労働契約法の改正をいま一度見つめ直そう。企業と個人の新しい雇用の在り方について

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前回の記事では、来たる4月1日を前に、無期雇用転換ルールを含む改正法の3つのポイントを簡単におさらいしました。そこで今回は、改正労働契約法がどのような目的で制定されたのかを解説しつつ、積極的な無期背転換制度の活用を通じて適切な人員配置を実現するための方法を、企業事例も交えながらお伝えします。

労働契約法が改正された目的とは?

ここまでは、改正労働契約法のポイントについてお伝えしました。しかし、ポイントを押さえていたとしても、その法律がそもそもどういう世界観を目指して制定されたものなのか理解しておかなければ、法律はただの制約でしかなくなり本質を見失ってしまいます。

そこでここからは、そもそもこの改正労働契約法がどういった趣旨で制定されたのかを改めて見つめ直すことで、正しい法律との付き合い方を考えていきましょう。

そもそも、この法改正の発端には、2008年に発生したリーマン・ショックと、それに伴って発生した世界的な不況があります。経済活動が停滞し、様々な仕事の受注や生産がストップするなか、多くの企業がパートやアルバイト、契約社員などの有期契約労働者を「雇用の調整弁」として雇止めしました。多くの労働者が路頭に迷い、雇止めを不服とする労働者と雇用主間で労働紛争が急増しました。

このような状況を解消するために制定されたのが、この改正労働契約法です。改正によって目指したのは、労働者が安心して働き続けることができる世の中です。これに沿って、労働契約法改正における3つのルールも、それぞれ以下のような目的を持ちます。

Ⅰ 無期労働契約への転換(18条)
└ 有期労働契約の濫用を抑制する
Ⅱ 雇止め法理の法定化(19条)
└ 合理的な理由のない雇止めを抑制する
Ⅲ 不合理な労働条件の禁止(20条)
└ 雇止め不安により強く主張できない有期労働者を守る

と、これだけ見ると、改正労働契約法は労働者に対して一方的に有利なものでしかないように見えるかもしれません。しかし、この改正をうけて有期契約労働者が安心して働き続けることができる世の中が実現できれば、雇用主にとっても大きなメリットになります。厚生労働省によると、無期労働契約への転換における雇用主側のメリットについて、『長く働いてくれていて企業の実務に精通する無期労働契約の社員を、募集活動を要することなく比較的容易に獲得できること』『有期労働契約から無期労働契約へ転換することで、長期的な視点に立って社員育成を実施することが可能になる』という2点が想定されています。

とはいえ、これはあくまで想定の話。実際に企業がこの改正労働契約法を受けてどんなアクションを起こしているのか、興味を持たれる方もいらっしゃると思います。そこで、ここからは各企業の無期転換制度の導入事例をいくつかご紹介いたします。

あの企業はこんなやり方をしている!各企業の無期転換事例

いくつかの企業では、単に受け身で無期転換制度を導入するのではなく、積極的に制度を活用して優秀な人材を確保できる体制を整えようとしています。ここでは世間に先駆けて制度を導入した先進的な企業事例を2つご紹介し、それぞれの企業が制度導入によりどんな効果を得たのかをお伝えします。

▸オタフクソース株式会社(製造業)
パート社員42名(2015年10月1日時点)を抱えるこちらの企業では、一定の条件を満たすパート社員(1年の有期労働契約、時給、パートタイム)を準社員(無期労働契約、月給、勤務時間が正社員の3/4以上のパートタイム)に登用する取り組みを行っています。

「①安定した雇用関係」、「②一人ひとりが会社との信頼関係を高める」、「③パート社員がより力を発揮し、活躍する環境をつくる」ことを意識して制度設計をしており、実際にパート社員のうち12人を準社員に登用しています。

制度の導入により、準社員を目指す意欲のあるパート社員が自発的にスキルアップを図るようになり、一人ひとりが積極的に挑戦していく風土づくりに繋がっているようです。また長期的には、業務に習熟している人材の安定確保や、各職場における人材育成計画が立てやすくなることが期待できるとのことです。

▸東都生活協同組合(小売業)
有期契約労働者約200名を抱えるこちらの企業では、勤続5年以上で無期登用を希望する従業員を無期労働契約に転換しています。

雇用の安定を図り、優秀な人材を確保したいという思いがある一方、現場の有期契約労働者から上がってきた雇止めに関する不安に対応することも目的のひとつでした。実際、制度導入以降、従業員の雇止めの不安は解消することができたようです。

今からでも間に合う!積極的な制度活用のためにやるべきこと

より積極的に無期転換制度を活用し、優秀な人材を確保する体制を整えて会社に利益をもたらそうとするなら、これを機に思い切って社内体制の見直しを図ると良いかもしれません。体制づくりにはぜひ以下の3ステップを参考にしてください。

1.現在雇用している有期契約労働者の現状を把握する
自社で雇用している有期契約労働者が、どの部署に何人いてどんな仕事をしているのか把握しましょう。また、いつから契約をしていて、どのタイミングで申込権が発生するのかも確認しましょう。

2.無期契約へ転換したあとの位置づけを検討する
仕事内容や労働条件などを全く変更しないまま、有期から無期に転換することも可能です。しかし、雇止めの不安解消に留まらず、優秀な人材の配置適正化や従業員の意欲向上を目指すなら、キャリアアップの道筋として正社員登用への道筋を用意したり、限定正社員など新たな雇用区分を創設することも視野に入れるとよいでしょう。

3.転換のプロセスや、転換後に適用する労働条件や就業規則を作成する
転換後の雇用区分ごとに、転換条件や試験などのプロセスを設計するとともに、その後の給与や出勤日数などもきちんと設計しましょう。

これらのステップを経てしっかりとした体制を整えることで、より合理的な人員配置を実現することが望ましいでしょう。

まとめ

今回は、改正労働契約法がどのような目的で制定されたのかを解説しつつ、積極的な無期背転換制度の活用を通じて適切な人員配置を実現するための方法を、企業事例も交えながらお伝えしました。

改正労働法は、雇止め不安を解消して労働者が安心して働き続けられることを目指したものです。労働者と雇用主の双方にとってメリットになるよう、適切なアクションをとることが求められます。

無期労働契約への転換における雇用主側のメリット
・長く働いてくれていて企業の実務に精通する無期労働契約の社員を、募集活動を要することなく比較的容易に獲得できる
・有期労働契約から無期労働契約へ転換することで、長期的な視点に立って社員育成を実施することが可能になる

無期転換制度を積極的に活用するための3ステップ
1.現在雇用している有期契約労働者の現状を把握する
2.無期契約へ転換したあとの位置づけを検討する
3.転換のプロセスや、転換後に適用する労働条件や就業規則を作成する

本稿が、明日からの人材活用に少しでもお役立ていただければ幸いです。

出典:厚生労働省ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/kaisei/dl/pamphlet.pdf
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000100036.html
*photo / photo-ac.com

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[出典記載例] 出典:求人情報サービス アルバイトレポートより(該当記事URL)

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