【従業員の「やりがい」を高めるための、やさしいドラッカー入門】Planning Factory PSYCHO 代表 中野明

  • お役立ちインタビュー

普段、従業員の方に対して、「本当にやりがいを持って働いてくれているだろうか」と疑問を持ったことはないでしょうか。しかし、そういった疑問を持つ前に、少々振り返って、マネジャーである皆さんが彼らのやる気を奮い立たせているか、といった点について自問すべき場合があります。今回は「17歳からのドラッカー」の著者でもあり、Planning Factory PSYCHO代表の中野明さんに、いま話題のドラッカーのマネジメント論を引用して、「やりがいマネジメント」をやさしく解説していただきました。

~企業は社会から何を期待されているのか~

今回は従業員の「やりがい」を高めるマネジメント術を、ドラッカーのマネジメント論に従って探っていきたいと思います。

まず、第一に自問したほうが良い点は、「マネジャーである私は、会社のミッションについて、従業員に語れるだろうか」という点です。

ドラッカーは企業も含めあらゆる組織は社会の機関だと述べました。Organつまり社会を人体にたとえたならば、企業は臓器(器官)みたいなものだということです。

人体の器官に不必要なものはありません。身体を適切に動かすために何らかの役目を担っています。同様に、あらゆる企業も、社会をスムーズに機能させるために存在します。ある特定の目的に従って、社会やコミュニティ、個人のニーズを満たすために存在します。だから企業は社会の機関(器官)というわけです。

とはいえ、一つの企業が、社会やコミュニティ、個人がもつすべてのニーズに対応できるわけではありません。これは人体の臓器が、それぞれ固有の機能をもっていることを考えれば容易に理解できます。したがって企業は、どのようなニーズに特化して、それに対応するのかを明らかにしなければなりません。

このように、社会がもつどのようなニーズに対して何をするのかを明らかにしたものが、その企業のミッション(使命)になります。つまり、企業は社会から何を期待されているのか、ということであり、これはその企業の存在理由とも言えます。

~ミッションに基づく満足感が「やりがい」の種になる~

企業の成果というものは、このミッションに従って、社会やコミュニティ、個人がもつ特定のニーズを満たしたときに初めて達成されます。したがって、マネジャーが企業の成果に貢献しようとするならば、自社のミッションを知り、その上で特定のニーズに対処することが不可欠になります。言い換えるならば、企業のミッションを知らないマネジャーは、企業の成果に貢献することは難しい、ということです。

企業のミッションを理解し、それを信条とするようになれば、自分が成果を上げるごとに、社会の役に立っているという実感がわくでしょう。というのも、そもそも社会のニーズに応えるということは社会貢献にほかならないからです。 社会に貢献しているという強い自負心は人に大きな満足感を与えます。これは、次の成果を目指す高いモチベーションになります。そして成果が上がれば、さらなる満足感を得られます。

こうして、「成果→満足感→高い動機づけ→成果」という好循環、いわば「満足感スパイラル」を生み出せます。これを自身だけでなく、従業員にも植え付けていくことがマネジャーの役目です。従業員が「やりがい」を感じていないのではないかという、この原因は満足感スパイラルを植え付けていないからかもしれません。そうならないためにも、彼らに対して企業のミッションと普段の業務を関連づけて語れるマネジャーでありたいものです。

ただし、実際の現場では、従業員に対して、企業のミッションという、どちらかというと抽象的な話ばかりでは、彼らのやる気に火をつけるのも困難でしょう。

そこで重要になるのが「目標」です。

参考文献:ピーター・ドラッカー『マネジメント(上)』(1974年、ダイヤモンド社)

~企業のミッションから従業員一人ひとりの使命を導く~

従業員に大所高所から企業のミッションを説いたとしても馬耳東風になりかねません。これを避けるには、企業のミッションとスタッフとの関わりを理解させる必要があります。

企業組織を考えてみると、そこには多くの人材が集っています。企業が多くの人材を必要とするのは、企業が掲げたミッションを一人の人間で達成するのが困難だからです。

また複数の人材が寄り合って、より高い成果をアウトプットしようと思うと、仕事を分担する方が効率的です。こうして本部やエリアなどのセクションが生まれます。また、これら個々のセクションでも仕事を分担した方が効率的ですから、店舗やその下の各担当が生まれることになります。

