「人と店舗を育てる社内コンテスト」 – タリーズコーヒージャパン株式会社

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掲載企業DATA:タリーズコーヒージャパン

本社所在地 〒162-0833 東京都新宿区箪笥町22
代表 荻田築
設立 1998年5月(創業1997年8月)
資本金 1億円
事業内容 世界各国より厳選した豆のみを使用した、シアトル発祥のスペシャルティコーヒーショップ「タリーズコーヒー」の展開。本格的なコーヒーの提供とともに、本物のスペシャルティコーヒー文化を広めることを理念に事業拡大を行っている。

01 約6,600名のバリスタを教育するノウハウとは?

タリーズコーヒージャパン株式会社(以下、タリーズコーヒー)が日本全国に展開する店舗数は約370。そこで働くフェロー(タリーズコーヒーにおける従業員の呼称)は社員、アルバイトを含めて約6,600名に及ぶという。

「その一杯に心を込める」という経営理念の通り、全員が心を込めて手作りでコーヒーを作り、お客様に満足いただき、お客様の期待を超越し続けるタリーズコーヒー。一体どのようにして6,600名を超えるバリスタの教育を行っているのだろうか。

社員教育はどんな企業にとっても重要な課題。組織として全員が共通意識を持って進むことの難しさに頭を抱える経営者も多いのではないだろうか。全国の店舗で、全員が「一杯のコーヒーに心を込める」。タリーズコーヒーの秘密を探れば、その課題解決に役立つヒントが見つかるかもしれない。

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02 “教育が大事”という信念で育てたコンテスト

バリスタの表情は真剣そのもの

2009年10月2日、東京丸の内にある東商ホールは熱気に包まれていた。ステージ上に設置されたエスプレッソマシンで次々にカフェラテを作るバリスタ、客席から声援を送るフェローたち、会場に充満する芳醇な香り…。

この日開催されたのは「第10回タリーズコーヒーバリスタコンテスト」の全国大会。バリスタの更なる技術とモチベーション向上を目指すべく、タリーズコーヒーが10年前から教育プログラムの一環として開催している社内コンテストだ。毎年秋に行われる全国大会を目指して全店から社員、アルバイトのフェロー各1名が店舗予選に参加。さらに地区予選で優勝した社員フェロー12名、アルバイトフェロー12名がタリーズバリスタの頂点を目指して日々研鑽する技術を披露した。

アルバイトフェローの部では2分間の自己紹介プレゼンテーションに続き、7分間に何杯のカフェラテを作れるかを競い、社員フェローの部では15分間で自己紹介プレゼンテーション、そしてエスプレッソ、カフェラテに加えて創作ドリンクを作成する。ステージ壇上で腕前を披露するバリスタの表情は真剣そのもので、客席のフェローたちも優れた技術を見逃すまいと厳しい視線を注ぐ。その様子は、まさにバリスタの甲子園。

全国大会の様子を見るだけで、このコンテストがフェローたちの目標となり、モチベーションアップやスキルアップに間違いなく寄与しているであろうことが感じられた。ただ、このコンテストも初めから順風満帆ではなかったと営業本部トレーニンググループ グループ長の田所義隆さんは言う。

「第1回目は、そもそも全国の店舗数が20店舗に満たない時代。コンテストの規模は今とは比べ物にならないくらい小さいものでした。ただ、タリーズコーヒーというブランドの向上やフェローのモチベーションアップのためには、バリスタの教育やバリスタ同士がスキルを競い合う場が絶対に必要だという信念がありました。その後、店舗数が増えてもコンテストの競技内容や評価基準を徹底したり、優勝者にはシアトル研修の副賞をつけたりとコンテストの価値を高め続けることで、今では全フェローが目標にするような存在にすることができたんです」

確かに、表彰式で勝者も敗者も涙で互いの健闘を称え合う様子からは、単なる社内コンテストの枠を超えた“熱”を感じられた。実際に大会に参加するフェローたちはどんな気持ちで大会に臨み、どんな成果を得ているのだろうか。東京都新宿区にあるタリーズコーヒー 新宿若松河田店からアルバイトフェローの部に出場し、見事準優勝の栄冠に輝いた佐藤真吾さんに話を聞いた。

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03 出場者が語るバリスタコンテストの意義とは

アルバイトフェローの部 準優勝  佐藤真吾さん(新宿若松河田店)

「コーヒーなんて自分で淹れたことはなかった」

現在大学3年生。大学に入学してすぐに新宿若松河田店にアルバイトフェローとして店舗に立ち、たった2年あまりで全国第2位という称号を得た佐藤さんも、最初からコーヒーを淹れる名人だったわけではない。

「アルバイトの経験自体が初めてで、最初は右も左も分からない状態。ただ、店の雰囲気がすごくアットホームで、すぐに馴染むことができました。バリスタコンテストの存在を知ったのはタリーズに入ってすぐです。始めて間もないのに、出てみないかと先輩から冗談交じりに言われているうちに、『バリスタコンテストは皆が目指す場所』との思いがスッと入り、いつしか自分にとっても憧れの場所となっていました。その年は先輩フェローが出場し、地区予選で3位。惜しくも全国大会に出場はできなかったんですが、大会に向けて努力する先輩の姿はものすごく刺激になりました。来年は自分が、という想いが強くなりましたね」

