学生アルバイトからの情報漏洩を防ぐ方法 – 小山内行政書士事務所 小山内怜治
- お役立ちインタビュー
近年、TwitterやFacebookなどのSNSを通じて、学生アルバイトが社内情報を流出し、炎上する騒ぎは後を絶ちません。件の学生たちを採用していた企業はブランドイメージ低下など大きなダメージを受けています。こうした学生たちのうかつな行動を防ぐには、どうすればいいのでしょうか? アルバイトの雇用問題に詳しい行政書士の小山内怜治先生に聞きました!
目次
アルバイトの投稿による炎上は増えている
「“漏洩”には、情報を取り扱う者が故意に漏洩する場合と、過失で漏洩される場合がありますが、ここで問題にしているのは前者です」
今年7月、あるコンビニで学生アルバイトが防犯カメラに映ったサッカー選手の画像を接写してTwitterに投稿。ネットで大騒ぎになり、企業が公式に謝罪する事態に追い込まれました。ほかにも、Twitter関係ではホテル内勤の学生従業員が有名人のデートを暴露したり、専門学校生がサッカー選手のカルテを見たと書き込んだりして、ネットで炎上した事件もありました。
学生アルバイトだけでなく、企業の内部スタッフが秘密にすべき事柄をネットで暴露し、炎上騒ぎを起こすケースは、近年、特に増えています。
「漏洩」には、社内スタッフが悪ふざけで会社の情報をSNSなどに投稿してしまうケースから、ある企業との共同研究に携わった大学生が、就職活動の面接で研究内容を事細かに漏らしてしまうケースまで、さまざまな例があります。
なお、「漏洩」という言葉は「取扱者の故意で漏洩する」場合と「過失で漏洩される」場合を含みますが、今回は前者にスポットを当て、学生アルバイトへの対処法を考えてみましょう。
学生アルバイトの「情報漏洩」はなぜ起こる?
情報漏洩を引き起こすのは、当然ながら学生に限ったことではありません。ですが、過去の例では、企業がらみかどうかはさておき、炎上騒ぎは学生の書き込みに端を発するケースが多数。彼らはまだ社会の常識を理解しておらず、親しい友達に共有する感覚で情報を投稿してしまうのです。
もちろん、すべての学生がそうだというわけではありません。では、何気なく情報を発信してしまいがちな学生の特徴を、具体的に見てみましょう。
情報漏洩を行う可能性のある学生像
●秘密にすべき情報の重要性を理解していない
ある情報を社会的に秘密にすべきかどうかが判断できない。また、内部事情を漏らされた企業側のリスクが想像できない。
●企業は、自分と関係がないものだと考えている
自分はただのアルバイトであり、働く企業の評判が下がって売上が減少したとしても、何の影響もないと考えている。もし辞めることになっても、代わりのバイト先はいくらでもあると思っている。
●自己顕示欲が強い
名だたる企業に勤めていることを外に向けてアピールしたい、入手した他の人が知らない情報を発信したいと考えている。
通常のアルバイトであれば、秘密を守ったことによるインセンティブ(金銭的な手当など)もありません。そのため、そもそも職務上で知り得た秘密は守らねばならないという意識が乏しいのが実情です。
一方、情報漏洩をしたアルバイトを抱える企業の被害は深刻です。ブランドや評判に影響するばかりか、これまで築き上げた信用も失いかねません。さらに、情報漏洩をされた被害者からは、使用者責任(民法第715条)を追求される可能性もあります。
使用者責任(民法第715条)とは
(1)ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
(2)使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
(3)前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。
情報を漏洩させないためのルール作り
では、学生アルバイトに情報漏洩をさせないためにはどうすればいいのでしょうか?
