中高年人材の経験と安心感を生かし地元密着で成長を続ける「丸亀製麺」
- 企業採用成功事例
掲載企業DATA:株式会社トリドール
本社所在地 | 兵庫県神戸市中央区小野柄通7-1-1日本生命三宮駅前ビル11階 |
代表取締役社長 | 粟田貴也 |
設立年月日 | 1990年6月11日(有限会社トリドールコーポレーションとして) |
事業内容 | 讃岐釜揚げうどん「丸亀製麺」、焼鳥ファミリーダイニング「とりどーる」、醤油ラーメン専門店「丸醤屋」、焼きそば専門店「長田本庄軒」など、飲食店の経営 |
01 老舗の讃岐うどん店がコンセプト
入社5年目という木原氏。「丸亀製麺」の店長やエリアマネージャーなどを経て、教育研修の職務に
安定した店舗経営には優秀な人材の確保はもちろん、経験豊かなスタッフが長く働くことも大きなポイントとなる。とはいえ、実力のあるスタッフが短期間で辞めてしまったり、よそへ移ってしまったりすることもある。一体どうすればパートやアルバイトであっても、明確なキャリアを描け、長く働き続けてもらうことができるのだろうか。
今回は、セルフサービスの讃岐釜揚げうどん「丸亀製麺」を、国内で678店舗(2013年1月末現在)という規模でチェーン展開を行っている株式会社トリドールの人材育成の秘密について探ってみたい。
丸亀製麺を支える従業員は正社員約500名に対して、パート・アルバイトは約17,000名と、圧倒的に非正規雇用者が占める。これは、ほかの外食産業でもよく見られることだが、非正規雇用者のうち40代、50代の中高年層が約半数を占め、しかも圧倒的に女性、いわゆる主婦が多いというのが同社の特徴だ。
「丸亀製麺は、讃岐うどんの老舗をコンセプトとして展開しており、おばあちゃんもしくはおばちゃんが切り盛りしているようなうどん店をイメージしています。そこで、パートの主婦の方の力を活用しようとなったのです。もちろん雇用創出という面もありますが、料理経験豊富な主婦の方に厨房に入ってもらい、これまでいろいろな人生経験をされてきた中高年の方がお店にいれば、お客さまにも安心感や親近感をもっていただきやすい」と、株式会社トリドール教育研修課の木原学氏は話す。
02 常連さん作りに主婦の力を活用
丸亀製麺では、全店自家製麺で、天ぷらも店内で仕込むなど、セントラルキッチン方式は採っていない。できたて、作りたてにこだわり、それがおいしさにつながっているのだ。「製麺機を入れて、一店一店手作りです。それだけに、主婦の方の料理経験や知恵が生かされてくるんです」と木原氏は語る。
すべて自家製麺。できたて、作りたてにこだわる
また、常連のお客さまを大事にして、地元に密着した店作りを行うのが同社の経営理念でもある。「接客マナーを大事にしながらも、お客さまに親しまれるサービスを心がけています。例えば、お客さまに合ったメニューをおすすめしたり、『天ぷらできたてですよ、いかがですか』というふうに、お客さまが商品に手を伸ばしやすい雰囲気作りを行うようマニュアルに記載しています」。このような取り組みが、客単価の向上にも寄与しているのだ。
実際の店舗運営の中核を担うのが店長だが、同社では2012年1月に、今後5年間のうちに全店舗の店長を、パート従業員を店長に登用する「パートナースタッフ店長」に移行し、事業拡大を図るという方針を打ち出した。そして2012年2月に、主婦のパート従業員がその第一号として店長に抜擢されている。
03 最短1年でパートナースタッフ店長へ
では、具体的にどのようなステップで長期のキャリアプランを描けるようにしているのか。
入社後は、基本的な事柄を各店舗で働きながらマニュアルなどで学習してもらい、次に8項目からなる「基礎講習会」を受講する。内容は、製麺、釜ゆで・うどん調理、天ぷら・おむすびなどの調理、サービス、衛生管理、労務管理といったものが中心だ。
讃岐うどんならではの釜揚げ作り
