店長スキルアップ塾「すぐ辞めてしまう…」問題を解決する定着率を上げる人材育成法

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日比谷 勉/ Tsutomu Hibiya
日本マクドナルド株式会社にて、採用部門の責任者として、さまざまな新しい採用戦略を実施し、計100万人のアルバイト・パート採用を推進。2018年4月、株式会社パーソル総合研究所入社。”現場”のアルバイト・パート領域に特化した調査・研究・コンサルティングを行う「フィールドHRラボ」を設立。ラボの責任者であるとともに、エバンジェリストを務める。

せっかく採用したアルバイトが辞めてしまい、その度に求人を出しては面接をして…と時間がない店長にとって、時間も手間もかかる採用活動。できることなら、アルバイトが辞めない環境を作り、可能な限り長い間、戦力として働いてもらいたいものです。しかし、早い人はアルバイト初日にすぐ「辞める」と決意してしまうと言います。その理由や、初期退職を回避する方策、さらには雇ったスタッフを定着させるためのポイントを、株式会社パーソル総合研究所のフィールドHRラボ責任者/エバンジェリストを務める日比谷勉さんに伺ってきました。

アルバイト初日に「辞めよう」と思わせないために

……時給が安すぎるわけでもないのに、人の入れ替わりが激しく、いつも人を募集している店舗がありますね。やはり、何か理由があるのでしょうか。

業種によっても違いがあるので一概には言えませんが、「想像と現実のギャップが大きい」場合が多いですね。実際に、パーソル総合研究所のデータ(2万5000人のアルバイトスタッフからの聞き込み)からも、やはりギャップに悩んだ経験のある方が相当数いることがわかっています。そして、これこそが辞めていくことが大きな原因になっているのです。

職場のどこに想像とのギャップを感じたのか。指導の有無を挙げている方は少なくありません。つまり、放置されていたわけですね。きちんと指導を受けられると思っていたのに、大して教えてもらえなかったとか、ひどい場合は「見て真似て」ということもあると言います。

特に問題なのが、「初日」でどのように扱われたのかです。初日から店舗側の「とりあえず……」とその場しのぎをされ、大したレクチャーも受けないままに単純作業を押しつけられたりや、存在すら忘れ去られてボーっと立ち尽くしているしかないというのでは、辞められても文句は言えません。でも、こういったケースは意外と多いのです。

アルバイトの初期退職は、90日(3か月)がピークだと言われていますが、1か月で辞めてしまう人も負けず劣らず多い。これは、初日に辞めようと決意したものの、すぐに辞めるのもためらわれるために1か月程度我慢してから辞めるからなんです。

放置しない姿勢がアルバイト定着につながる

……ショッキングな事実ではありますが、裏を返せば、初日にしっかりと対応できれば、せっかくの戦力を逃すこともないということになりますね。

そうです。誰もが放置されると気分は良くないものですが、何も分からず不安に思っている初日ではなおさらですね。ですから、定着の勝負は初日なんです。仕事をする上で重要な事柄は初日に教えるのがいいと思います。

例えば、テナントにおけるルールや休憩所の決まり事、スタッフ入口はどこか、どこに何がある……など、とにかく「こんなことも!?」ということまで手取り足取り教えてあげる。新人アルバイトの方も、きちんと説明してもらうことで、少なくとも「漠然とした不安」は払しょくされます。

初日に何をするかについては、できれば店舗レベルではなく、会社で一律の教育・育成計画があるのが望ましいです。最近では、初日は業務をまったくさせない会社も増えてきました。初日は契約書の記入とか、制服の着方のレクチャー、勤務する場所をツアーのように案内することを行っているところもあります。

……最初はオリエンテーションをするのがいいということですね。では、仕事をスタートするときはどうでしょうか。やるべきこと、気を付けたほうがいいことがあれば教えてください。

やはり、教える人がマンツーマンでレクチャーするのが大切です。ある会社では、「師弟制度」ということで、先輩がつきっきりで後輩の指導に当たるそうですが、これはとても良い制度だと思います。

最初の仕事を何にするか、については、それぞれ工夫のしどころかもしれません。例えば飲食店の場合、通常は洗い場からスタートする場合が多いと思いますが、あえてメインメニューの調理補佐などをさせ、その会社・店舗の魅力部分を見せるという手もあります。初日の成功体験というのは非常に大事ですから、「なんとなく」であっても、“仕事の根幹に触れた”という意識を最初から植え付けてあげるのも良いでしょうね。

