずかに労働時間を増やしただけで手取り収入がかなり減ってしまうから」という「働き損」や「負担増」が主な理由に挙げられました。ボーダーラインの「8.8万円」をちょうど超える「8.8~9.7万円」の月収ゾーンでも、同様の理由で「夫の扶養内でいたい」と思う人が54%と過半数を超えています。

<回答者フリーコメント>

  • 少しの時間オーバーで、扶養から外れるのは、勿体ないから
  • 夫の扶養から外れると125万以上の年収を稼がなければトントンにならない。となるとパートより正社員で働いた方が良いが、子供がまだ小さいので、フルタイムは無理。パートで社会保険に入るのは勿体ない
  • 社会保険の負担が大きい。なんのためにきりつめた生活をしているか無駄な感じがする。いっそたくさん働ければよいが子供の役員、行事、当番を考えるとフルには働けず微妙な収入で壁にあたります
  • 社保加入で引かれる額が増えるともっと沢山働かなきゃいけなくなるし、保育料や市民税が上がるから

扶養から外れ、社会保険に加入しようと思う人が多くなるのは、新基準のボーダーラインの一段「上」にいる「9.8~10.7万円」の月収ゾーンからです。「将来を考えるとそのほうが良い」「稼げるうちに稼いで自分の年金に反映させたい」「将来的にフルタイムで働きたいので、時間を減らす方向では考えていない」といった回答が見られました。

「8.8万円」を下回る場合は、ほとんどの人が社会保険への未加入を希望する訳ですから、労働時間は今とあまり変わらないものになるでしょう。一方、「8.8万円」を超える場合はおおよそ半数の人が未加入を選択していますので、その場合は超過賃金分の労働時間を短縮することになると思われます(記事の後半で、今回の適用拡大で生じる労働時間へのインパクトを試算していますので、是非ご覧ください)。

03 労働時間を減らす主婦、増やす主婦 雇用主は調整に迫られる

社会保険「未」加入希望者の動向は?

先ほどの設問で、10月以降も「夫の扶養のままでいる」(社会保険未加入)と回答した人に対し、ボーダーラインである「月収8.8万円」未満に抑えるために、どのように調整をはかるのか聞いてみました。

まずここで気になるポイントは、「今のパート先で働き続けるのか、それともパート先を変えるのか」という点ですが、結果としてパート先を変えると回答したのは全体で僅か2.5%。残りの人は「労働時間の調整」を検討していることが分かりました。
(選択肢「適用対象外の雇用形態に変更したい」も、回答者のフリーコメントを見ると、契約上の労働時間を減らすものとみなした)

<回答者フリーコメント>

  • 現在の職場が働きやすいので他に移りたくない
  • 50歳もすぎていて、新しいことにチャレンジするのは面倒
  • 今の職場は家から近く、子供もまだ小さいので色々と融通がきく

ボーダーラインの8.8万円を超える、「8.8~9.7万円」「9.8~10.7万円」の月収ゾーンの場合ではすなわち「労働時間短縮」ということになりますが、シンプルに労働時間を減らすだけの人が最多となっています。一方、手取りを減らさないための方法を検討している人では、「適用対象外の別のパートや副業の追加」(全体の11.1%)が多く、具体的には、「短期バイト」や「アンケートサイト」などを追加して始めるものと思われます。将来、さらに適用基準が拡大され、手取り収入が減少する層が一気に増えた場合、このようなダブルワーク希望者はもっと多くなるかもしれません。

<回答者フリーコメント>

  • お金は必要なので、小銭稼ぎのバイトをしたい
  • なるべく収入を増やしたいので、減った分を補填したいと考えている
  • 今の会社は辞めたくないがお金は必要なので、出来れば副業したい

社会保険加入希望者の動向は

反対に、今度は10月以降「夫の扶養から外れて社会保険に加入する」ことを選んだ人の動きを見てみましょう。保険料の負担によって減る収入をカバーするために、労働時間を増したいと考える主婦はどれくらいいるのか、アンケートをとりました。