このように考えると、組織のどのセクションも、企業のミッションという一本の線で結び付いていることがわかります。ただし、個々のセクションは、企業のミッション達成のすべてに責任をもつのではありません。分担された特定の分野について責任をもちます。たとえば、店舗にも企業のミッションと結び付いた、そのチーム固有の責任があります。これはそのチームのミッションにほかなりません。

仮に皆さんが店舗のマネジャーだとしたら、店舗の従業員に対して、まず企業のミッションと結び付いた自店のミッションについて説明する必要があります。その上で、自店の目標を達成するために、個々の従業員がいかなる関わりを持っているかを明らかにする必要があります。

~「強み」の強化で従業員の「やりがい」は高まる~

個々の従業員の責任を明らかにするということは、彼らがどのような領域で「何を」するのかを明らかにすることです。いわば活動対象の明確化です。

対象を明確にしたら、次はそれをどの程度達成するのか、この点を明らかにしなければなりません。さらに、それに加えて期限も明らかにしていく必要があります。「いつまでに」それを達成するのかということです。

このように「何を」「どれだけ」「いつまでに」を明らかにすることで、個々の従業員の目標がはっきりします。とはいえ、目標を与えっぱなしではいけません。この点に関してドラッカーは、「自分の強み」に注目したフィードバック分析の重要性を繰り返して言及しています。

フィードバック分析とは、当初の目標と実際の結果を比較する作業です。この活動を、1週間や1ヵ月、3ヵ月などの期限を切って定期的に実行します。そして当初期待したものと結果を比較して、「よくできたものは何か」「できるはずなのにやらなかったことは何か」「お粗末だったものはなにか」、これらの点について検討します。

その上で、次の三つを明らかにせよとドラッカーは言います。

(1)集中すべきことは何か

 (2)改善すべきことは何か

 (3)勉強しなければならないことは何か※

※ピーター・ドラッカー、中内功『創生の時』(1995年、ダイヤモンド社)P38

集中すべきこととは、「よくできた」ものについて「さらによくできるようにする」ことです。「強み」をさらに強化することと言い換えてもいいでしょう。その上で、その強みをさらに強化するために改善すべきこと、勉強することを考えます。そしてこれを次の目標に設定して、一定期間をおいて再びフィードバック分析を実行するわけです。

これを繰り返し実行することで、個々の従業員の「強み」がどんどん強化されるでしょう。それが彼らの大きな自信になり、やりがいを高めることにつながります。そして彼らの自信は、チームの成果に大きく貢献することになるでしょう。

中野明 / Akira Nakano

Planning Factory PSYCHO代表。1962年、滋賀県生まれ。立命館大学文学部哲学科卒。関西学院大学、同社社大学の非常勤講師を歴任。経済経営、情報通信、歴史の分野での著述を主に行う。主な著書に『ドラッカー流 最強の勉強法』(祥伝社)、『裸はいつから恥ずかしくなったか』(新潮社)、『腕木通信 ナポレオンが見たインターネットの夜明け』『岩崎弥太郎「三菱」の企業論~ニッポン株式会社の原点』(朝日新聞出版)など。また、『今日から即使える! ドラッカーのマネジメント思考』(朝日新聞出版)は、iPad向け電子書籍として発売3日で1000ダウンロードを超えた。中国語や韓国語に翻訳された著作は、10作品を超える。オフィシャルWebサイトはこちら

 

Planning Factory PSYCHO代表 中野明

中野明 / Akira Nakano
Planning Factory PSYCHO代表。1962年、滋賀県生まれ。立命館大学文学部哲学科卒。関西学院大学、同社社大学の非常勤講師を歴任。経済経営、情報通信、歴史の分野での著述を主に行う。主な著書に『ドラッカー流 最強の勉強法』(祥伝社)、『裸はいつから恥ずかしくなったか』(新潮社)、『腕木通信 ナポレオンが見たインターネットの夜明け』『岩崎弥太郎「三菱」の企業論―ニッポン株式会社の原点』(朝日新聞出版)など。また、『今日から即使える! ドラッカーのマネジメント思考』(朝日新聞出版)は、iPad向け電子書籍として発売3日で1000ダウンロードを超えた。中国語や韓国語に翻訳された著作は、10作品を超える。オフィシャルWebサイトはこちら

最新著

『17歳からのドラッカー』(学研パブリッシング)
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