目指す姿が明確になったためか、佐藤さんはバリスタという仕事にどんどんのめり込んでいく。

「初めて、自分も先輩も納得できるドリンクを作れたときの感動はよく覚えています。ホットドリンクに比べれば簡単なアイスカフェラテだったんですが、エスプレッソの抽出がバシッと思い通りにでき、頭で思い描いたとおりにミルクの上にマーブル模様にエスプレッソを注げ、味も香りも申し分なかったときの嬉しさは忘れられません。学校が夏休みになると毎日のようにシフトを入れてもらってバリスタの技術をどんどん学んでいきました。それが楽しくて仕方がなかったんです。ある程度、自分の技術に自信を持てるようになると、やっぱりそれを試してみたい。自分は全国のバリスタの中でどのくらいの位置にいるんだろう、っていう気持ちに自然となりましたね。そんな気持ちを持っているバリスタは多いと思うんです。ですからやはり、バリスタコンテストの存在意義は大きいです。スキルアップにもモチベーションアップにもなるし、他店の優れたバリスタの技術を目の当たりにする機会でもありますからね」

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04 コンテストが店の雰囲気作りにも一役買う

「コンテストにより店に一体感が生まれた」と語る 井関勝博氏(新宿若松河田店マネージャー)

佐藤さんが初めてバリスタコンテストに出場したのは2008年。その年は2人1組で技術と知識を競い合うという形式で、佐藤さんはバリスタではなくキャッシャーとして決戦に臨んだ。

「結果は地区予選で2位。バリスタとして出場した先輩フェローは実際にコーヒーを淹れる技術部門では1位だったので、結果的に僕が足を引っ張る形になってしまったんです。それが悔しくて、悔しくて」
そのときの様子は新宿若松河田店のマネージャー、井関勝博さんもよく覚えているという。

「出場者は勝っても負けても一回り大きくなってくれるというか、店全体のレベルアップまで考えてくれるようになるんです。佐藤君は2008年に悔しい思いをして、絶対に2009年のリベンジを誓っていたと思うんです。それなのに『後輩に経験を積ませるためにも、2009年は僕が出場しないほうがいい』なんて言ってくれた。結局、仲間の後押しもあって今年も佐藤君が出場することになりましたが、間違いなく一体感が生まれていましたよ。準優勝という結果まで店に持ち帰ってくれて、こんなに嬉しいことはありませんよ」

また、出場するバリスタにとってだけでなく、バリスタコンテストは店全体の雰囲気作りにも大きく寄与するのだとか。

「うちの店のフェローは照れ屋が多く、普段はあまり声に出して応援したりしませんが、実際に会場にはたくさんのフェローが応援にかけつけ、みんなが熱くなる。単なる仕事仲間という垣根を越えて店のフェロー全員が一致団結できる場なんです」

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05 成功の鍵は「浸透するまでの積み重ね」

全国のバリスタのスキルアップとモチベーションアップという当初の狙い以上の意味を持ち始めたバリスタコンテスト。組織が大きくなればなるほど、スタッフ教育は困難になっていくが、タリーズコーヒーではこの社内コンテストがフェロー教育の一翼を担っている。店の雰囲気作りに一役買い、店舗間の横のつながりを生み出し、そこで受ける刺激を仕事のモチベーションにできる。そんな一石数鳥もの効果をもたらす社内コンテスト。

「今回の大会で優勝したのは奈良ビブレ店の女性フェローなんですが、彼女には全てにおいて敵わないと思いましたね。バリスタの技術だけでなく、細やかな心配りと気遣いができる人で、僕なんか足元にも及ばない。いいバリスタは技術だけ持っていてもダメなんだと肌で感じられました。今後のいい目標ができました」と語る佐藤さん。スタッフ自らの更なるモチベーション創出にしっかりとつながっている。

「細かな気配りと気遣い」コンテストで得た更なる目標を日々の接客に活かす佐藤さん

ここまで浸透した裏には、コンテスト内容をレベルアップさせるため、運営側の工夫があったようだ。田所さんはこう振り返る。「コンテストを通じてバリスタがより成長できるよう、毎年テーマを掲げ、コンテスト内容の見直しや充実を図っています。今年はテーマを『GO PROFESSIONAL!』。そしてバリスタ個人の存在感が高まる審査を意識しました。タリーズコーヒーの求めるバリスタ像は、技術、ホスピタリティ、コーヒー知識において“プロフェッショナル”であること。それにプラスして、タリーズコーヒーのバリスタとしての個性をどこまで表現できるかが大きなポイント。そこにフォーカスするため、新たに自己紹介のプレゼンテーションや、バリスタ考案の創作ドリンクの作成を審査項目に加えました。ステージ上で堂々と自分の技術や想いをアピールする姿は予想以上で、レベルの高まりを肌で感じました。今まで積み重ねてきたコンテストの過程があったからこそだと思っています」

10年という年月を掛け、信念を持ち続けてこの社内イベントを育てていったタリーズコーヒーだが、その想いが店に根付くまで浸透した時、その効果は計り知れないようだ。

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