まず心がけたいのは、そもそも情報を「取得」させないことです。基本的な話ですが、顧客情報や顧客カルテ、販売ノウハウ、料理レシピなど、企業にとって重要な情報は、紙資料でも電子データでも、きちんとロックをかけ、簡単には閲覧できないよう徹底的に管理してください。また、職務上必要がないのであれば、働く場所へのケータイやスマ-トフォン、タブレットPCなどの持ち込みを禁止するのも有効です。
とはいえ、目で見たり、耳で聞いたりする「取得」は制限できません。有名人の来店を知ったり、重要なノウハウを学んだりすることが、職務上は避けらないこともあります。
そこで、大切なのが学生たちの教育です。
研修で情報漏洩は悪いことだときちんと教える
「学生アルバイトを雇用したら、まずは研修で情報漏洩リスクを教え込みましょう」
過去に情報漏洩に当たる内容を投稿し、炎上事件を起こした学生アルバイトたちは、おそらく悪気があったわけではありません。安易な漏洩が何をもたらすかを彼らがきちんと知っていれば、事件への発展は防げたはずです。
新しく学生アルバイトを雇用したら、まずは研修を開き、情報漏洩が企業にとって非常に重大なリスクにつながることを徹底して教えましょう。場合によっては、民事訴訟の提起や刑事告訴で彼ら自身が企業から責任を追求されることもあり得ると伝えてください。一種の抑止力になります。
「そうは言っても、脅しすぎると信頼関係にヒビが入るのでは……」という声もよく聞きます。そんな時は、外部のコンサルや弁護士、弁理士、行政書士などの専門家たちを活用しましょう。彼らは、第三者の立場から厳しく言って聞かせることができます。一定のコストはかかりますが、研修に参加するスタッフの数が多い時などは、ぜひ検討してみてください。
また、研修を行った際は、必ず「レポート」「感想文」を提出してもらいましょう。本当に内容を理解できているかどうかを確認するだけでなく、本人が問題を起こした時に「事前に研修を受け、情報漏洩が禁止であることを理解していた」という証拠を残すことができます。
情報を漏洩されてしまったら、法律は企業を守ってくれるのか?
さて、先に民事訴訟の提起や刑事告訴について触れました。アルバイトスタッフに情報を漏洩されてしまったら、法律はどこまで企業を守ってくれるのでしょうか?
まず、情報漏洩を取り締まる法律には「不正競争防止法」というものがあります。「営業秘密」に該当する情報を勝手に漏洩した場合、民事上・刑事上の責任を問うことができる法律です。
実際に、企業の情報が勝手に漏洩された場合、問題になるのは「漏らした内容が、本当に“営業秘密”なのかどうか」です
営業秘密の3条件
- (1)秘密管理性 → 秘密として管理されている情報であること。
- (2)有用性 → 事業活動に有用な情報であること。
- (3)非公知性 → 公然と知られていない情報であること。
漏らされた情報の内容が営業秘密と認められれば、企業は法律の保護を受けられます。
では、芸能人の来店をTwitterで発信してしまったケースではどうでしょうか? 「芸能人の来店」は、プライバシー保護という意味では絶対に漏らしてはいけない情報です。ただ、営業秘密という観点から見ると、果たして「有用性」や「非公知性」があるかは疑問が残ります。
ハッキリ言えば、学生アルバイトが行うような情報漏洩において、法律が適用される可能性はきわめて低いのが実情なのです。しかも、仮に学生を訴えたところで、刑事では有罪となる可能性が低く、民事でもせいぜい微々たる賠償金が取れるだけ。漏れた情報は回収できず、企業のブランドや信用も戻ってこないのです。
問題は、学生相手の訴訟に勝てるか否かではありません。大切なのは、不正競争防止法を抑止力として活用することで、漏洩を事前に防止することなのです。
退職したアルバイトの情報漏洩をいかに防ぐか?
たとえば、就職活動で競合他社の面接を受けた際にアルバイトの経験として、これまで働いた企業の内情を話してしまうことがあります。こうした退職後の情報漏洩を防ぐにはどうすればいいのでしょうか?
通常、アルバイトであっても正社員であっても、退職してしまえば労働契約は消滅します。そのため、退職後の情報漏洩を止める法律はありません。ただし、きちんと誓約書をとっていれば、退職後の「秘密保持契約」が認められる場合もあります。
秘密保持契約とは
営業秘密や個人情報など業務に関して知った秘密を第三者に開示しないとする契約。機密保持契約、守秘義務契約ともいう。
自社が守りたい事柄が何かをきちんと整理する!