アルバイトをしっかり育成し、定着させていくために

……次に、アルバイトをどう育てていくかについて伺います。辞めてほしくないばかりに厳しいことを言わないのも問題ですよね。「叱る」「褒める」のバランスなどについてはどう思われますか。

確かに、人材育成をするにあたっては、「褒める」だけではなかなか難しいと思います。時として、叱らなければならないこともあるでしょう。褒めるにせよ叱るにせよ、やはり重要なのは、指摘を“具体的にする”ということですね。漠然と言われたのでは、何がどう良かったのか、あるいは悪かったのかが伝わらず、アルバイトが「成長している」という実感を得られない。

私がかつて現場でよく使っていたのは、「褒めるのは大事だが、できれば課題をひとつ言ってあげる」という方法です。例えば、「お客様に良く気づいて挨拶できているね。でも作業を一瞬止めて顔を見て挨拶できるともっといいね」という感じです。言ってしまえば、褒めた後にダメ出しをしているわけですが、言われたほうは悪い気がしないどころか、「教えてもらった」「アドバイスをもらった」と感じるんですね。もっと言うと「メンバーとして認められた」という気持ちにもなります。こうしたことの積み重ねが、店舗への帰属意識を高めていくことになります。

もちろん、課題を言いっぱなしでは無責任で、後日、ちゃんとできているかのフィードバックをしてあげないといけないですよ。そうなると長期的視点を以ってその人のことを育成しなければなりませんから大変ですが、人材育成というのは、本来そういうことですよね。

ご自分が幼稚園や学校に入られたときのことを思い起こせば、最初はかなり手厚かったと思えるでしょう? ところが、現場の責任者になると、日々の忙しさに追われることもあって、新人を丁寧に指導するという意識が抜けてしまう。決して難しいことでも、新しいことでもないんですよ。そこに時間をかけませんか、ひと手間かけませんか? ということですね。それだけで、定着率は大きく変わってくるのです。

 

当たり前のことをおろそかにしない

……お話を伺っていると、どれも当たり前のことのように思います。でも、その当たり前が難しいのですね。

一歩立ち止まって考えてみれば、誰にでもわかることですよね。自分がやられたら嬉しいことをアルバイトにもしてあげる。自分がされたら嫌なことはしない。それだけのことです。しかし、実際にはアルバイトのフルネームも覚えていない店長が相当数いるのも事実です。

人間、自分が扱われたように、他人に接するようになるものです。自分がされて嬉しかったことは、人にもやりたいと思うもので、逆もまた然りです。店長のみなさんで、自分が大切に扱われなかったという苦い経験のある方は、「自分もそうだったから」と同じことをやるのではなく、「同じ思いはさせたくない」ということで、アルバイトにはきちんと接してほしいな、と思いますね。負の連鎖を断ち切るのはリーダーしかいないので、店長自らが率先して気持ちの良い職場にするべく、スタッフに声をかけていくべきだと思うのです。そうすることで、好循環を作れる人たちを増やしていけばいい。

……そのあたりを意識する、しないで、職場環境は大きく変わりそうですね。実践できていれば、求人広告を打つ際の具体的なアピールポイントにもなります。

そうですね。「仲の良い職場です!」とだけ書いてあるような広告とは一線を画すことができると思います。ちゃんと面倒を見る職場、きちんと育成をする環境であることを打ち出せば、応募者にも十分響くでしょう。意欲あふれるアルバイトを採用するチャンスが増えますし、その方をうまく育てていけば、さらに良い環境を作り上げることができますよね。

まとめ

アルバイトが「辞めよう」と決意するのは、実は初日が多いそうです。逆に言えば、初日を気持ちよく過ごしてもらえば、その方が定着する確率がぐっと高まります。具体的には、忙しくてもきちんと相手をし、指導をしてあげることで、「自分は必要とされている」と感じ、初日から「辞めよう」という気持ちにならなくなるのです。もちろん、初期退職の時期を過ぎても丁寧に接してあげることが大事。当たり前のことのようですが、これができる、できないでは定着率に大きな差がつきます。

 

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[出典記載例] 出典:求人情報サービス アルバイトレポートより(該当記事URL)

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