「展開型」の質問法で人材を見極めよう! – ARKコンサルティング・オフィス 代表 石川和夫
- お役立ちインタビュー
多忙な採用担当者にとっては、採用面接にかかる時間は切実な問題です。できることなら「応募者との面接の時間は、なるべく短く効率よく行うほうが望ましい」と思っている方も多いのではないでしょうか。今回は、前回に続き石川和夫先生に、従業員の定着率が高い職場に共通する採用面接のコツを、具体的な質問術を交えて解説していただきました。
目次
~面接時間の長短がバロメーターになる~
私が過去に取材した経営者や店長の話によると、アルバイト・パートの採用面接時間は30分~1時間が最も多いようです。この面接時間についてより詳しく見てみると、ひとつの傾向が浮かび上がってきます。それは、アルバイト・パートの定着率が高い職場ほど、面接時間が長いということです。では、その違いはどこから生まれてくるのでしょうか。
まず、定着率の高い職場の面接者は、応募者の仕事に対する「価値観」や業務に対する「認識度」、人間関係に対する「適応性」の把握を目的に、応募者自身に話をしてもらう機会を面接中に数多く作っています。その結果、面接時間が長くなっているのです。
一方、定着率の低い職場の面接者は、次に紹介するような「限定型」の質問を中心とした面接を行っているため、応募者自身が話す機会は少なくなり、面接時間が短くなる傾向にあります。
「限定型」中心の面接事例
面接者
「石川さんはコンビニで働くのは初めてですか?」
応募者
「はい、初めてです」
面接者
「家族の方は、石川さんがアルバイトをすることに賛成していますか?」
応募者
「はい、賛成しています」
面接者
「いま、私どもの店では接客に力を入れているのですが、大きな声で『いらっしゃいませ』『ありがとうございました』などを言うことはできますか?」
応募者
「はい、声は大きい方なので大丈夫だと思います」
面接者
「また、少し慣れてきたら発注や売場作りなど、責任ある仕事も担当してもらうようになりますが、負担になりませんか?」
応募者
「なりません、がんばってやりたいと思います」
[…面接はつづく]
~応募者の意志が聞き出せる「展開型」の質問~
上記の例を見ると、面接者は応募者の働く意志を確認しようと、さまざまな角度から質問するよう努めています。しかし、問いかけの内容が「はい」「いいえ」「できます」「できません」だけで答えることができる「限定型」であるため、応募者から考えを引き出し、意志を十分確認することができていません。
限られた面接時間でより良い人材を選定するためには、「相手のことをより深く知ること」が何よりも重要なポイントとなります。そのため、まず上記のような質問内容については面接前に事前アンケートをするとよいでしょう。その上で、次に紹介するような「展開型」の質問をできるだけ多く使用し、応募者の話す機会を増やしてあげることが必要です。
「展開型」中心の面接事例
面接者
「石川さんはコンビニで働くのは初めてとのことですが、働く目的について教えていただけますか?」【展開型】
応募者
「はい、この春から妹が高校生になります。中学生までは公立だったのですが高校は私立なので、いろいろとお金がかかります。そこで、私もアルバイトをして自分の小遣いやサークル活動の費用ぐらいは稼がないといけないと思いました」
面接者
「なるほど、家の経済的理由からですね?」【限定型】
応募者
「はい、そうです」
面接者
「それではあえてコンビニでなくてもよいと思うのですが、どのような理由からコンビニで働こうと思ったのですか?」【展開型】
応募者
「今までのアルバイトは飲食店が多かったのですが、今後の就職活動のことを考えると、コンビニでアルバイトをしながら流通業界のことを勉強したいと思ったからです」
面接者
「そうですか、流通業界に興味を持っているのですね。ところで、いま私どもの店では接客に力を入れているのですが、石川さんにとって『接客の良い店』というのはどのようなお店ですか?」【展開型】
応募者
「『接客の良い店』ですか……(しばらく沈黙)。まずは元気の良い挨拶ができている店だと思います」
面接者
「そうですね、元気な明るい声で挨拶をすることは大切ですね。これは、飲食店もコンビニも共通ですが、コンビニでは他にどのようなことが求められると思いますか?」【展開型】
応募者
「(沈黙)……、自分がお客としてお店を利用した経験から言えば、『迅速さ』や『正確さ』だと思います。特に朝の通学時やお昼時など、急いでいる時に感じます」
[…面接はつづく]
~応募者の沈黙の時間も大事な投資ととらえよう~
「展開型」とは、相手の考えを深めたり、広げたり、視点を変えたりする時に使用するもので、しっかりとした考えを持っている人材かどうかを見極めるには大変効果的な質問法です。この質問法を多用すると、相手の話す時間が多くなったり、沈黙の時間が生まれたりするため面接時間は長くなりますが、この時間を「面倒だ」と思ってはいけません。この時間は、より良い人材を確保するために必要な「先行投資」だと考えるべきです。こうした展開型の質問法と時間の投資で、より良い採用ができることを願っています。
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石川和夫 / Kazuo Ishikawa
ARKコンサルティング・オフィス代表。1958年栃木県宇都宮市生まれ。法政大学経済学部卒。株式会社セブン‐イレブン・ジャパンにおいて、OFC(スーパーバイザー)として7年間勤務。のちコンビニエンス・ストア3店とイタリアン・レストラン2店を経営する会社の店長兼統括マネジャーとして12年間勤務。2000年に独立。現在は人材育成コンサルティング、コーチングを活用した管理職者向けのコミュニケーション研修、ビジネスコーチング、執筆、講演を中心に活動する。経済産業大臣認定:中小企業診断士(中小企業診断協会:東京支部中央支会会員)。
著書
『スタッフの“やる気”を引き出す法則(商業界)』『実例に学ぶ店長のための「現場を活かすコーチング」(共著:商業界)』『「聞き方」ひとつで人は育ち・人は動く」(共著:こう書房)』など。
オフィシャルWebサイト
http://www.ark-consulting.com
ブログ「石川和夫の流通業界ウォッチング」毎週日曜日更新中。