秘密保持契約を結ぶための誓約書はどのように作成すればいいのでしょうか? ポイントは、企業内部にとどめておきたい情報をきちんと特定して記載することです。
秘密保持義務の対象となる事例
●接客業の場合
(例)顧客情報、接客ノウハウ、ターゲット層など
●飲食店の場合
(例)来客情報、調理技術、レシピなど
●塾講師の場合
(例)生徒の個人情報、指導方法など
なお、「職務上知り得た情報」のように大ざっぱな定義付けで記載すると、営業秘密の要件である秘密管理性が否定され、不正競争防止法による保護を受けられない可能性があります。くれぐれもご注意ください。
「秘密保持契約書の内容は、なるべく具体的に記載しましょう。契約のタイミングも工夫のしどころです」
誓約書を提出してもらうタイミングは、退職時に限りません。入社時は言うまでもありませんが、たとえば、飲食店のアルバイトの場合、ホールからキッチンへ異動し、重要な調理法、レシピ、仕入れに関する情報など、新たな秘密情報を扱うようになることもあるでしょう。その時は、ぜひ誓約書を提出してもらい、、漏らしてはいけない事柄を具体的に伝えておきましょう。これも、秘密管理性が認められるために重要なポイントです。
情報漏洩が起きたとき、リカバリーはできるのか?
では、もしも情報漏洩が起こってしまったら、企業はどう対処すればよいのでしょうか?
基本的に、一度表に出てしまった情報は消し去ることができません。特定の人物や顧客に迷惑をかけてしまえば、「悪いのは従業員」ではすまされないのです。企業側にも管理責任や監督責任があるため、いち早く原因を調査し、謝罪することが大切です。
ネットに情報が投稿されてから炎上するまでの時間は、早ければ数時間、遅くとも数日中です。早急な鎮火のためにも、企業名でのエゴサーチはもちろん、まとめサイトやニュースサイトをチェックしたり、RSSリーダーなどを使ったりして日頃からこまめに情報収集をしておきましょう。
もう一つ、炎上した際に企業を悩ませるのが、ネットで情報を知った人が電話やメールで苦情、問い合わせを寄せてしまうこと(ネット用語でいう「電凸」「メル凸」)です。突然こんな事態が起きれば、パニックにならない企業のほうが珍しいでしょう。しかし、下手な対応をすれば、今度は「こんな対応をされた」という情報がネットに書きこまれ、火に油を注ぎかねません。
万が一の事態に備えて、あらかじめ、炎上した際のマニュアルの策定、電話やメールでの苦情、問い合わせに対するエスカレーションフローの整備などを準備しておくことが肝心です。もちろん、炎上対策を指南する業者に頼んだり、過去の炎上事例などを参考にしたりするのも手です。
情報漏洩をさせないことは、学生の経歴を守ることでもある
最後に、情報漏洩の研修を行う際、学生たちにぜひ伝えてあげてほしいのは、うかつな情報漏洩を行えば、本人の経歴にも傷がつくということです。
過去には、匿名での漏洩にもかかわらず本人情報を「特定」され、氏名はおろか、顔写真、住所、果ては家族の写真までネットに晒された例もあります。刑事罰や民事訴訟を免れたとしても、本人は手ひどい社会的制裁を受けることになるのです。特に学生は、いずれ就職活動を行います。実名が炎上の形で晒されれば、就職で不利になることは免れません。
何気ない投稿であっても、情報漏洩に当たる内容だったらどうなるか。それを徹底して教えることは、本人の経歴を守ることにもつながります。投稿内容に気を配ることは、本人と企業、両方のためになると、ぜひ伝えてあげてください。
小山内 怜治 / Reiji Osanai 小山内行政書士事務所代表 契約書作成業務を専門とし、契約実務を主軸とした、ビジネスモデルの明確化、業務プロセスの効率化、リスク対策等の企業向けコンサルティングを行っている。著書に『改正労働者派遣法とこれからの雇用がわかる本』『実務入門 これだけは知っておきたい契約書の基本知識とつくり方』がある。 小山内行政書士事務所 http://www.office-osanai.com/ |