次に日中や夜間など、営業時間帯ごとの責任者である「時間帯責任者」を目指して、6項目からなるセミナーを受講する。お客さま対応(クレーム対応)、トレーナー育成、Q(Quality=品質)S(Service=サービス)C(Cleanliness=清潔)というQSCの改善、緊急時の対応、製麺機や揚げ物を作るフライヤーなどの危険什器の取り扱いなどを学ぶ。セミナー終了後に登用試験を受けて合格すると、時間帯責任者にステップアップする。
最後はパートナースタッフ店長になるためのセミナーを受講する。経営理念、コンプライアンス、面接・採用、雇用契約、ワークスケジュール作成、店舗内のコミュニケーションといった内容を学び、こちらも登用試験に合格すれば、晴れてパートナースタッフ店長となる。
研修やセミナーは全国を27エリアに分け、エリアごとに拠点を設けて実施。現状では入社から最短1年でパートナースタッフ店長になることが可能という。制度発足から1年ほど経過した現在は約70名のパートナー店長が誕生しており、1割ほどの達成率だ。
気になる報酬面だが、パートナースタッフ店長になると、月額3万円ほどの手当が加算されるという。さらに同社では、長期間働いたスタッフへのインセンティブとして、さぬきうどんの本場である香川県への研修旅行を実施。老舗のうどん店を巡ったり、手打ちのうどん作りの体験などができたりするこの旅行には、毎年60~80名程度が参加する。勤続年数の長い方から順次参加してもらい、モチベーションアップに努めている。
04 加速する店長登用。人材育成も正念場
研修や試験を受けたといっても、すぐに店長としてのマネジメントや店舗運営がうまくいくのだろうか。スタッフとのコミュニケーションの取り方など、危惧することはないのだろうか。
「社員からパートナースタッフ店長への交代は、短時間で引き継いで終わりではなく、まわりのスタッフとの関係がうまくいくよう移行期間を設けて徐々に権限委譲していきます。店長とスタッフの関係は、社員店長だとスタッフを上から指導するというスタイルになりがちですが、パートナースタッフ店長の場合、やはりパート同士ですので、一緒にやっていこう、みんなで盛り上げていこうという意識が強くなりますね」と木原氏は言う。
スタッフとコミュニケーションを取る時間についても、パートナースタッフ店長だからといって、それが弊害になることはない。というのも、自分が入れない時間帯には「時間帯責任者」がいて、その人とスタッフの状況について連携を取っているのと、日誌などを活用してスタッフの思いの共有を図る工夫をしているからだ。それに正社員の店長の場合は3店舗ほどの店長を任されるため、1つの店に常駐しているわけではない。パートナースタッフ店長は1店舗1店長制なので、むしろ店のトップという印象が強まり、スタッフの一体感が生まれた。
また、飲食店のスタッフというと若い人が多いが、中高年層を採用するメリットについても詳しく聞いてみた。
店舗内でもトレーニングを行い、育成を図っている
「中高年の方には、お母さん的、お父さん的な存在でお店を守っていただいており、お客さまばかりではなくて、若いスタッフにも安心感を与えていると思います。若い人が仕事の面だけでなく、人生上の悩みなど、いろいろな相談にものってもらっているという話を聞きますし、逆に若い人に交じって働くといい刺激になるという中高年の方もいらっしゃいます」と、幅広い年齢層で構成されていることが、店舗の運営ばかりではなく人事面でのメリットも生み出しているのだ。
今期は年間140店舗ほど出店。来期も同程度の出店を予定しており、「新規出店の場合、一度に30名くらいのパート・アルバイトを採用します。これからはあらかじめ人材募集する時点から店長候補となりそうな方を採用して、パートナースタッフ店長への登用を加速していきたい」という。
「パートナースタッフ店長が今後どんどん増えていきますが、これまで社員店長だった人には、エリアマネージャーとして複数店舗のパートナースタッフ店長をうまくサポートする体制を作ることが肝要だと思っています。今後の課題としては、そういった面での正社員の教育も大切になってきます」と、丸亀製麺の成長のカギとなる人材育成に抜かりはないようだ。