佐川急便の「宅配メイト」が主婦層を中心に人気の理由とは?

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掲載企業DATA:佐川急便株式会社

佐川急便株式会社

本社所在地 京都府京都市南区上鳥羽角田町68
東京本社所在地 東京都江東区新砂2-2-8
代表取締役会長 荒木 秀夫
設立年月日 1965年11月(創業1957年)
事業内容 宅配便など各種輸送にかかわる事業

 

01 佐川急便の新たな取り組み「宅配メイト」とは

宅配便大手の佐川急便では、配送力強化の一環として2014年4月から主婦を活用した「宅配メイト」の全国展開を開始した。これらのスタッフは、アルバイト・パートといった雇用形態は取らず、登録者と業務委託契約を結ぶ。多様な働き方に対応し、人手不足の現在でも人材を確保につなげているシステムとして注目されている取り組みだ。

千葉での試験導入時から「宅配メイト」の立ち上げに携わってきた横山治氏千葉での試験導入時から「宅配メイト」の立ち上げに携わってきた横山治氏

「スタートは約3年前です。千葉県の一部営業所で不在時の再配達を減らし、午前中の配達率を向上させる目的で試験的に導入しました。個人宅の在宅率が高い午前中の配送を強化するために、9時から12時まで働ける短時間勤務の人材を募集したところ、なんと8割が主婦層からの応募だったのです」と語るのは、東京本社営業部で営業課長を務める横山治氏。
「宅配メイト」は自宅の周辺エリアのみを担当し、少量の荷物を配達するスタッフ。将来的な労働人口の減少や、ネット通販の拡大による輸送ニーズの高まりを背景に、メインの配送力である「セールスドライバー」を補完する目的で生まれ、主婦層を戦力に取り込むことに成功しているという。
「本来なら配達から集荷までフルタイムで働ける人材が理想ですが、業務量の変動に合わせた人員配置も必要でした。短時間シフトなら主婦の応募が集まりやすいことがわかり、そこに着目して採用を強化するようになったのです」

02 主婦の働き方にマッチした「宅配メイト」の魅力

「宅配メイト」の全国展開をスタートするに当たり、自社のWebサイトでマンガ形式の業務紹介を掲載しているほかは、特に広告や告知をしていない。それにもかかわらず、登録者は2014年4月の150名から、同年11月時点で3000名までに増加。同社は、今期5000名の登録を見込んでいるという。
確実に主婦層を獲得している理由については、次のような家事・育児と両立しやすいワーキングスタイルが主婦層にマッチしたことから、“ママ友”を中心に口コミで広がっていったと横山氏は分析する。
主婦の支持を集めたポイント

  • 通勤の必要がない
  • 子どもが学校に行っている時間を利用できる
  • 収入は扶養控除の範囲内

また、配達中に出会ったママ友から「何をしてるの?」と声をかけられて、「実は佐川急便の仕事をしているのよ」というように、身近な人から人へと情報が広がっていったことが人材確保につながったのだ。
主婦層が活躍する「宅配メイト」の業務内容は、セールスドライバーが自宅まで届ける軽量かつ小型の荷物を、自転車や台車を使って周辺の個人宅に配達するというもの。報酬は荷物1個当たりの契約単価に基づく出来高制なので、都合のいい時間帯や曜日を選んで、自分のペースで働くことができる。
「登録者の8割が主婦といっても、年齢層は20代~50代くらいまでと幅広いですね。お子さんが保育園や幼稚園、小学校などに行かれている時間を活用している方が多いのですが、ご自分の健康維持を目的に始める方もいらっしゃいます。働き始めてから15キロもやせたという方がいらっしゃるなど、ダイエットにも役立てていただいているようです」

子どもが学校に行っている時間を活用して働く主婦層が多い子どもが学校に行っている時間を活用して働く主婦層が多い

もしも配達できなかった荷物がある場合は、もともとそのエリアを担当しているドライバーが引き継いで配送する。「宅配メイト」は、そもそも配達効率アップのためにドライバーをサポートする役割であるため、「急に子どもの具合が悪くなった」「学校から連絡が来た」といった事態にも柔軟に対応することができる。アルバイト・パートのように、明確な勤務シフトが組まれるわけではないのがポイントだ。
「週3~4回くらい、午前中を中心に1日30個ほど配達される方が多いですね。個人の能力によっても変わりますが、平均的には月4~6万円ほどの収入になります。もちろん時間の制約はないので、長時間働ける方はしっかりと稼ぐことも可能です」

03 ご近所さんとの交流や成長実感もやりがいに

報酬以外のやりがいについては、配達途中で近隣住民から「おはようございます」「こんにちは」と挨拶されることも多く、そうしたコミュニケーションがうれしいというスタッフの声も多い。また、企業側にとっても、一人暮らしをしている女性などから「女性同士で安心して受け取れる」といった感想が寄せられたりしているほか、女性ならではの人当たりの良さから、クレームが少ないといったメリットがあるという。

「宅配メイト」には、年齢18歳以上なら誰でも応募でき、もちろん未経験者でもOKだ。そのため、配達業務に就く前には事前の研修を行っている。

研修では、挨拶や個人情報の管理、荷物の持ち出しや配達完了時に入力を行う携帯電話を利用した専用機器(PDT)の使い方などをレクチャーする。その後、セールスドライバーに同行して配達の流れを見学し、自分でも実践していく。

女性スタッフは顧客に安心感を与えるというメリットも

女性スタッフは顧客に安心感を与えるというメリットも

基本的な研修期間は午前中の3時間×3日間。個人によって能力や経験が異なるため、一人で配達できるようになるまで継続して実施するという。また、研修期間は時間にかかわらず、一律の初期教育費が支払われる。

「地図を見て配達ルートを組むのが最初の難関。初めのうちは、どうしても時間がかかってしまいます。それでも1時間に5~6軒しか回れなかったのが、慣れてくると2倍以上の配達先を回れるようになる方もいます。配送のスピードがアップすると収入も増えてくるので、やりがいを感じる方が多いようです」

04 「宅配メイト」の拡充と見えてきた課題

「宅配メイト」が1日に配達できる荷物はまだそれほど多くない。佐川急便全体では1日400万個以上の荷物を扱っているため、成果を測る数字としてはまだわずかというのが現状だ。

「登録者数の増加につながるように、集合住宅の集会所などを借りて説明会を実施するなどの工夫をしていますが、口コミと自社サイトで告知しているだけなので、認知度の向上はこれからの大きな課題です。将来的には住宅密集地については、もっと網羅的にスタッフを配置していきたいですね」

そのほか、過疎地や夜間の宅配業務の効率化も、同社が今後取り組むべきテーマだ。過疎地では自転車や台車での配送は非効率だが、事業免許が必要となる自動車は、個人事業主が取得するにはハードルが高い。また家庭を持つ主婦層は夜間の対応が難しいという。

そうしたなかで、佐川急便の各営業所ではアイデアを絞り、大学生や専門学校生、企業をリタイアした高齢者を活用するなど、さまざまな施策で人材確保を図っているという。時間帯指定サービスなどきめ細かなニーズに応える輸送品質と配送力を支えているのは、人材適正やスタッフの声をくみ取り、働きやすい環境整備と人材活用の仕組み作りを推進している企業努力にほかならない。

 

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