資格があっても働かないのはなぜ?【理美容編】
- 業界別求職者動向
近年、人材不足が課題となっている理美容業界。原因の一つは、免許取得者の減少だ。理容師・美容師国家試験は毎年春と秋の2回実施されているが、2011年9月30日の理容師美容師試験研修センターの発表によると、2011年度の受験者数は28,242人、うち合格者数は20,047人で、現試験体制になった2000年以降で最低の受験者数・合格者数となった。また、「雇っても長続きしない」という声も多い理美容業界では、人材不足が慢性化している。
そこで今回は、理容師・美容師の有資格者を対象に実施した調査結果から、有資格者をいかに確保するか、そのヒントを探った。
目次
今月のポイント
- 元理容師・元美容師のうち約半数以上が30代女性
- 1~3年未満で辞めた人が3割、退職理由は労働時間の長さと給与への不満
- 元理容師・元美容師の3割が、「再就職したい」願望あり
- 理容師・美容師が勤続するカギは「やりがい」
調査概要
- 調査名:有資格者調査
- 調査期間:2011年9月9日~12日
- 調査方法:インターネットリサーチ
- 調査対象:
(1)全国の20~40歳の男女で、過去に以下資格職に就業経験のある人のうち、現在は該当資格職に就業していない人
(文中表現=潜在的有資格者/元理容師・元美容師)
(2)全国の20~40歳の男女で、現在該当資格職に就業している人
(文中表現=現理容師・現美容師)
・調査対象資格:理容師、美容師
・サンプル数:(1)164名 (2)52名
1 理美容職における滞在的有資格者の属性
30代女性が半数、1~3年未満で辞めた人が3割
今回、理容師・美容師の有資格者を対象に調査を実施したところ、過去に理美容職に就いていたが現在は離職している人(=潜在的有資格者/元理容師・元美容師)で最も多いのは、30代の女性で全体の56.1%を占めていた。【グラフ1】
また、これら潜在的有資格者に、就業当時の在職期間を聞いたところ、最も多かったのが1~3年未満で32.3%と、約3割が1~3年未満で辞めていることがわかった。また、3カ月未満~3年未満を合計すると全体の54.3%に上り、半分以上が3年未満で退職していることがわかる。【グラフ2】
一方、現在も理容師・美容師の資格を生かし、働いている人たち(=現理容師・現美容師)の勤務期間を見ると、全体の76.9%が「10年以上」在職していることが明らかになった。一定期間勤続できた人はそのまま長期間、資格を生かして働き続ける傾向にあるようだ。
2 元理容師・元美容師が仕事を辞めた理由
労働時間と給与に不満
次に、元理容師・元美容師に仕事を辞めた理由についてたずねたところ、最も多かったのが「業務内容の割に給与が低いから」(34.1%)、次いで「精神的に疲れる仕事だから」(32.3%)「1日に働く時間が長すぎるから」(30.5%)となった。【グラフ3のABC】
ちなみに、現職・離職中関係なく理容師・美容師全員に、就業時の勤務日数と時間を聞いてみると、88.9%が「週5日以上」の勤務と回答。しかも、1日当たり10時間以上の勤務をしている人は全体の47.7%に上り、長時間労働の傾向が強い業界であることがわかる。
また、仕事を辞めた理由として「時間の融通がきかない・休みが取れないから」(28.7%)を挙げる人も多い。休みが少なく長時間勤務であるのに対し、満足のいく給与金額ではないと判断し、辞めてしまうケースが多いのかもしれない。【グラフ3のD】
そのほか、理美容職独特の理由として、「薬品アレルギーなど、体質に合わなかったから」を挙げる人も15.2%と比較的多かった。フリーアンサーにも「ヘルニア」や「腱鞘炎」などの項目が見られ、ヘアカラーやパーマ液などの薬剤による手荒れや手さばきの負担、終日の立ち仕事・シャンプーなどの中腰作業による腰の故障など、理美容職ならではの体力・体質的な課題も浮き彫りとなった。【グラフ3のE】
このように、元理容師・元美容師が辞めた理由は、あくまで給与や勤務時間に対する不満、労働環境による課題が多く、仕事自体が嫌になって辞めたのではないようだ。
そこで、ここからは潜在的有資格者のうち、再就職の意向がある人はどれくらいいるのか、さらに彼らの勤務希望条件について詳しく見ることで、潜在的有資格者の採用や、理容師・美容師の定着率向上のヒントを見出したい。
3 滞在的有資格者の採用時の留意点と定着のポイント
3割は復帰を望む
今回の調査では、潜在的有資格者のうち31.7%の人が、「条件が合えば、すぐにでも持っている資格に関係する仕事に就きたい」「時機を見て、そのうち持っている資格に関係する仕事に就きたい」と回答した。これら再就職意向のある人に希望の勤務条件を聞くと、勤務日数は「週3-4日以内」(55.8%)、勤務時間は「5-8時間未満」(50.0%)、雇用形態は「アルバイト・パート」が53.8%という結果となった。
勤続してもらうには「やりがい」の持てる職場環境の創出を
では反対に、現職の理容師・美容師が仕事を続けている理由は何か。最も多かった理由は、「やりがいのある仕事だから」で53.8%、次に「自分には向いている仕事だと感じているから」(44.2%)、「現在持っている資格を生かしたいから」(30.8%)と続いた。さらに「仕事内容に興味が持てるから」も28.8%と上位4位にランクインしている。この結果から、理容師・美容師が継続して働くうえで、業務内容へのモチベーションはかなり重要なポイントであるといえる。【グラフ4】
先の「辞める理由」や再就職意欲のある人の「希望条件」と合わせて考えると、給与や勤務時間など、それぞれのライフスタイルに合わせた雇用体制を整えることは最優先課題だが、同時に業務に対してやりがいや達成感を感じられる職場環境にしていくことで、一度雇った理容師・美容師が辞めずに勤務してくれる可能性もさらに高まりそうだ。
一方、薬品アレルギーや体力的な問題は、本人に働く意欲があっても辞めざるを得ない原因になってしまう。こうした理由で離職を生じさせないためには、業務の振り分けや、皮膚への刺激が少ない薬品の選定、こまめな道具・設備の掃除、腰掛スツールの活用等による負担軽減など、スタッフの意見を参考にしながら、できることから着手したい(※)。
※参考:独立行政法人 労働者健康福祉機構「手あれをおこさない職場づくり」
以上、「潜在的有資格者の採用」と「既存スタッフの定着」の観点から、それぞれ対策のヒントを見てきた。こうした地道な取り組みによって、理容師・美容師の働く条件や環境を変えていくことは、今現在の人手不足を解消する一策となるだけでなく、今後、新たに理容師・美容師免許を取得する若者の増加も促進するかもしれない。