「少し増やす」と「できるだけ増やす」を合算すると、全体では約6割の主婦が「今よりも労働時間を増やす」と回答しました。月収ゾーンが低いほど「できるだけ多く増やす」の割合が多くなっていますが、これは月収と労働時間の長さが関係しているためで、労働時間の伸ばし余地があるためでしょう。

今回のアンケートで、「7.8~8.7万円」の月収ゾーンの人で1週間に平均22時間程度の労働時間、「8.8~9.7万円」の場合24時間、「9.8~10.7万円」では26時間であることが分かっています。これをシフトで考えると、だいたい「1日5・6時間×週4・5日」入っていることになりますので。家事・育児などのバランスを考えると、現実的には1日の労働時間を1~2時間増やすか、土日などで可能な時にシフトに入るという風になるのではないかと見られます。

「今よりも少し増やす」回答者フリーコメント

  • 保険を負担しても今の手取り額になる程度増やす予定です
  • 残業があればできるだけ受けるようにする

「今よりもできるだけ多く増やす」回答者フリーコメント

  • 越えるならがっつり働いた方がいい
  • 職場が許す限り増やしたい。体がしんどいのであまり働きたくないが…

なお、労働時間を「今と同じくらい」にすると回答した主婦の場合、フリーコメントを見ると「家事や育児との両立から労働時間を増やせない」といったケースや、「今のパート先で労働時間を増やせない」といった会社都合の理由を上げる人が見られています。

<回答者フリーコメント>

  • 労働時間を増やすと家事や健康面に支障がでそうなので同じままで
  • 増やしたいけれど、会社側が増やしてくれないから

04 労働時間の増減をシミュレーション

以上の調査結果から、労働時間を減らしたい主婦、逆に増やしたい主婦が出てくること見えてきた訳ですが、職場における労働時間の変動がどのくらいのインパクトなのかを一例を挙げて見てみましょう。

ここでは、仮に「時給千円、月収10万円」のパート主婦が、職場に10人いたとします(月収に割増賃金や交通費などは含まず)。労働時間の短縮を希望するのはそのうち4人です。この4人が、月収ボーダーラインより下の月収「8.7万円」に収入を下げた場合、労働時間に換算すると1人あたり13時間、4人で52時間、月間で不足することになります。

残りは6人ですが、労働時間を増やす意向があるのは半分の3人です。そこで、不足分を補うため、この3人に対し、2日に1回、1時間の「残業」をお願いしたとします※。月間20日稼働だと1人あたり10時間、3人だと合計30時間月間で増加することになりますが、52時間にはまだ22時間足りません。3人が「ほぼ毎日」1時間残業をして初めて不足分を埋め合わせすることができるのです。当然、実際の現場では様々なケースがありますので、既存スタッフだけでの調整は簡単ではないでしょう。自社の状況と照らし合わせて、新規のパート採用など、早めの検討を是非してみてください。

※残業はあくまで一手段の例として挙げています。
※本記事は掲載時点の情報です。最新のものとは異なる場合があります。ご了承ください。

まとめ

月収上のボーダーラインを(月収8.8万円)超える主婦の半数程度が「社会保険未加入」を希望し、現在のパート先で労働時間を減らす意向が見られる
逆に扶養から外れ「社会保険に加入」することを決断した主婦の場合、減少する手取収入をカバーするために労働時間を増やしたいという意向が見られる
このような労働時間の変動に対応するために、雇用主は新規採用の検討など、対策を講じる必要あり

 

「アルバイトレポート」に掲載されている記事・図表の著作権は、全てパーソルプロセス&テクノロジー株式会社または正当な権利を有した第三者に帰属しています。
当該著作物を利用する場合には、出所の記載をお願いします。
また、編集・加工等をして利用する場合には、上記出所に加え、編集・加工等を行ったことをご記載ください。
WEBサイトに掲載される場合はこちらからお問い合わせください
ページトップへ

おすすめの記事