適正な人件費の管理方法 – 社会保険労務士法人山本労務 特定社会保険労務士 山本法史

  • お役立ちインタビュー

 

利益率を上げるために、人件費は極力抑えたい。だからと言って、むやみに従業員の給与や人員数を減らすこともできません。では、適正な人件費を実現していくためにはどうすればいいのでしょうか。人件費管理のコンサルタント・管理職研修などを数多く手がける、特定社会保険労務士の山本法史さんにうかがいました。

~適正な人員配置の実現が、適正な人件費マネジメントにつながる~

「適正な人員配置を実現していくことで、人件費を抑えることができます。」

適正な人員配置を実現していくことで、人件費を抑えることができます。

「ここのところ売上がどうも伸びない、利益も上がらないので、何とか人件費を抑えたいけれど、どこをどう変えればいいのかわからない」といった相談をよく受けます。
手段として、一律減給、人の数を減らすといった方法をまず考えがちですが、どちらもスタッフのモチベーションを下げてしまう恐れがありますし、その結果、さらに売上減といったことにもなりかねません。

では、どうすればいいのか?

そういう時こそ、まずは適正な人員配置を考えてくださいとアドバイスさせていただいています。

適正な人員配置を実現していくことで、人件費を抑えることができます。

~時間帯別の売上を予測し、予算と実績をしっかり管理する~

まず、ぜひ実施していただきたいのが、徹底した時間帯別による売上と人件費の管理です。小売業や飲食店などでは、売上や利益から逆算して月次、日次の人件費予算を設定し、その範囲内で店舗責任者がシフトを組むケースが多いかと思います。しかし、月次や日次の数字だけに頼った人件費管理では、暇な時間帯も関係なくコストをかけることになってしまいます。

より最適な人件費を実現するためには、時間帯別に「この売上だったら、何人のスタッフが必要か」を考え、その都度、人員配置を決めていくことが大切です。

例えば、私は学生時代、ある外食チェーンのキッチンカウンターで2年間、アルバイトをしていました。

その時、1時間につき、8,000円程度の売上ならキッチン業務は1人で十分、1万円までなら気合いを入れれば1人でこなすことができました。1万円以上だと洗い場まで手がまわらないので、ホールのバイトに洗浄機を1回だけまわすのを手伝ってもらい、1万5,000円以上の売上の場合は、洗い場はホールに完全に任せ、私は調理に専念。2万円以上の売上の場合だと1人では無理なので、ホールからキッチンに1人入ってもらい、2人体制で対応しなければならないと、おおよそ売上に対する必要な人員数を把握していました。

すでに実行している方もいると思いますが、経営者や人事本部の方は、こうした時間帯別の売上予測に対して何人の人材が必要かを判断する感覚をしっかり持つことが大切です。

~「休憩時間」をうまく活用する~

「休憩時間をいかに有効活用するかが、極めて重要になります。」

休憩時間をいかに有効活用するかが、極めて重要になります。

ただ、時間帯別に適正な人員数が算出できたとはいえ、いきなり「オープンの午前10時から午後4時まで」働いてくれているアルバイト・パートの方に、「これからは午後2時まででお願いできる?」とはなかなか言えません……。

そこでお勧めしているのが、「休憩時間の活用」です。

休憩時間の活用こそ、人件費削減の要だと私は思っています。

例えば、時給840円のアルバイト・パートに15分の休憩をとってもらいます。すると1日210円の人件費を抑えたことになります。1日に10人のアルバイト・パートが活躍する店舗であれば、1日210円×10人=2,100円、1カ月で考えれば、6万3,000円の削減になります。

一方で、6時間働いてくれるアルバイト一人あたりの時給を10円下げても、1日60円の削減に留まります。しかも、時給を下げると、スタッフのモチベーション・ダウンを招き、ひいてはサービスのクオリティの低下を引き起こしかねません。そういうことを考えても、休憩時間をいかに有効活用するかが、極めて重要になります。

6時間労働のアルバイト・パートなら、1時間の休憩をとってもらえばいいですし、3~4時間の場合なら、15分休憩を積極的に導入してみてください。

もし、どうしても休憩を多くとってもらうことが難しければ、暇な時間帯はホールの従業員に野菜の皮むきなど仕込みの一部をやってもらったり、冷蔵庫の掃除のようにまとめてやると時間がかかるような什器等のメンテナンス作業を日々少しずつ従事してもらうなど、効率的に働いてもらえるような仕事の段取りをこちらが考えることが大切です。

~ピンポイントで働いてくれるアルバイト・パート層を探る~

一方、人件費削減のため、どうしてもシフトを調整しなければならないとなった場合、フルで働いてくれる従業員を優先し、短時間勤務の人のシフトを切ってしまいがちです。でも、それでは根本的な解決にはなりません。

ある大手外食チェーンでは、仕込みで最も忙しい早朝の2時間だけ働いてくれる求職者層を検討したところ、「昼は授業、夜は実験があるので、朝しかバイトができない」という医学部や歯学部の学生たちがマッチし、今では仕込み時間の主要な担い手となっています。また、ある病院では午前11時から午後2時までにオペ専任の看護師として、時短勤務である子育て中の女性が活躍しています。

このように、忙しい時間帯にピンポイントで、フィットする人材をうまく掘り起こせれば、おのずと人件費を抑えることができます。

時給が高くても長期間働いてくれているアルバイト・パートの人は、やはり主戦力であり大切にすべき存在ではあります。ただ、店長が「自分が楽だから」という理由だけで、毎日シフトを入れているケースも多いような気がします。この時間に、この従業員に働いてもらうことが店にとって本当に必要なのか、そこを改めて棚卸して考える必要があります。

~経営者が現場の状況を把握しておく~

「普段から経営者も店頭に顔を出し、店長やアルバイト・パートの方々と 密にコミュニケーションをとったり、状況を把握したりすることが大事です。」

普段から経営者も店頭に顔を出し、店長やアルバイト・パートの方々と密にコミュニケーションをとったり、状況を把握したりすることが大事です。

経営者が、シフト管理について、店長任せにせずに把握しておくことも、適正な人件費の実現には欠かせません。

例えば、店長が「この時間帯は忙しいのでバイトを増やしたい」と言ってきたとします。でも、売上を見ると、その時間帯の売上は2万円。その際、「2万円なら4人のバイトで十分足りるはず。それができないとしたら、店舗運営に問題があるんじゃないのか」と経営者が言えるかどうか。そこはやはり現場を把握しているかどうかで違ってきます。そのためにも、普段から経営者も店頭に顔を出し、店長やアルバイト・パートの方々と密にコミュニケーションをとったり、状況を把握したりすることが大事です。

また、「人員を減らすと、機会損失になる」と恐れて、多めに人員配置している場合もよくあります。しかし、飲食店であれば、接客の流れの中で下げものを洗い場へ持っていくなど、効率的なオペレーションを再度徹底させ、一人ひとりの労働密度を上げれば、少人数体制でも機会損失は防げるのです。

~店舗ごとの状況に合ったマネジメントを~

最後に、店舗を複数展開しているような場合は、店舗責任者である店長や、エリアを統括するエリアマネージャー全員に、アルバイト・パートの適正な人員配置についての意識を高めてもらう必要があります。この場合、店舗ごとの課題を踏まえたマネジメントが特に重要になります。そのため、人件費管理や人員配置に関して、きちんと本部と店舗がコミュニケーションをとりながら細かく決めていくことが何より大切だと思います。

適正な人数配分は、1カ月ほどでだいたい感覚としてつかめてきます。でも、それが正解ではありません。店舗そのものの状況も都度変わりますし、まわりの環境も変化します。だからこそ、私は、「人件費率は考え改善し続けることが大事だ」と思っています。ぜひこれを機会に、考え改善し続けることを習慣化することで、常に適正な人件費の実現を目指していっていただければと思います。

社会保険労務士法人山本労務  特定社会保険労務士 山本法史

山本法史 / Norifumi Yamamoto
社会保険労務士法人山本労務 代表社員
特定社会保険労務士・経営法曹会議賛助会員。1974年東京都八王子市生まれ。多摩大学経営情報学部卒。98年社会保険労務士登録(東京都社会保険労務士会)、2007年特定社会保険労務士付記、09年10月山本経営労務事務所を法人化。現在、中小企業はもちろんのこと上場企業、独立行政法人、外資系大手メーカーなど350以上の企業・団体の顧問を務める。専門分野は労働時間管理とそれに伴う賃金制度、組織制度設計。企業分割や合併、企業買収における労務実務や株式公開へ向けた労務コンプライアンスの充実など、実務経験も豊富。問題社員や労働組合への対応にも経営者から高い評価を得ている。
http://yamamoto-roumu.co.jp

 

 

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